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温泉たまごとマッサージ

 アイススケートでたっぷり身体を動かした黄うさぎのミミィと、優しい茶色の毛並みをした犬のケンタは、スケートリンクを後にして、夜のキアゲハシティを歩いていました。空はすっかり群青色に染まり、街の明かりが宝石のようにきらめいています。


「ミニィ、バイオレット温泉って多分この辺りにあるんですけど、お花畑の中にあるんだって。子供なら無料で泊まれるって聞いたんだけど、どう?」


 ケンタがそう言うと、ミニィの目がぱっと輝きました。


「温泉か、いいね。身体も温まるし、私は温泉たまごが食べたいよ。」


 ミニィがそう微笑むと、空気がかすかにきらめき、どこからともなくオレンジ色の羽を持った小さな妖精がふわりと舞い降りました。妖精はキラキラとした光をまとい、花のような香りを漂わせながら、二人の前に優雅に現れました。


「黄色くて可愛いうさぎさんに、頼もしい茶色のお犬さん。ようこそ、バイオレット温泉へ。私がご案内いたします。美味しいお料理に、極上のマッサージもございますよ。」


「君は妖精なの?オレンジ色だから、どんな妖精なのかわからなかった。ぜひ案内してほしいよ。」


「はい、私はハイビスカスの妖精です。このバイオレット温泉の案内係を務めております。おふたりは、さきほどリンクで滑っていたときに氷の蝶を出現させましたね。あれは、勇気を持って挑んだ者だけに訪れる奇跡。ですから、あなた方は妖精に出会える運命を持った旅人なのです。」


 妖精の褒め言葉に、ミニィは少し照れながら答えました。


「もしかして、さっきの私たちの滑りを見ていたの?私、初めて滑れてとても嬉しかったの。でも、一緒に滑ったリスの男の子も……あの子、とても頑張ってた。


 あのリスの男の子を思い出し、ミ二ィの胸にやさしい気持ちが広がりました。恐怖に震えながらも勇気を振り絞って立ち上がった彼の姿が、今もまぶたに残っています。


「君は温泉まで案内してくれるんだね。もしかしたら、そこでまたあのリスの子に会えるかもしれないね。


「もちろんです。さあ、ついてきてください。」


 妖精のあとをついていくと、そこにはまるで夢のような庭園が広がっていました。夜のライトアップに照らされたネモフィラやヒナゲシの花々が、一面に咲き誇っています。


「この庭園の先に温泉があるんですね?」


ケンタが尋ねます。


「私、知ってる。この温泉、庭園の奥にあって、とても良い温泉なんだって。柑橘泉もあって、身体にとってもいいのよ。」


「それではここからは、乗り物にご乗車いただきます。ネモフィラザライドです。」


 妖精の言葉とともに、空にふわりと浮かぶ不思議な乗り物が現れました。ネモフィラの花のような形をしたその乗り物は、磁力で浮かんでいるようでした。


 ミニィとケンタがその乗り物に乗ると、乗り物は一気に走り出しました。夜の風が涼しく頬にあたり、お花畑の中を静かに、しかし確かなスピードで進んでいきます。


「ねえ、素敵ね……風が気持ちいいし、お花がこんなに綺麗に咲いているよ。」


「ほんとに……キアゲハシティって本当に美しい街ですね。でも、まずは温泉で身体を休めて、これからのことを考えましょう。」


 乗り物に揺られて10分ほど経つと、バイオレット温泉の建物が見えてきました。玄関の自動ドアをくぐると、そこには動物たちの従業員が忙しく働いており、受付には一頭のトラの従業員が立っていました。


「いらっしゃいませ。2名様ですね? おお、旅のお方ですね。どうぞお泊まりくださいませ。」


「はい。一泊でお願いします。」


「承知しました。それでは30号室を……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ミニィがあわてて口を挟みました。


「私たち、付き合っているカップルとかじゃなくて、ただの旅仲間です。部屋は別にしてください!」


「かしこまりました。では、黄うさぎのお客様は206号室、犬のお客様は301号室をご用意いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください。」


 ふたりはバスタオルと湯タオル、それにふわふわの浴衣を受け取りました。ロッカーキーも手渡されましたが、ミニィはやや不満げな表情を浮かべました。


「まったく、子供同士を同じ部屋にするなんて……何を考えているのかしら。男女なのに。」


「まあまあ……初めてのお客さんだったから、きっとわからなかったんだよ。でも、まずは夕食にしよう。何があるかなぁ?」


「私もお腹が空いちゃった。きっといろいろあるんでしょうね!」


 そしてふたりはレストランへ向かいました。テーブルにはお刺身、天ぷら、白ご飯、もつ鍋、しゃぶしゃぶと、豪華な料理がずらりと並んでいました。


「うわぁ……こんなにいっぱい……。私、こんなに食べられるかしら?」


「食べきれなかったら、僕がもらうよ!」


「いただきます!」


 ふたりは笑顔で箸を取り、美味しい夜ごはんを堪能しました。


***


 食事のあとは温泉。ミニィは女湯に入り、ほんのり花の香りのするお湯にゆったりと浸かりました。紫色の花びらが浮かぶ湯船には、柔らかな光とともに静かな琴の音が流れ、心まで癒されるようでした。すると温泉の中にネットに入った卵が浮かんでいるではありませんか。その卵は温泉たまごで温泉に入ると無料でもらえるというもの。


「うん、しあわせだわ。温泉たまごも美味しいし。」



 しばらくして脱衣所に戻ると、ハイビスカスの妖精がマッサージルームへ案内してくれました。ふかふかのベッドに横になると、妖精の小さな手が優しく肩を押してくれ、スケートで疲れた身体がほぐれていきました。


「ミニィさんは、どうして旅に出たのですか?」


「私は世界を渡り歩くパックパッカーになりたいんです。どんな環境でも暮らしていけるようなそういう黄うさぎになりたくて。」


「そうなんですね。良い夢ですね。」


 ケンタもまた男湯で温まり、マッサージルームではチョウチョの妖精に羽根で優しくほぐしてもらいました。ふわふわの風がそっと頬にあたり、思わずうとうととまどろみます。


「ふあぁ……寝ちゃいそう……」


***


 夜も更け、ミニィは自分の部屋でお布団にくるまりながら、今日の出来事を思い出していました。


「明日は、あのリスの子に会えるといいな……」


 一方、ケンタも窓の外に広がる星空を眺めながら、静かに心の中で願いました。


「明日も、きっといい日になりますように……」


 こうして、温泉宿のあたたかな空気に包まれながら、ふたりの旅の夜は静かに過ぎていきました――。

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