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55:ダチョウと土下座





「むふー!」


「ギュビビビビビ!!!」



あ~、うん。どうしましょ。


ハァイ、みんな大好きダチョウのレイスちゃんだよ? みんな元気にしてる? え、私? そりゃもちろんこんな虚空に向かって話しかけている時点で元気じゃないのは確実でしょうに。もうね、現実逃避というかね、収まってくれるのを待つまで私にできることはないんですよ。正直何言っても火に油を注ぐだけだと思う。


獣王国に遠征しに行ってたせいで寂しさが限界突破したのかずっと私に抱き着いて胸に顔を埋めるルチヤことヒードの幼女王に、それに対し真横でブチギレているのがダチョウが誇る大天才デレ。そしてその周りには何事かと集まってきたダチョウたち。不機嫌そうにこちらを見つめる子もいれば、我関せずと遊び始める子。そして何を思ったのか目の前で即興のダンスを始める子まで出てきた。



「くるくるー!」

「ぎゅ! ぱ! ぎゅ!」

「ひゅー!」



いつも通りと言えばそうなんだけど、ちょっと色々キツイものがある。たちゅ、たちゅけて。かおしゅ。



(世の中のお母さんってこんなに大変だったのかぁ……。前世の両親、今頃何してるのかねぇ?)



ん? 今世のダチョウの両親? 解らないよそりゃ。だって私の"記憶"って大体五歳くらいからだし、それ以前のことはサッパリ。というか今の群れに両親が残っているのかすらわからない。空白の五年間の内に死んでいるかもしれないし、途中で逸れた可能性もあり得る。もちろん、私が群れを率い始めた以後に死んだ可能性もね? あの高原を犠牲なしで生き続けるのは無理だから仕方ないけどさ。


とりあえずまだ見ぬ今世の両親を青空に思い浮かべて手でも振っとこうか。うん。



さて、色々話が脱線したから元に戻すとしよう。



獣王国でのアンデッド討伐を終わらせた私たちは、軍師からナガン王都奪還作戦に参加しないかと誘われ、その決定を成すためにヒード王国の王都まで戻ってきた。道中私の魔法が暴発したり、デレが指揮をミスって道を間違え群れ全体で迷子になったり、だいぶ前にモグモグして不味かったことを忘れた個体がトレントというタダの木を食べて泣き叫んだりしたりと色々あったが、まぁ無事に到着することが出来た。


そして到着した私たちを迎えたのは……、ちょっとだけ元気がなさそうなルチヤ幼女王だった。


まぁそれも仕方のない話。彼女の両親は獣王国との戦争で命を失ったようなもの、新たに親代わりになった私が獣王国に行くとなれば『また帰って来ないかもしれない』と思い不安になってしまうことは想像に難くない。長距離通信の魔道具で無事であることや、王都までどれだけ掛かるのかなどは伝えていたのだが、やっぱりちょっとだけ不安だったようだ。



(私の姿を見るや否や思いっきり胸に飛び込んできたしねぇ。)



ちょっと涙ぐむ彼女と"普通の家族"と同じやり取り、『ただいま』と『おかえりなさい』のやり取りをして、この子の頭を撫でてやる。"じいや"ことお世話係みたいなお爺ちゃん宰相を筆頭とした温かい視線や、ダチョウたちの『だれぇ?』という視線。そしてデレからの『覚えてるしすごく嫌だけど、がまんしてあげる……!』みたいな視線に私たちは包まれた。


まぁね。親代わりになると決めたのに置いてきてしまった、私の子供は彼女だけではないから特別扱いすることは出来ないけれど、その事実は変わらないし罪悪感もある。だから今日ぐらいは目一杯甘やかしてやろうと思っていたんだけど……。



(もうちょっとこう、なりません?)



「むふふー!」


「ギュビー! ギュギュギュ!!!」



若干濡れた私の胸元を隠すように、先ほどまで顔を埋めていた場所に頬ずりをしながら少し勝ち誇ったような笑みを浮かべるルチヤ。もちろんその視線の先は絶賛ブチギレているデレ。最初は我慢してくれていたようだが、さすがに煽られれば話はべつ。久しぶりの再会だし、デレの方がお姉ちゃん。ちょっとだけなら我慢してあげるという表情は完全に吹き飛び、全力で怒りをあらわにしている。


そして何故か私の前で始まる他ダチョウたちによるダンス大会、多分誰かが踊り出したから自分もやろうと思い至り、踊っているうちに『何故自身が踊っているのか』について忘却。けれどなんか楽しいから続けよう、となっている彼ら。



(なんかもう、収拾が尽きませんね。うん。)



思わず軍師に視線で助けを求めるが、『なんで私!? 他にもっといるでしょう!?』という顔を返されてしまう。いやだってその反応が面白いからつい……。なんかマティルデに聞いたんだけど、市場で私たちの食糧を調達する際に色々手を回してくれたみたいでいつもよりも三割近くお安く仕入れられたんでしょう? どう軍師、正式にダチョウちゃんのごはん係にならない? 保育園の先生でもいいぞ!


そんなどうでもいいことを考えるが、時間経過では事態は一向に良くなりそうにない。こういったじゃれ合いもこの子たちなりのコミュニケーション方法なんだろうけれど……、そろそろ止めないと後に引きそうだからね。ごめんよ。



「ほらルチヤ、あんまりデレを怒らせるようなことしないの。気持ちは解るけれど仲良くね。デレもお姉ちゃんなんだから、そろそろ落ち着きなさいな。」


「むー!」


「やッ!」



ありゃ、だめか。じゃあもう一押し、二人の耳元に口をよせ、片方に声が聞こえないようにこそこそと話しかけてあげる。



「ルチヤ。長い間一人にしてごめんね、今日は一緒に寝てあげるからほんの少しだけ我慢してくれる?」


「デレ。ちゃんと最初我慢出来て偉かったね、もうちょっとだけ頑張れる? 後で思いっきり褒めたげるから。」



「「…………わかった。」」



うん、とってもいい子ね。二人とも。


ほら、ルチヤはちょっと横にズレて。デレは空いたところに座りな。ママの膝は二つしかないからね、占有は推奨されませんの。……うん、偉い。喧嘩してもいいけれど仲直りはちゃんとするのよ? どれだけ時間かかってもママは大丈夫だから、仲良くしてね。


……よし、大丈夫そうだね。



(さて、後は今目の前で始まったダンス大会だけど……。)



「まぁコレはこのままでいいか、楽しそうだし。」



「わー!」

「まてー!」

「ぐるぐるー!」









 ◇◆◇◆◇








「とまぁそんな感じ。」


「あらかじめ聞いてはいましたが悩ましいですね……。」



未だ踊り続けるダチョウたちを置いて、王都のお外で重臣たちを招き会議を始める。以前のようにルチヤが私の膝の上に乗り、もう片方の膝にはデレ。そして私たちの左右を挟むように重臣の皆さまが座る形だ。あ、もちろん青空会議ですよ。うんうん、風が気持ちいいよね。


軍師からお誘いを受けたことはすでに魔道具を使ってルチヤに伝えている。けれどこの場にいる全員に伝わっているかどうかはよくわからない、正直重臣さんたちの顔と名前まだ一致してないし……。というわけで再度確認の体で私の口からことのあらましをルチヤに報告する。この場で決定しておくべき事項としては『奪還作戦にダチョウを派遣するか否か』と、『参加を望んでいる獣王国の人間をどう扱うか』だね。



「やっぱり難しいか。」


「はい、ママと離れるのいやです!」


「あ、そっちね。」



ルチヤの声を半ば無視しながら、重臣たちの声に耳を傾ける。名前と顔、言ってしまえばその役職すらも理解していないけれどこの場にいる全員がある程度有能であることは把握している。お爺ちゃん宰相が上手く場を纏めながら、様々な立場からの意見が上がっていく。ウチの子たちもこれぐらいおつむが強くなれば色々安心できそうなんだけど……、どれぐらいかかるだろ。



「先日の獣王国の侵攻時、彼らは救援を出してくれました。」

「それを鑑みるに参戦しない選択肢は……、ありませんな。」

「しかしながら我が国は獣王国を実質的に併合したことになります。」

「国土だけならば周辺国最大。狙われますな。」

「然り、故に最大の防衛戦力であらせられるレイス殿一党を他国に送るのは……。」

「どちらにせよ、高度な情報戦が必要になるかと。レイス殿の現在地は決して明かすべきではありますまい。」



「ママ、ママ。」


「ん、どうしたのルチヤ。」



デレと一緒に難しいことを話す彼らの声を右から左へと受け流していると、ちょいちょいとルチヤに声を掛けられる。彼らの会話を遮らないように小声でだ。ちょっとだけ頭を動かし、耳を寄せる。



「ルチヤ、頑張りました。顔触れ、変わってるでしょ。」


「あぁ、うん。そうだね。」


「実はね、"キレイ"にしたんです。」



実は全然気が付かなかったのだが、つい同意してしまう。その直後結構な直球を投げてくるルチヤ。あぁ、そっか……。綺麗にしちゃったか……。えっと、それはちゃんと宰相のお爺ちゃんとかと相談したの? ちゃんと諫言してくれる家臣さん残してる? 私腹肥やしてた人を処罰するだけならお母さん何もいうことないんだけど……。



「もちろんです! ちゃんと相談して決めました!」



ほめてほめて! と言いたそうに胸を張る彼女。絶対にデレもやって欲しいとねだると思い、膝に乗る二人の頭を撫でてやる。ちょっとだけルチヤの方を念入りに。そっかぁ、綺麗にしちゃったかぁ。道理でなんか優秀そうな人が多いと思ったよ。



(なんというか統治能力だけはあるんだろうねぇ、心がこれまでついて来なかっただけで。)



でもねお母さん、そういう政治絡みのこと"褒めて"って言われてもよくわからないのよ……。あれだね、子供が優秀過ぎて親が付いて行け無くなる奴。高原では絶対に考えられなかったこと、色々とすごいねぇ。ママも頑張って政治関係のお勉強した方が良さそうだ。


そんなことを考え、二人の頭を撫でてやりながら優秀らしい大臣さんたちの会話に耳を傾ける。



「獣王国の対応も難しいです。」

「あちらの文化を考えると、レイス殿がいる限り下手な反乱は起きないと思いますが……。」

「こちらの指示を常に聞き続けてくれるとは限りません。」

「あまり要求を聞き過ぎるのも駄目だとは思いますが、仇討となると……。」

「こちらの"徳"を見せる、と考えれば許可しても良いのでは?」

「しかしあちらは国民皆兵のようなもの、防衛も考えると大軍を動かすわけにはいかぬでしょう。」

「やはり相手側の戦力を想定し、考え直すべきでしょう。」

「相手の情報は後程かの軍師殿がお持ちになるとのことですし、まずはこちら側の査定ですか。」


「レイス殿。」


「…………え、あ、私?」



話を流し聞きしていると、急にすぐ横に座っていた宰相さんから声を掛けられる。というかいつの間にか全員の視線がこっちに向かってる。え、何? 向こうでまだ踊り続けてるウチの子の様子見てたせいで聞いてなかった。ごめんルチヤ、お母さんなんかヘマしたら助けて。不甲斐ないママでごめんね……。



「あちらの状況がわからぬ故正確な判断は難しいとは思いますが……、例えば我らが王都。ガルタイバをレイス殿単独で攻めた場合、どれ程の時間が掛かりますか?」


「え~っと、条件にもよるかな。消し飛ばすだけならチャージ時間込みで十数秒程度? 都市機能そのまま丸っと残したまま占領するならもっと時間かかると思うよ。相手側の戦意にもよるだろうけど……、一週間はかからないんじゃない?」



消し飛ばすだけなら魔力を大量につぎ込んだ魔力砲で片が付いてしまう。都市機能をそのまま再利用できるように戦う場合、思いつくのはまぁ相手の王様だったり都市の長を押さえることだ。大体頭押さえれば何とかなるとは思うけど、相手の出方次第で掛かる時間は変わって来るだろう。私が捕まえた長を戦死扱いにして新しい長を立てて徹底抗戦、ってのもできるだろうし。



「相手に特記戦力とかがいれば話は変わってくるだろうけど、そこまで時間はかからないと思うよ。実際獣王との戦いも、今回のアンデッドの戦いも接敵してから数時間程度。一日もかかってないし。」


「…………なるほど、凄まじいですな。」




「こわ。」

「素が出てるぞ。」

「おっとこれは失礼。」

「さすが特記戦力、と言うべきですな。」

「となると相手の戦力にもよりますが、時間的な問題は移動時間に成りそうですな。」

「ここからナガンの王都まで早馬を飛ばして10日ほど、補給部隊を含めた行軍を行えば三倍程度の時間が掛かりそうです。」

「行って帰って二か月、かなりの時間に成りますな。」

「この期間をレイス殿一党の行方を隠し続けるのは……。」

「我が国の防諜はそれほど進んでいると言うわけではありません。常に"抜かれている"ことを意識しなければならぬほどです。」

「補給のことを考えると、どうしても市場の動きからバレてしまいそうですしな。難しいところです。」



おぉ、私の回答で一気に話が進み始めた。……けれどあんまりいいアイデアが浮かんでいるわけではなさそう。確かに私たちダチョウは集団でしか行動できないし、その分食費はかさんでしまう。お外で魔物を狩って腹を満たすことは出来るけれど、高原でもないこのあたりではどうしても限界が来てしまうだろう。その時に町で補給を行えば市場が動き、その動きは各地に伝わっていく。


情報伝達が遅いこの世界であっても二か月はかなりの時間の様で、難しいお話の様だ。


そんなみんなが頭を抱えだした瞬間、ルチヤが軽く腕を振るい自身へと視線を集める。



「皆の意見も、我と一致しているようだな。どう考えても二か月は長すぎる。というか私がママロスで狂う。」


「「「へ、陛下……。」」」


「故に、と言うべきだろうか。かの軍師殿がそれを打開する策を用意しているそうだ。……っと、話をすれば、だな。」



彼女がそう言いながら視線を動かすと、その先には人好きの笑みを顔に張り付けた軍師がゆっくりとこちらに歩いてきている。そして、その背後にはルチヤと同じような王冠を乗せた男性。……王冠? え、もしかして。



「皆様、お待たせいたしました。そしてご紹介させていただきます。こちらが我がナガン王国の……」



軍師がそう言葉を紡ぎながら背後の人を紹介しようとした瞬間、その男がこちらに向かって急に走り始める。即座に翼を子供たちの前に広げ守ろうとしたが、その男性は勢いを緩めず膝を地面に付け、滑る。


そして私の直前に到着した瞬間、轟音と共にその頭を地面へと叩きつけた。



「レイス殿ッ! お助けくだされーッ!!!」








〇ダチョウのダンス


特に意味はない。なんか急に踊りたくなった子が急に踊り始める。基本的にその場でくるくると回転したり、膝を曲げて上下に伸びたり縮んだりの簡単な振り付けの踊りである。とりあえず感情のまま体を動かしており、誰かが踊り出すと楽しくなって周りも参加するようだ。もちろん一分と経たずに何故踊っているのかなどの記憶が消去され、わけもわからず踊り続けている。


疲れたりテンションが下がると急に踊るのをやめてお昼寝を開始する子が多いようだ。








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