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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者の秘剣

作者: 夜蛙

■序文


はるか昔魔族と呼ばれる種族の領域にて、剣のものと思しき柄が発見された。


考古学者の分析から、資料に記された「勇者の魔剣」の意匠と一致が見られ、かつてこの世界にいたとされる「勇者」の愛剣であると結論付けられた。


曰く、魔族を滅ぼし世に平和をもたらした。


曰く、異界よりの転生者であった。


曰く、当時の人間には理解しえない加護を享けていた。


しかし、その「勇者」に関する記述はあまりにも少ない。


ごく短期間のみ活躍した人物であるとの説が最有力とされており、その為人について深く理解することは叶わない。


本書は彼に関する一次資料から可能な限り時系列を整理し、道程を探る助けとなるよう記すものとなる。


どうか我らの名もなき英雄について、永く後世に語られる一助となれば幸いである。


---


■洞窟に独り住むドワーフ鍛冶師の日記より抜粋 1


こんな辺鄙な土地へヒューマンが一人訪れた。


妙な胸騒ぎと、体中が熱くなるような雰囲気を持つ男だった。


大きな金属塊-静かに青白く光るような、鉄でも魔法銀でも、今までに見たどんな金属でもない何か-を抱え、一振りの剣と、剣を収める鞘を二つ求めた。


さらに細かい注文を付けると「急いでいるので条件が満たせないなら他をあたる、できそうになければ今言ってくれ」などと宣いおった。


安い挑発だが、そいつの熱気に浮かされたか剣を鍛えてやることにした。


よくわからん初物とはいえ、剣と鞘を拵えるのに三日も徹夜をするハメになったが何とか形にし、くれてやると男はそそくさと去っていく。


やれ住処を替えろ、水を汲んできてよく体を濯げだの余計なお世話だ、臭いで曲がった鼻を殴ってやれば元通りになったかもな!


無理がたたったかめちゃくちゃに体が重いが、ひと眠りすれば調子も戻るだろう。


---


■勇者の移動に係る、民への移動制限に関するお触れ


王命 第521番 肥夫の日 公布


期間 公布日より矮児の日まで


内容 獣狗の谷より詩語の丘までの旧道全域に対し、一切の進入禁止


上記に反したものは即座に捕縛し、拘禁を許可する


文字の読めない者などにも広く伝え、付近の村については旧道より疎開させること


---


■王命第521番の発令期間中、進入禁止地域で捕縛された野盗の証言記録


剣と空の鞘を下げた男を襲ったら、構えられただけで全員やられちまった。


よっぽど強えぇやつだったのか、あんな雰囲気は二度と感じたくねぇ……。


仲間は何人かその場で震えて死んじまうし、俺もまだ寒くて仕方ねぇんだ。


あいつは何だったんだよ、お触れを知ってたら俺たちだって逃げたさ、クソッ!


水をくれ、喉が渇いて仕方ねぇんだ!


---


■天変地異に関する速報

矮児の日、深夜

詩語の谷のはるか先、夜間に魔族領の深くにてまばゆい光と天を衝く柱のような噴煙が確認された


---


■王と辺境伯使者との謁見の記録より抜粋


王:では、魔族の統率が失われていると?


辺境伯使者:もはや軍としての体裁は保っておらず、また戦闘能力についても著しく低下している状況でございます


王:強い光と柱のような煙が上がった後、魔族に大きな打撃が与えられるとの勇者の言が果たされたということか


辺境伯使者:大いにあり得ることかと思われますが、断言は致しかねます


王:予め伝えられていた状況に一致しておる、あやつが果たしたと考えてよかろう


辺境伯使者:では、予定通り一年ほどは領土の防衛に努め、魔族領内部の調査はその後行ってまいります


王:許す、勇者が帰還した際、詳細の聞き取りを行うように


---


※勇者が帰還に関する記録は確認されていない


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■洞窟に独り住むドワーフ鍛冶師の日記より抜粋 2 ※前出の抜粋より約2年後


ちょっと前の馬鹿デカい光は勇者とやらのやったことらしい。


聞きかじりだが、どうも例の妙な金属を持ち込んだヤツが勇者とやらで間違いないようだ。


ヤツが勇者なら、儂の拵えた剣が魔族どもを滅ぼしたってこった。


最近ますます体が重いが、魔族どもの呪いでも儂に降りかかってるのかもしれんな!


今日は旨い酒が呑めそうだ。


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■末筆


以上が確認された勇者の道程となる。


平和な世は維持する意思なくば保たれず、また乱すことは実に容易である。


彼の全てや彼の為人が解き明かされることはおそらくないだろうが、現在の生を謳歌するものとして名も残されぬ勇者がいたこと。


読者諸兄にそういったものが残せれば幸いである。


---


---


---


---



魔族領への進入後、鉛の鞘は打ち捨て体を軽くし、ひたすらに進む。


抜き身の剣を振るいつつ朦朧とする意識の中、魔王と呼ばれる存在の眼前へと到着した。


嘲るようにがなり立てる魔王とやらは、もはや立っていることも満足にできない俺を見てにやついている。


右手に握った剣を動かしても、様子見を続けている魔族たちを見て、内心ほくそ笑む。


「秘剣 魔神の心臓」


腰から抜いた鞘を体の正面に構え、剣を勢いよく納めた。


ピカッ

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