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【2】一人残された姉リュディーヌ

 

「お嬢様、旦那様と奥様がお亡くなりになりました……」


執事のホルスがリュディーヌの部屋を訪れて、色の無い声でそう告げた。

ホルスの後ろには、王宮から監視として派遣されている騎士が二名控えている。

リュディーヌは指の付け根の骨がくっきり浮かび上がるほど、その手を強く握りしめた。

──両親は、可愛がっていたエディットが罪人となり、処刑を待つ身であることに耐えられなかったのだ。

二人は、自分たちが自死を選べば、リュディーヌがたった一人残されることなど少しも思い浮かべなかったということだ。

分かりきったことだった。

両親にとってエディットだけが可愛い娘だった。

繰り言に取られる時間はない、やるべきことをやらなければ。

リュディーヌは執事のホルスに向かって言った。


「ホルス、お願いがあるの。ホルスの判断でこの館の使用人を最低限にする人選をしてください。私付きの侍女もメイドも必要ありません。

辞めて貰う者には男性女性関わりなく同じように、私と母とエディットの宝石箱の中の物を慰労金として分けてください。

申し訳ないけれど、ホルスには最後まで居て貰いたいの。お父様のカフスとタイピンはすべてホルスの物にしてください」


父のカフスとタイピンにはダイヤが使われている。長年勤めてくれたホルスへの退職金になるだろう。


「かしこまりました。それでは料理人のダン、メイドのネリアを残します。その二人を含めて使用人全員の紹介状を書きますので、お嬢様にサインをお願いします」


「それについて、騎士の方にお願いがあります。

解雇する従者たちの紹介状に、第一王子殿下のサインを頂戴することは可能であるか、ご確認を戴きたいのです。

一介の、しかも犯罪者を出した伯爵家の使用人の行く末に、第一王子殿下のお手を煩わせるようなことを願うのは筋違いも甚だしいと存じておりますが、妹の起こした事件は第一王子殿下が采配なさると伺っております。罪の無い使用人が憂いなく次の職に就けるよう、どうかお願い致したく存じます」


「第一王子殿下への紹介状へのサインの件につきまして、これから王宮に使いを出して確認に参りますのでしばらくお待ちいただきたく」


二人の騎士のうち、年嵩のほうの騎士が答えてくれた。

没落が決まった伯爵家の小娘に対しても終始丁寧な物言いと態度で、それだけのことでどれだけ落ち着いて考える余裕が生まれたことだろうか。


「ご配慮に心から感謝いたします」


リュディーヌはそのままの服で、執事のホルスと共に、永遠の眠りについた両親の部屋に向かった。

ホルスも騎士も扉の内側に立ち止まった。リュディーヌだけがその奥の部屋へと歩を進める。

部屋の中で強めに焚かれた香の中に隠しきれない死の臭いが立ち込め、それはリュディーヌの肌に容赦なく滲みてきた。

リュディーヌは二人のベッドに近づけず、その場でしゃがみ込んだ。

本当の娘ではないと知ってからも、少しもそれを感じさせないくらいに慈しんで育ててくれた父母だった。

その二人を見送るのが実子ではない自分で申し訳ないという気持ちが溢れたが、泣いてはならないと涙は堪えた。


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