光と影の峠
ヨウカン山の狼たちを退けたミニィとケンタは、やがて山道の終わりへと近づいていきました。
目の前には、キアゲハシティの門がほんのりと霞みの向こうに見えてきています。
けれど、その手前に、ひとつだけ最後の試練が待ち受けていました。
それが――**光と影の峠**と呼ばれる、不思議な場所です。
「ここを越えたら、本当にキアゲハシティなんだね……」
「うん。でも……見て、ケンタ。この道、左右がまるで鏡みたいに違う……!」
ふたりの目の前には、左に明るい小道、右に暗く深い森道が分かれて続いていました。
どちらも「キアゲハシティへ通じている」と、峠に立つ朽ちた標識が告げています。
けれど、小道のほうには白い蝶が舞い、森道のほうには黒い影がゆらめいていました。
「……この道、ただの選択じゃない気がする。心を見られてるみたいだ。」
ケンタがペンダントを握りしめながら言いました。
ふと、そのとき。左右の道の真ん中に、ひとりの老人が現れたのです。
顔はフードで隠れて見えません。でも、どこか知っているような――そんな声で話しかけてきました。
「光を選べば、君たちは何も傷つかずにすむ。
だが影を越えれば、真実の心を知るだろう。
さあ、選びなさい。おまえたちの旅の意味を――」
ミニィがケンタの手をぎゅっと握りました。
「私は……もう、逃げるのはいや。怖いものも、痛いことも、きっと避けちゃだめなの。」
「ミニィ……僕も、同じ気持ちだよ。旅っていうのは、きっと“自分に会いに行くこと”なんだ。」
ふたりは、迷わず**右の“影の道”**を選びました。
暗く湿った森。
どこからか、自分たちの心の声のような囁きが聞こえました。
「君には向いていないんじゃないか?」
「どうせ、何も変わらない……」
「やめてしまえば、楽なのに……」
でも――
ミニィはその声に背を向け、静かに答えました。
「……それでも、進むの。私たち、もう変わりはじめてるもの。」
風が吹き、闇がゆっくりと溶けていきました。
そこには、朝の光に包まれた街――
キアゲハシティの門が、静かに開かれていたのです。
「ようこそ、勇気と希望の街へ。」
ふたりの胸に、静かに鐘の音が響いていました。