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初めての仲間

公式イベントの告知から4日後。

 俺は、森と街を往復しながらモンスターを狩り、ダンジョンで罠の設置場所を確認したりと、できる範囲で準備を進めていた。


 街ではポーションを少しずつ買い足し、狩りではスライムやホーンラビットを中心に討伐。

 おかげでDPも増え、ついにモンスターコインが5枚揃った。


「……ようやく、だな」


 ポーチの中で光る5枚のコインを取り出し、一枚ずつ並べる。

 今回新たに手に入ったのは、


・無属性・木級モンスターコイン(スライム)


・獣属性・木級モンスターコイン(ホーンラビット)


 これで所持コインは以下の5枚になった。


・妖精属性・銀級


・無属性・木級 ×2


・スライム属性・木級


・獣属性・木級


 正直、銀級があるとはいえ、全体的にはまだまだショボい。

 それでも、これでようやく初めてのモンスター召喚ガチャに挑める。


 モンスターガチャは《ダンジョン経営》スキルの一機能だ。

 メニューを開いて詳細を確認すると、改めて仕組みが見えてきた。


《モンスターガチャ》仕様

・モンスターコイン5枚を消費してランダム召喚

・レア度は以下のテーブルで決定

  木級:G~Fランク

  銅級:E~Dランク

  銀級:Cランク

  金級:Bランク

  虹級:Aランク

・虹級コイン5枚消費時のみ、低確率でSランクが出現するという噂あり

・コインの属性を揃えると、その属性モンスターが確定

・混在する場合は、使った属性のいずれかがランダムで反映される


「……ってことは、今回の構成だと……」


 手元のコインをもう一度見比べる。

 無属性が2枚あるとはいえ、スライム属性、獣属性、妖精属性まで混ざっている。

 単純に考えれば、無属性モンスターが少しだけ出やすい状況だ。

 ただし、妖精属性の銀級コインがあるおかげで、運が良ければCランクモンスターもワンチャンある。


「まあ、期待しすぎると爆死するやつだな、これ」


 ベータ版経験者がまとめた非公式Wikiでも、ガチャの結果はかなり荒れていたらしい。

 全部木級コインでGランクスライムしか出なかったとか、

 金級5枚突っ込んでBランクが出ずAランクも外したとか……。


「虹5枚でSランクが出るとか、夢見すぎって話もあったしな……。そもそもβで生き残ってるやつほとんどいなかったから、

 大体は根も葉もないうわさだけど」


 でも今回は、序盤にしてはかなりいい構成だ。

 なにより、ようやくダンジョンに初めての仲間モンスターを配置できる。

 それだけで十分すぎる。


「……よし、やるか」


 深呼吸を一つして、俺は《モンスターガチャ》のウィンドウを開いた。

 画面中央に、5枚のコインを投入するスロットが表示される。

 一枚、また一枚とコインをはめ込んでいくたびに、淡い光が部屋の中に反射する。


 最後の一枚をセットした瞬間、メニューウィンドウが淡く揺れた。


《モンスターガチャを起動します》


 胸の奥がどくりと高鳴る。

 出てくるモンスター次第で、この先の戦力が大きく変わる。


「頼むぞ……俺の初モンスター……!」


 淡い光に包まれた召喚陣の中央へ、5枚のモンスターコインを投げ入れる。

 金属同士が触れ合う澄んだ音が小さく響き、次の瞬間──床に刻まれた紋様がまばゆく輝き始めた。


「お、おお……始まった……」


 緑と白を基調とした光が、渦を巻くように立ち昇る。

 心臓が嫌なほど速く打つ。

 初めてのモンスターガチャ、結果次第で今後の戦力が大きく変わる……!


 光が強まり、部屋全体が真っ白に包まれた。

 やがて、きらきらと光の粒子が舞い散り、俺の視界の前に──


「……ちっこい……妖精?」


 掌に乗るほどの小さな少女が、羽をぱたぱたと動かしながらふわりと浮いていた。

 透き通るような薄緑色の羽根に、淡い金色の髪。

 好奇心たっぷりに俺を見つめるその瞳は、宝石みたいに澄んだ碧色だった。


「ぴぴゅっ!」


 甲高い声をあげると、妖精は小さく一回転して俺の周囲を飛び回った。

 想像していたド派手なモンスターとはだいぶ違うけど……なんというか、すごく可愛い。


《初めてのモンスター召喚に成功しました》

《スキル〈モンスター図鑑〉を獲得しました》


「……モンスター図鑑?」


 気になって新しく追加されたスキルを開く。

 すると光の粒子が弾けるように視界が切り替わり、本のようなUIが目の前に現れた。


【フェアリー】

属性:風・妖精属性

ランク:Dランクモンスター

説明:風の魔法を使う小型の妖精。攻撃・回復・サポートの三役をこなす万能型。

ドロップアイテム:妖精の鱗粉、魔力のレア

召喚コスト:50DP


「……Dランク……! しかも万能型だと!?」


 思わず声が裏返った。

 妖精属性の銀級コインが効いたのか、序盤にしてはかなり強いモンスターを引き当てたらしい。


《モンスター図鑑にフェアリーを登録しました》


 通知ウィンドウが消えると、妖精は俺の顔を覗き込むように浮かび、首を傾げた。


「お前、俺の初モンスターだな……よし、名前つけてやるか」


 しばし考えてから、俺はぽつりと呟いた。


「……シルフ、ってのはどうだ?」


「ぴゅぴゅっ!」


 ぱあっと顔を輝かせるように、妖精──シルフは嬉しそうに一回転してみせた。


「よし、決まりだな。これからよろしく、シルフ!」


 シルフが肩にちょこんと乗ったまま、モンスターのステータスウィンドウを開いた。

 小さな妖精のイラストと共に、シルフの能力とスキルが一覧表示される。


【シルフ】

種別:フェアリー

属性:風・妖精

ランク:D

HP:★★☆☆☆

MP:★★★★☆

攻撃:★★☆☆☆

防御:★☆☆☆☆

俊敏:★★★☆☆

スキル:

・ウィンドヒール

・甘い風

・ウィンドボール


「おおっ、スキル3つもあるのか!」


 思わず声を上げる。

 木級モンスターならせいぜい1スキル持っていれば御の字ってレベルなのに、さすがDランク……優秀すぎる。


・ウィンドヒール


小さな風を当てることで、触れた仲間のHPをじんわり回復する魔法。

消費MPはそこそこあるが、回復量は低レベル帯なら十分。


「これでポーション消費を抑えられるな……ありがたい」


・ウィンドボール


風を球状に圧縮し、相手に叩きつける初級攻撃魔法。

威力は低めだが、弾速が速く命中しやすい。


罠や他のモンスターと組み合わせれば、序盤防衛に使えそうだ。


・甘い風


そして三つ目のスキルを見て、俺は思わず眉を上げた。


「……甘い風?」


 説明欄を開くと、こう書かれていた。


【甘い風】

微細な花粉を含む風を放ち、相手に軽い魅了を付与する。

敵モンスターを誘導することも可能。


「これ……ダンジョン運営的にめっちゃ使えるんじゃね?」


 敵モンスターをおびき寄せ、ダンジョン内に誘導して倒せばDPを稼ぎやすくなる。

 しかも魅了状態にした相手は逃げないので、効率が段違いだ。


「いやこれ、思ってた以上に大当たりかも……」


 初めての召喚モンスターが、攻撃・回復・サポートの三拍子揃い。

 しかもダンジョン経営との相性までいいなんて、想定外の幸運だった。


 シルフは俺の言葉を理解しているのか、きらきらと羽を揺らして笑っているように見える。

 俺は頭を軽く撫でると、深く息を吐きながらシルフの名前を呼んだ。


「頼むぞ、シルフ。お前がうちのダンジョンの要だ」


「ぴぴゅっ!」


 小さな返事が返ってきて、シルフは嬉しそうに宙でくるりと回転した。

 その姿を見て、胸の奥にじわっと熱が広がる。


 イベント開始まであと3日。

 ダンジョン防衛の要であるモンスターをようやく手に入れたことで、俺は次の準備に踏み出すことにした。

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