氷の蝶と約束の影
「そろそろ帰ろうか?」
ケンタがそう言いかけたそのとき。
リンクの端に、ひとりぽつんと立っている小さなリスの子が目に入りました。
その子は赤いマフラーを巻いていましたが、スケート靴はまだ新品で、氷の上で立つのもやっとという様子です。
「うまく滑れないのかな……」
ミニィがそうつぶやくと、リスの子は気まずそうにうつむきました。
「こわいんだ……氷って、すごく冷たいし、すぐ転んじゃうし。みんな、すごくうまくて、ぼく、ぜんぜん……」
「わたしたちも、最初は怖かったよ。ほら、さっきまで何度も転んでたのよ、ケンタなんて、しりもち三回も!」
「ミ、ミニィ、それ言わなくていいから!」
ふたりは笑いながら、リスの子に手を差し伸べました。
「大丈夫。一緒に滑ろうよ、最初の一歩は、誰かとならきっと楽しいよ。」
リスの子は、少しだけ頬を赤らめながら、ミニィの手をそっと取りました。
* * *
それからしばらく、リンクの上では小さな3人の輪ができていました。
リスの子は最初こそふらふらしていたものの、ミニィとケンタの励ましに背中を押されて、だんだん笑顔を見せるようになります。
「ぼく、もう怖くないかも! わあ、滑れた!」
その瞬間――
リンクの中央で、ひとすじの風が舞い上がり、
空中にキラキラと光る氷の蝶が、ゆらりと姿を現したのです。
「……あれって……!」
「うそ、伝説の氷の蝶……!」
それは、氷と風の神話に登場する“祝福の蝶”。
このリンクで誰かが心から勇気を出したときだけ現れる、と語り継がれてきた存在です。
氷の蝶は、そっとリスの子の肩にとまり、小さく羽ばたきながら、やがて空へと舞い上がっていきました。
「ありがとう、ふたりとも……。ぼく、きっともっと滑れるようになるよ。いつか、また一緒に滑ってね!」
リスの子は何度も手を振りながらリンクをあとにしました。
ケンタとミニィも、氷の羽カードをもう一枚、風の鐘に結びました。
「勇気は、いつだって誰かと一緒に見つけられる――」
空を見上げると、風はまたふたりのまわりを包み込み、
金色の夕日が、氷のリンクをやさしく染めていました。
その日ふたりは、ただスケートを楽しんだだけではなく、
新しい友達と、心をあたためる小さな奇跡に出会ったのです。




