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80:ダチョウとヤダヤダ





「は? 共和国が攻めてきた?」


『はい……。』



アメリアさんに教えてもらった『第三の手』。魔力で人の手の形を再現して動かすやつね? それの習熟をしながら聖書片手にこの世界の宗教について理解を深めようかなぁ、なんて考えてきたら急に軍師からヘルプ電話かかってきちゃった。あ、ごめんマティルデ。そこで『コロスゥ! ブッ殺してやるぅ!』って言ってる変態抑えといてくれない? 通信の魔道具破壊しちゃいそうなくらい狂っちゃってるから。



「えぇ……エウラリア殿私より力強いのに? まぁやるが……。」


「んで軍師。さすがに急すぎるから一から説明してくれ。じゃないと何もできん。」


『かしこまりました。では最初から。』



後ろで顔面が悪鬼羅刹になってしまった変態、『不死』のエウラリアちゃんを見たせいか即座に精神を再起動させていつも通りの話し方に戻ってくれる軍師。いや連れてくる気はなかったんだよ? でもなんか『あ、お姉さまがあっちの方行ってる、ついて行ってみよ~。』なノリで勝手に来たと思ったらお前の顔見て発狂し始めたわけだからさ。いやごめんね? でも内容次第じゃそっちの救援に連れていくと思うけど。



『後処理絶対大変なことになると思うので私に近づけないでくださいね? ほんと。ではとりあえず共和国に放っていた諜報員からの報告を述べさせていただきます。本日共和国の方では緊急の会議が開催されていたそうで、そちらに忍び込んでいたものからの情報です。』


「……相変わらず手広いなぁ。」



こいつのことだから私たちのホームとも呼べるプラークにも何人か忍び込ませてるんじゃないか、なんて思いながら彼の報告を聞く。


なんでも共和国の皆さんが即座に『あれ? うちの特記戦力であるエウラリア殿裏切ってね?』という話になり、『よっしゃなら報復戦争や!』で即日攻め込んできたらしい。……決断早すぎない? 戦闘狂? やっぱエウちゃんみたいな変態排出する国は上も頭アレなんですかね……?



『まぁ皆さん非常に好戦的と言いますが、自身の土地・利益に悪影響を及ぼすとなるとその相手を全員殺しつくすまで止まらないところはありますね。正直ナガンの北にそんな国家があるの怖すぎるので、可能ならば解体して文化侵略したいです……。』


「あ~、そういう“悪影響”の判断基準を相手が勝手に決めてくるようなものだから、いつ攻めてくるかわかったようなもんじゃない、って感じか。しかもこれまでは不死の軍勢いたわけでしょ? そりゃ仕方ない所もあるわなぁ。」


「フジャグリュゥゥゥウ!!!!」



解体して~のあたりでさらに暴れ出すエウちゃん。両脇をマティルデに抑えられている上に、何事かと飛んできたアメリアさんの魔法で全身をツタで固定されている状態だが、キレ過ぎていて今にも飛び掛かってきそうな状態だ。



『それでなのですが……、おそらくエウラリア殿が送った報告書から裏切りがばれたようで、私たち“連合”が喧嘩を売ってきている、ならば買ってやろう攻めてやろうというマインドのようです。それとまだ確実に不死殿が裏切っているのかわからないため、とりあえず攻めて確認する感じのようで……。』


「え、もうバレたの。……お前どんな報告書送ったん?」


「ギュリゥゥゥイイイ!!!」



あ、ダメだ。怒りで狂って人間じゃなくなっちゃった。軍師お前どれだけ嫌われてるんだよ……。


はぁ、しゃあない。ごめんマティルデちょっと離れてもらっていい? うん、あと三歩ぐらい後ろ。それとアメリアさんこのツタの拘束具壊しても大丈夫だよね? ОKありがとう。


羽交い締めしていたマティルデがいなくなったことで、無理やりツタの拘束を引きちぎろうとしていた変態を受け止め、抱きしめる。


そして……。



「『業火(インフェルノ)』。」



体内魔王を殉職させて、私丸ごとエウラリアちゃんを丸焼きにする。


一瞬悲鳴というか嬌声というか、彼女の口から何かよくわからない声が聞こえた気がするが、無視だ。気持ち悪いし。魔力操作能力の向上により、より魔力を温度の上昇に充てることができたおかげか、死霊術師戦では真っ赤だった炎が青に変わっている。


そんな業火に焼かれ彼女が消し飛びそうになった瞬間に魔法を解除。その後無理やり体内からもう一人の魔王を抽出し、私の心臓から直接彼女の心臓へと叩き込む。


彼女の『不死』の理論はいまだよくわかっていないが……、案の定これが正解だったようだ。焼き尽くされ真っ黒になっていた彼女の体が私の魔力によって急激に修復されていき、数秒も経たぬうちに完全に元に戻る。いやむしろさっき怒り狂っていた時よりもきれいさっぱりお肌つるつる、って感じだ。



(いやつるつるっていうか、艶々してない? R18的な意味で。)



「~~~ッ♡♡♡」


「おーい、エウ~。聞いてる~。……聞いてないな。話聞かないんだったら三年ぐらい地面埋めるぞ。」


「ッ!? はい! 聞いておりますお姉さま!」



よし、元に戻ったな。面倒だから最初からシャンとしててね? いくら私の魔力はどれだけ使ってもなんか回復するとはいえ、お前のために魔王様が二人も殉職なされたのだから。いやもう復活して体内で元気に手を振ってるけどさ。んでお前報告書になんて書いたん?



「え? お姉さまに言われた通り、近況報告とこれから何するかっての書いて送りましたよ?」


「うん、ええやん。……ちなみに普段はどんなの書いて送ってた?」


「えっとですね~、その日神が下された天罰についての感想とか、その日食べたキノコの毒が非常にヤバくて素晴らしかったとか、脚滑らせて崖から転げ落ちた時の心境とか……。」



あぁ……、うん。納得。



『つまりこれまで全くまともな報告書を送ってこなかった者が急に真面目に仕事してきたので怪しまれた、というわけですか……、これまでの積み重ねがほぼ消し飛びましたね。うん。』


「ご愁傷様……。」


「あっ! 軍師ィ!!! ホギャルニュアァァァ!!!」



あ、また狂い始めた。……面倒だしもうほんとに地面埋めようかな。


そうだデレ、この変態のおばさんと遊んできてくれない? 穴掘りした後好きに埋めてもいいから。……え? 触るのもいや? Ohそんなに嫌われてたか……。んじゃ仕方ないね。


全身に魔力を流し込むことで身体強化をし、その状態で通信機から映し出される軍師のホログラムに向かって突撃しようとしたエウちゃんを脇で抱える。あとは口にちょっと丸めた翼を叩き込んで終了。ごめんね軍師、ちょっと隣で唸っている妹居るけど許してね♡


……仕方ないから受け止めたけどこいつが妹ってちょっと嫌だな。こいつの性癖がかかわらなけりゃ比較的まともな方なのに。



「というか軍師さ、お前のことだからあらかじめ何か手とか打ってなかったの? 『全部予測済みです……!』とか言いながら準備してそうなものかと思ってたんだけど。」


『……共和国以外の帝国を含めたすべての周辺国の諜報活動の指示に、その情報の精査。我々連合に対する包囲網構築を遅延させるための工作、包囲網結成後に備えた各軍の練度向上、魔道具などを使用した新規軍略の立案、その魔道具自体の開発、崩壊したナガン王都の再建計画の立案&建設指示、それに必要な資金調達の実行と補助、新たに入手した獣王国の市場介入。』


「あ、ごめん。私が悪かった。」



まだまだ羅列していきそうな軍師を慌てて止める。……あの、キツかったら休めよ? あと部下とかに仕事割り振るとかしとけよ? 多分お前倒れたらナガン根元から折れそうな気がするし。え、割り振ってこれ? あといつでも倒れてもいいように引き継ぎも用意してる? あと部下は育成途中?


あ~、うん。頑張れ。



『……共和国対策もしていたのですが、今回の会議で真っ先にエウラリア殿の報告書があげられてしまったため失敗に終わりました。そのあとの議題として各貴族たちの対立を煽るように、こちらで偽装した領土問題についても提案がなされるように仕向けていたのですが……、ぶっ壊れましたね。』


「うちの妹(仮)がごめん。」


『共和国軍は現在“不死”がない状態のため現状我々だけでも対処は可能なのですが……。兵の損亡は抑えられても物資の消費は痛いです。故に可能であれば救援をお願いしたく、連絡させていただきました。準特記戦力級はいるようですが……、エウラリア殿がいない共和国はレイス殿にとっても、ご息女たちにとっても、良い相手かと。』


「いいよ。こっちが起こした問題みたいなものだし。……何かオーダーはある?」


『では可能な限り急いで頂けると助かります、あまり時間をかけすぎると周辺国が共和国に続き攻め込んできてもおかしくありません。ナガン方面はまだ何とかしてみますが、それ以外の方面が少々面倒なことになりそうです。』


「りょーかい。」








 ◇◆◇◆◇








とまぁそういうわけで、死霊術師ちゃん時みたいにまたナガン王国へ遠征しに行くことになったんだけど……。



「やだー! でれも行くー!」

「やだやだー!」

「おるすばん、やー!」

「かほごー!」



こうなっちゃった。


あと過保護って言った子ちょっとこっち来ようか? 誰にその単語教わったのかちゃんとママに教えてね♡ そいつ八つ裂きにするから。え、覚えてない? そっかぁ、そうだよねぇ。うんうん、仕方ない。でもその言葉ママ嫌いだからあんまり言わないでね♡ ……命拾いしたな。


いやね? わざわざ軍師が共和国との国境線あたりに魔法陣作ってくれたみたいでね? あの時と同じように魔法陣で転移してパッと終わらせようと思ったのよ。聞いた話そんな強い相手いないらしいしさ、私一人でもなんとかなるだろうと思ったわけ。


昔に比べて格段に魔力操作向上したし、やろうと思えば全方位魔力砲で焼き尽くすこともできるわけだ。



(なので軽く終わらせてすぐ帰るから、ちょっと子供たちにお留守番の経験積ませようかと思ってお願いしたら……。こうなっちゃった。)


「でれやる! でれやっつける! いっしょにいくー!」

「やるー!」

「おるすばんやだー!」



全員地面に寝転んで両翼両足ジタバタさせての大騒ぎだ。近くを歩いていたアランさんがその脚に掠っちゃって防壁にクレーターできるレベルに叩きつけられちゃったぐらいの激しいイヤイヤ。確かにそこまで危険がないみたいだし連れて行ってもいいけど……、ほんとにお留守番ダメなの?


ママ知ってるんだからね、途中でジタバタやめてちらっと私の顔窺った後に『まだ無理そうだな』ってもっかいジタバタしてるの。何人か途中でスンってなっちゃってるのも知ってるんだからね? うん?



「ほら最近みんなとっても賢くなってきたじゃんか。今後何起きるかわからんし、練習しちゃだめ?」


「「「ダメー!!!」」」



Oh……、さよか。いやまぁそこまでちゃんと意思表示してくれるのはお母さんすっごくうれしいんだけどねぇ。……じゃあ仕方ない。みんなで行きますか。



「いいの? レイス。」


「あぁ、アメリアさん。ここまでやられたら、ねぇ? 置いて行っちゃったらどうなるかわからないじゃん。」


「確かに。暴走してしまえば誰も止められないものね。」



デレがイヤイヤし始めたあたりで、すでに出立の準備を進めていたアメリアさん。そんな彼女に話しかけられ、言葉を返す。うちの子たちが暴走した場合止められそうなのはアメリアさんかエウラリアあたり。それでも300近いこの群れ全部を止められるわけではない。


そうなったら人的被害とかヤバいことになるだろうし、暴れれば暴れるほど遠くに行っちゃって、そのまま帰ってこれない迷子ちゃんも出てきちゃうかもしれない。ならもう連れていくしかないよね、って話だ。



「そうなると……、あの子。デレの習熟と、エウラリアとの連携を目標にする感じかしら? あなたは遊撃として控えておいて、メインは子供たちに任せる。」


「……だねぇ。」



私としては子供たちが戦場に立つとか絶対に嫌なんだけど、この子たちは高原生まれのせいかある程度戦いというか、狩りをしてないとストレスがたまる。あと私から離れるのもダメみたいだし、デレもどうやら私のような存在になりたいらしい。前言ってた指揮してみたい、ってやつね。


それにどっかのタイミングで私が群れから離れざるを得ない、ってのも来るだろうし、何かの原因で私が死ねばあとはどうなるのか、っていう問題も出てくる。


高原にいたころじゃ考えられなかった問題がどんどん姿を現してきちゃった、って現状だ。


色々と現実を見ている理性ちゃんは『相手弱いって話だし練習にはちょうどいいんじゃない? ダメそうでも今のYOUなら力技で何とかできるだろうし、エウラリアっていう保険もあるじゃん』と言っているが、母としての感情ちゃんは『お前子供戦場に出すとか頭狂ってるんか? いや連れていかなかった方が被害大きそうってのも解るが……』って言ってる。



「まぁとりあえず行こうか。ほらみんな、出発するよ。一緒がいいんでしょう?」


「ほんと!?」

「やったー!」

「かりー!」


「ママ! ママ! デレやりたい! デレ最初! デレやるー!」


「あら。早速リーダー役やってくれるの? じゃあ最初の任務。みんなを魔法陣のところまで連れて行ってくれるかい?」


「わかった! ちゅうもくー! こっちー!」


「「「こっちー!」」」



まぁ私がウダウダ悩んでも仕方ない所があるし、子供たちもやる気だからやらせてあげたいってところもある。できるだけ進みやすい道を用意してあげて、何か失敗しそうなら助けてあげる。ほぼいつも通りのようなものだけど、この方針で行こうか。



「さ、じゃあ行きますかね。」


「そうね。」


「はいお姉様! 同郷の者だとしてもお姉様に迷惑をかけるなど言語道断! 全員八つ裂きにします!!!」



……急に出てきてヤバいこと行ってるな、私の妹。


え、お前それでいいの?



「はい! 神>お姉様>甥&姪>お姉様がお世話になってる方々>それ以外>>(何があろうとも超えられない壁)>>軍師ですから!!!」


「あ、そう。……仲いい人とかいなかったの? とりあえず殺さないようにとかもできるけど。」


「いましたけどあの人たち殺すか殺されるかじゃないと止まらないですよ? そういうお国柄ですし。むしろ『これ以上生き恥をさらさなくて済んだ! 感謝!』って言いながら自分の腹切る人たちですし。というかそういう人たちしか戦場に出てこないです。」


「あぁ、うん……。」



じゃ、じゃあとりあえず容赦なくやっちゃうね……。






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