その7 意味は皆無
(7)
その蜥蜴の前で一時間、ロダンは話を聞いている。聞いてはいるが、それは立ち続けている訳ではない。
「――まぁ座りなはれ、そこら辺に散らばっている本を重ねて椅子にしたらええ。どうせ誰も読まぬ本や、そうして重ねて椅子にしたらええ」
そう言われロダンは長身を折るように本の椅子に腰かけた。
だが、そこでデアル。
(…言わなきゃ良かったかな)
挨拶もそこそこにロダンは店主、興梠轆轤へ用件を切り出したのだ。
――そういえばご店主、十三に『卍楼』ってあるじゃないですか。つかぬことを聞きますがね、そこで『薔薇』という言葉を何か知りませんか?
「そいつには意味があるっ!!」
蜥蜴、…いや、興梠轆轤は目をカッと突然、見開いた。
(ひぃぃ!)
瞬間、思わず声が出そうになったが、歯を食いしばってロダンは堪えた。堪えて数秒、興梠轆轤は背に手を回すと一冊の本を取り出した。そしてページを開く。やがてどこかのページで指が止まると、興梠轆轤は話出した。
「…財前君から事前に連絡を貰っていてなぁ…、それであんたが来るまでに少し調べていた」
その言葉にロダンは少し怯えながらも、思わず身を乗り出して言った。
「そ、そうなんですか…興梠さん」
「轆轤でええ」
轆轤はその動きを制するかのように轆轤の指が跳ねて動く。
「ああ、待て待て。別に結論を急いてもしょうがない」
それから轆轤は爬虫類のような細長い目で何かを見る。
「薔薇っちゅうのは、そもそもあんまり日本には馴染みがない。そやろ?歴史的に何か薔薇に関するような事、聞いたことあるか?蘇我氏物部氏、聖武天皇、空海、信長、竜馬うんぬんかんぬん」
ロダンは(確かに…)と頷く。
「やろ?」
それを横目でじろりと見てから轆轤は言う。
「だから結論として、歴史的には『薔薇』というそんな痕跡をあの十三の土地と関連付けて見つける事なんて皆無や」
…でアル。
ならば、ロダンはそこでこの件はもう終いだと感じた。感ずれば用は無い。あとは席を立つだけだ。だから僅かに腰を浮かせた。
だが…、
「それは日本に於いてという事や、ロダン」
言うと轆轤は手元にオレンジ灯を引き寄せた。




