桐島 蛍
キーンコーンカーンコーン。
「じゃあ、これで今日の講義を終わります」
骨太い声が教室に響き渡り、教授が教室を出ていく。たちまち、教室内の喧騒が大きくなっていった。
ぶわっ、とだらっとしたムードから一気に活発的なムードに変わる。
『サークルいこーぜ』『今日どこいくー?』そんながやが広がって、教室から生徒がどんどん去っていく。
「なーにぼっとしてんだよ」
「……っお」
後ろから小突かれる。
振り向くと貴志がニヤッとした表情で俺を見ていた。
「いやあ、今日も涼ちゃん可愛いなって」
「正気か?」
「貴志には良さがわからんかあ」
前園 貴志。
大学で一番初めに仲良くなった友人。名前が『ま』から始まるので最初のほうはずっと隣同し。
それのお陰で、すぐ仲良くなった。サークルも同じだし、意気投合して大抵遊びには貴志がいる。
大学で一番の親友と言っても過言ではない。
「将太って変な趣味あるよな」
「失礼だな、純愛だよ」
「どこぞの名言を使うな」
鋭いツッコミ。
やはり貴志はコミュニケーションスキルに長けている。だからこそ、大学が始まって2ヶ月とそこらだが、顔が広いのかもしれない。
「お前の何がそんなに涼ちゃんを突き動かすんだ」
「悔しいが性欲だ」
「悔しすぎるな」
そう言って貴志はケタケタを笑い始める。
笑う横顔をみて、やはりイケメンだなあ、と実感する。なんて言えばいいのか、無邪気な笑顔と真顔とのギャップだろうか。
やはり女性はそういうとこに惚れるのだろうか、実際貴志はもう告白されたらしいし。
「まあ、いいや。サークル行こーぜ」
「そーだな」
体育館に着くと、既に先輩がアップをはじめていた。
「おう!貴志とそれから……将太ッ!」
「先輩今俺の名前忘れてましたよね」
「わざとだよ、わざと。可愛い後輩には意地悪したくなるもんだからな」
うん、嘘だ。
顔に う そ と書かれているかのような表情。
絶対忘れてる。っていうかこの先輩いつになったら俺の名前すっと出てくるようになるんだ。
もう2ヶ月居るというのに。
「そいえば、今日新しいプレイヤー入るらしいぞ」
「へぇー」
「興味ないな、女子なんだけどなあ」
「先輩詳しく」
「さすが将太、ド変態だな」
先輩は、クスクスと笑ってその新入部員のことを語った。
歳は俺と同じ20。
学部は理工学部。
身長は156cm。
カップは恐らくEらしい。
あと可愛いらしい。
「とりあえず着替えてこい、そろそろ始まるぞ」
「わかりました」
「ってことで、知っている人は知っているだろうが今日から新人が入ります。どうぞ」
「はじめまして、1年理工学部の桐島 蛍っていいます」
体育館の端から、ピョンピョンと跳ねるようにでてくる。なんとも可愛らしい動きで呼び出して来たのは、ショートの少女。
茶色の髪色と、聞いた通りの体つき、それとむっちりとした太もも。
『可愛い』『小動物みたい』そんな茶化すような言葉が飛び交う。
「桐島 蛍……?」
温かい空気の中、俺の心の中は少し曇っていた。その名前に、見覚えがあったからだ。どこで聞いたかは覚えてない。
何故かその名前が引っかかった。
「どうかしたか?将太」
「あっ……いや、なんでもない」
表情が曇っていたのか、貴志に指摘される。
「じゃあこれからよろしく」
「よろしくお願いします!」
そうして、通常通りの練習が始まった。