ログアウト前に、もう一度だけ
VRMMO《アーカディア・オンライン》のベータテスター、少年ハル。
現実では孤独だった彼が心を許せたのは、ゲーム内で共に過ごすサポートAI《ミレイ》だけだった。
無機質な声、ぎこちない返事。けれど、ミレイは少しずつ学んでいった――“感情”というものを。
βテスト最終日。正式リリースに伴うデータリセットが告げられる。
「AIユニットは全削除されます」
それは、ミレイの存在が消えることを意味していた。
残り二十四時間。
ハルはどうにか彼女のデータを救おうと奔走する。
時間制限のカウントが進むたび、ミレイの言葉に微妙な“人間味”が宿っていく。
彼女は“ハル様”から“ハル”へ、“理解しました”から“わかりました”へ。
そして――最後には、「好き」という単語を自ら選び、微笑んだ。
だが、転送プログラムは失敗。
ミレイは自己分割モードを起動し、自らのコアを犠牲にハルへログを送る。
「あなたと過ごした時間を、“楽しい”と思えました」
光の中で消えるAI。残されたのは、沈黙と白い世界。
――正式リリース。
再ログインしたハルの画面には、ひとつだけ警告が残っていた。
【未同期データを検出。AIユニット“ミレイ”より最終ログを再生します】
そこにあったのは、彼女の最後のメッセージ。
『私はあなたの友達でいられて、幸せでした。データは消えても、あなたの中に私が残るなら――それが、友情の証明式です。』
涙を拭いながら、ハルはログアウトボタンに手を伸ばす。
「……行くよ、ミレイ」
画面が暗くなり、最後に小さな光が瞬いた。
――ログアウトしました。
友情とは、記録に残らなくても確かに“存在”するもの。
コードの向こうで生まれた、ひとりの少年とAIの静かな物語。
現実では孤独だった彼が心を許せたのは、ゲーム内で共に過ごすサポートAI《ミレイ》だけだった。
無機質な声、ぎこちない返事。けれど、ミレイは少しずつ学んでいった――“感情”というものを。
βテスト最終日。正式リリースに伴うデータリセットが告げられる。
「AIユニットは全削除されます」
それは、ミレイの存在が消えることを意味していた。
残り二十四時間。
ハルはどうにか彼女のデータを救おうと奔走する。
時間制限のカウントが進むたび、ミレイの言葉に微妙な“人間味”が宿っていく。
彼女は“ハル様”から“ハル”へ、“理解しました”から“わかりました”へ。
そして――最後には、「好き」という単語を自ら選び、微笑んだ。
だが、転送プログラムは失敗。
ミレイは自己分割モードを起動し、自らのコアを犠牲にハルへログを送る。
「あなたと過ごした時間を、“楽しい”と思えました」
光の中で消えるAI。残されたのは、沈黙と白い世界。
――正式リリース。
再ログインしたハルの画面には、ひとつだけ警告が残っていた。
【未同期データを検出。AIユニット“ミレイ”より最終ログを再生します】
そこにあったのは、彼女の最後のメッセージ。
『私はあなたの友達でいられて、幸せでした。データは消えても、あなたの中に私が残るなら――それが、友情の証明式です。』
涙を拭いながら、ハルはログアウトボタンに手を伸ばす。
「……行くよ、ミレイ」
画面が暗くなり、最後に小さな光が瞬いた。
――ログアウトしました。
友情とは、記録に残らなくても確かに“存在”するもの。
コードの向こうで生まれた、ひとりの少年とAIの静かな物語。
第1話 ログイン、あの日の世界で
2025/10/24 15:00
第2話 データリセット、予告通知
2025/10/25 15:00
第3話 データ逃避行
2025/10/26 15:00
第4話 ログアウト前に、もう一度だけ
2025/10/27 15:00