【13】灯台の夜に思うこと②
両親はエディットに疲れていたのだと、今になって思う。
待望の実子があのようで、父には『長女のおまえがアルドワン伯爵家の跡取りだ』と言われ続けた。父は私が叔母から本当の娘ではないと聞かされていたことを知らなかった。
オールストン公爵家にエディットを嫁に出すと決めたのも、公爵家ならばエディットを公爵家の嫁に相応しいように、教育しなおしてもらえるだろうという甘過ぎる考えだったのか。
十七歳になっても変わらない、むしろ望まない方向にパワーアップしているエディットを見て、どうして父はそう思えたのか。
おそらく、父は分かっていなかったのではなく、辛すぎる現実から目を逸らしていたのだ。
アルドワン伯爵家の親戚筋は小うるさい者たちが幅を利かせている。
なかなか子に恵まれないことで母も責められただろうし、やっと生まれた実子がエディットのようであることも父は槍玉にあげられていただろう。
十歳の私に嬉々とした顔で、おまえは孤児院に捨てられていたのだと伝えてきた叔母のような人たちから、父も母も苦しめられていたのだと思える。
エディットは、婿を取って家を継がせるという名目でアルドワン伯爵家に閉じ込めておくべきだった。エディットが次女であっても、長女の私が実の子ではないなら不自然なことではない。
それなのに公爵家の嫡男と婚約させたのは、親戚筋への意趣返しの気持ちがあったのではないか。エディットは公爵家に望まれて婚約できる娘なのだと、証明できるような気がしたのではないか……。
「両親が私を残して自死したのは、可愛いエディットの最期から目を背けたかったというより、両親のこの世に繋がれていた鎖が擦り切れてしまったのかもしれない……」
灯台に来てから、当たり前になっていた独り言を言う。
私なら、一人置いていっても生きていけると思われただけなのだ。
そう思うと、両親もエディットのことも憎む気持ちにはなれない。
エディットのしたことは到底許されることではないが、善意も悪意もまっすぐ受け止めることしかできないエディットに、イヴリン嬢も何か悪意をぶつけたのではないか。
私は孤児院に捨てられていた子供だったけれど、両親からエディットと分け隔てなく育ててもらったし、エディットからあの絵本の主人公のように嫌がらせをされるようなこともなかった。
むしろ、私がもっとエディットにできることがあったのではないか……。
エディットが捕縛されてから、イヴリン嬢に何と言われたのかをエディットがどうしても言わないと聞かされてとても驚いた。
エディットはそんなふうに言葉を秘めておくことなどできない性質なのに。
余程のことを言われたのだろうか。
もしかしたら、妊娠していたことでイヴリン嬢に何か言われたのではとずっと考えている。
王家からの聞き取り調査の最後に、エディットが妊娠していたことを知っていたかと聞かれた。
本当に知らなかった。
エディットは妊娠している初期の段階でどうして気づくことができたのだろうか。
誰かが教えたのだろうか。そんなことができる人物は限られている。
そのことに恐ろしさを感じて、それ以上考えるのをいつもここで止めていた。