少女
夢を見た。
誰かの記憶のような。
そんな奇妙な夢。
ゆったりと流れる川と、その川を沿うように繁茂した草。
月の光を浴びて草は、神々しい光沢を纏っている。
ただ、神秘的なのはそれが原因ではなかった。
その空間を支配していたのは、当たりを飛び回る『蛍』だった。一匹一匹が、全身全霊で光を放っている。ここが最期といわんばかりに。各々の色の濃さがまた、その神秘さ一層増していた。
なんて美しい、
その単純な感情で胸はいっぱいになる。
「綺麗だ」そう言葉に出そうとするが、それは叶わない。
そうこれは夢なのだ。
言葉も発することもできなければ、手足を自由に動かすことも出来ない。
できるのは呆然とこの光景を脳裏に焼き付けること。
しかし、夢……のはずなのに、なぜこんなにも現実味があるのか。
意識だけ誰かに乗り移ったか、のような状態。
ただ、その光景に見惚れ呆然としている。それだけなの夢なのに、何故こんなにも胸が締め付けられるように苦しい。
あつい。あつい。
蛍の光が強くなる度に、胸の奥が熱くなる。
それに呼応するように、視界がぼやける。
ピシャリっ。
遠くの、水が跳ねる。
ピシャリっ。
また水が跳ねる。
ピシャリっ、水は一定間隔で跳ねる。
その波紋は、徐々に近づいてくる。
胸が熱い。
今までよりも更に。
「ああ、分かっているよ蛍」
言葉が出る。
「やっと見つけてくれたんだね」
どこからか声が響く。
その声は脳内に響くかのように届く。優しい、心地よい、聞いたことも無いのに心をグッと刺す声色。
ピシャリ、と目の前で水が跳る。
「ほんとに……っ……すまないッ」
「んーん、気にしないでいいの」
蛍の光が一点に集積する。
「過去の俺に全て託すよ、絶対にたすけるから!待っててくれ縺サ縺溘k」
「待ってるね、しょーた」