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ラブコメディ

虐げられアルミホイルかぶった少女が幸せになるまで

作者: 地野千塩

 私、戸川ハツセの母は変人だった。特に陰謀論やスピリチュアルが大好きで、私もよく付き合わされたものだ。


「ハツセ、大変よ! このままだと思考盗聴されるわ!」


 十四歳になったある日、母が大騒ぎしていた。なんでも宇宙人に思考を盗聴される危険があると、頭にアルミホイル・ハットを被せられた。


「ふぅ。これで安心よ」


 母はほっと胸を撫で下ろしていたが、別にそんな事はなかった。


 なぜかアルミホイルが頭皮にくっつき、脱げない。


 どこの病院に行っても無駄だった。結果、母だけが精神病院に入院となり、私は親戚の家をたらい回し。ちなみに両親はとっくに離婚していたので、父に頼る事も不可能だった。


「何このアルミホイル! アルミホイルかつぎ姫かよwww」

「気持ち悪い!」

「陰謀論? スピリチュアル?」


 などと言われ、いじめられるようになった。


 どうにか高校までは行けたけれど、私はこんな世を儚み、川に身投げを決行。


 ドボン!


 ああ、これで楽になれるかと思ったが、あのアルミホイルが浮き輪がわりになってしまい、全く身体が沈まない。母がフリマアプリで一万円ポッキリで買ったアルミホイル・ハットだが、特別な浮遊力でも装着されていたか?


「おい、あんた。大丈夫か?」


 結局、側に通りかかった老人に助けられた。老人は大金持ちの家で使用人をやっているらしく、私もそこでメイドとして働く事になってしまった。なんせ今は人手不足だから、こんなアルミホイル被った少女でも働いて欲しいらしい。


 もっともメイド頭や下っ端のメイドには激しいいじめにあったが。


「陰謀論者きっも!」

「ワクチン打ってみろよー?」

「思考盗聴なんてないからwww」

「うま味調味料食べろや」


 靴や下着も隠せられ、また死にそうになったが、ディープステートの陰謀論を見ながらどうにか正気を保っていた頃。


 お屋敷の若旦那様が海外留学を終えて帰ってきた。金持ちのハイスペだったが、親しみやすく、使用人達には「坊ちゃん」と呼ばせ、とても明るい人物だった。


「え、まじ!? アルミホイルって頭に被ると思考盗聴を防ぐの!?」

「さあ、うちの母が言っていただけで、真実はわかりません。信じるも信じないのもあなた次第です」

「そっかー。でも留学で行ったアメリカは陰謀論の本場だったし、君みたいな子は特に珍しくないよ」

「へえ……」

「起業セミナーでフラットアースとかイルミナティとか勉強したし」

「そうなの!?」


 なぜか分からないが、若旦那様は私を気に入り、しょっちゅう声をかけてきた。話題はディープステート、食糧危機、宇宙人、人工地震、ワクチンの中身などの陰謀論ばっかりだったが、二人で話すと楽しい。


 ある日、屋敷の裏で掃除していたら、うっかり若旦那様と二人きりになる事もあった。


「ハツセ! なんか面白い陰謀論ない?」


 彼は無邪気に話しかけてきた。尻尾を振った犬みたいで可愛いなどと思った。思考盗聴されないで本当に良かった……。


「えっと、最近は食糧危機がホットな話題よ。田舎に行って自給自足した方がいいかも」

「なるほど」

「信じてくれるの?」

「ああ、ハツセの言う事は信じるよ」


 無邪気な笑顔に胸がキュンと踊る。本当に本当に思考盗聴されなくて良かった。


「僕の母も精神疾患で薬漬けにされてずっと病院にいたからね」

「そうなの……」

「だから君の気持ちもわかるよ」


 そんな過去も語る事もあり、ますます私達の仲は深まり、ついに彼は「婚約しよう」とまで言うが。こんなアルミホイルを被った陰謀論者二世を嫁として受けいられるわけがない。激しい差別にあってしまう。


 その上、若旦那様の一族は屋敷に美女を大量に連れてきて婚活パーティーまで開催してしまったが、その最中のこと。


『イマスグ田舎ヘニゲナサイ。地震と食糧危機ガオキル!』


 頭のアルミホイルから妙な声が聞こえてきた。


 その声は切迫し、嘘を言っている気がしない。嫌な予感もし、私は若旦那様に駆け寄った!


「お願い! 若旦那様、これから私の言うことを信じてください!」

「え、ハツセ。どういう事だい?」


 他の人は全く信じてくれなかったが、若旦那様と私を川で助けたあの老人だけは信じてくれた。


 三人で田舎の別荘に逃げると、都会では本当に地震や津波、火災が発生し、食糧危機も始まってしまった。


「ああ、ハツセ! 君の言った通りだよ!」

「若旦那様!」


 二人で田舎に逃げられた事を喜んだ瞬間、頭のアルミホイルが脱げた。今までは呪いのように脱げなかったのに、なぜかあっという間だった。


「ハツセ、アルミホイルを脱ぐと本当に美人じゃないか」

「えー? そう?」

「まじ可愛い。結婚しよう!」


 という事で私達は結婚し、田舎でスローライフをしながら、末長く幸せに暮らした。


 若旦那様は商才もあったので、農業や酪農でも成功したが、お金は恵まれない子供やシングルマザーに分け与えた。


 それでもなぜか事業は拡大し、アルミホイルも社長の命を救ったとし、幸運グッズ化されている。私をモデルにした「アルミホイルかづき姫」という物語も編纂され、映画化もされるらしい。


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