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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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40:ダチョウと講和



(うぅ、一族の"噴式"がぁ……。)



内心涙目になりながら、多分酷いことになっているだろう顔を兜で隠す。


清掃が終わり、町の中にいた鎧職人にメンテナンスをしてもらったこの鎧は陛下から頂いた時のように新品同然。頭部から足のつま先まで私用に作られたこの甲冑、頂いた時はバイザーによって視界が遮られてしまうことを不安に思っていたが、今日ほど顔が隠れることに感謝する日はないだろうと思う。


噴式は私の一族の技術ではあるが、ナガンを守るための技術でもある。故に門外不出ではなく、それが国の利益になるのならば一族以外にも教えてもよいものだった。私は"駒"になるためそういったことに時間を割くことはなかったが、ナガン王都の練兵場で兄が見込みのある者に教えていたところを見たことがある。


修得には時間が掛かるが、遠距離から攻撃してくる敵に対し有効打を期待でき、格上狩りも可能となる技術だ。国力の増強のために他者に教えるのは間違いではない。……それに、自身はこの技術を鍛え高め洗練してきた。魔法も使えず異能も持たない私からすれば、身体能力を高め噴式を洗練させる以外の道がなかったからだ。……だからこそ、より良い見本にはなったと思う。


けれど、けれど……。



(なんで一週間も経たずに修得しちゃうんですかぁ!)



気が付けばいつの間にか"レイス"、ヒード王国が誇る特記戦力が私の技術を使っていた。私は何一つあの方に噴式の説明をしていない、というか怖くてまともに会話もしてない、指導なんかもってのほか! つまりあの人はエルフの方との模擬戦で見せた私の技、それを見ただけで習得してしまったことになる。え、なんです? 特記戦力の方ってそういう成長速度もお化けなんですか???


そんなこともあり、私は彼女に強い苦手意識を持っている。もちろん騎士として動くときが来れば、感情に蓋をして相対し散ることも辞さない、それが国のためになるならば喜んで命を投げ出し時間を稼ぐ。でも別にそんな命がないのならば、自分から近づきたい相手ではない。正直言って叶うならば一生かかわりを持ちたくないというか……


いや話が通じる人だとは思うし、噴式を勝手に習得しちゃってごめんね? みたいなことを言われたからそう悪い人ではないと思うんですよ。漏らす原因になったことも謝って頂きましたし、色々頑張ってるねとお褒めの言葉も頂きました。決して、決して私がこれまで抱いて来た自分勝手な特記戦力のイメージとは違う人です。でも! 誰が好き好んで色々漏らした原因の人物と! 仲良くしたいと思うんですか!



(確かにあのエルフさんとの戦闘で色々吹っ切れてしまったせいか、軍師様からお褒めの言葉を頂きましたけど……。)



確かに切っ掛けを作って頂いたことは確か。けれどその憧れの人の前で漏らした上に、先に気絶するという失態の原因。さらにいつの間にか一族の技術を文字通り『見て盗んだ』わけですから……、なんというか正直どう付き合えばいいか解りませんし、怖いので近寄らないで欲しいのが本音です。



(けれど、今からは仕事。任務の時間。切り替えなければ。)



意識を"駒"へと切り替えながら、思考を回していく。さっきまでは特記戦力になることを夢見ていたあの頃のような性格が戻っていたが、これから求められる役目を考えるに、"駒"の方がいい。軍師様はさっきまでの私、昔みたいな我を出している姿を気に入ってくださっているようだがすでにこの身は失態をさらしている。


獣王国との交渉の場で、護衛としての役目を真に果たさなければならない。



(……まぁ、此方側の戦力を考えれば、私など要らぬかもしれないが。)



こちら側、ナガン・ヒード連合から出席するのは主に三名。


一人目はこの場で一番戦力を持つ『ダチョウ』たちの長である、レイス殿。彼女個人だけで獣王を上回る力を持っている、そしてさらにおそらく私と同程度である配下300。幸いなことに精神が幼く、知力も幼児並みであるため5000×300の数式が単純に成り立つ様な集団ではないそうだが(軍師様談)、ナガン・ヒード・獣王国を含め一番力を持っている存在だ。


二人目は、ナガンが誇る軍師殿。『ダチョウに振り回され過ぎた』と反省されておりましたが、その頭脳から生み出される策は非常にキレが増しているように思える。自身には何の意味があるのか理解できないし、防諜のために詳しく聞かなかったのだが、ヒード王国の幼女王や宰相と何度も魔道具を通して会談を行っていた。各地の諜報員にも様々な指示を飛ばしていたし……、あの人さえいればナガンは安泰だろう。


そして、三人目。ヒード王国からの人間として、マティルデ殿。つい先日伯爵になられた方だ。漏らしてしまい色々ボロボロだった私に、優しくお声掛けしてくださった方でもある。つい先日までは同じ騎士と言うことで同格だったが、いつの間にか格上に。お話してみれば非常に親しみやすく人の良い方であったため、尊敬に値する人物だと言える。単純な力量としては多く見積もっても200程度、しかしながら決して警戒をおろそかにしてはいけない相手だと私は考えている。



(『ダチョウ』たちはマティルデ殿が守護を務めていた都市、プラークより頭角を現し始めた。)



言ってみれば特記戦力であるダチョウたちを国に引き込んだのはマティルデ殿である。またプラーク侵攻の際に、将を務めていた"デロタド将軍"は決して無能な方ではなかった、家の繋がりのこともあり何度も顔を合わせる機会があったが、言葉の節々に将たる覚悟のようなものを感じることが出来た。あの方が操る軍が、決して軟弱なはずがない。



(それをダチョウたちの手助けがあったとはいえ将軍たちを殲滅し、同時に対獣王国との戦にも参戦、殲滅している。おそらくだが、軍師殿と同じような知略を用いるタイプ……!)



今回の獣王国との交渉、よりこちらが優位に話を進めるため、軍師殿から諜報員を通じて獣王国に複数の情報が流れている。その内容を見せて頂いたが、おそらくあちら側も私が抱いたのと同じような感想を持っている事だろう。


つまり、獣王国はこれまで頼り続けていた獣王を失った状態で、かの三名と相対せねばならないのである。


もはや交渉など名ばかり。停戦もしくは終戦のために、獣王国は多くのものを差し出さなければならないだろう……。





「ドロテアさん……、いえ、赤騎士殿。そろそろお時間の様です。会場の方に向かいましょうか?」


「はッ! かしこまりました、軍師様!」













 ◇◆◇◆◇












ナガン・ヒード連合と、チャーダ獣王国との交渉の場。


ヒード王国側の要請、正確に言うと群れの食糧事情から元の国境線付近で会見を開いた場合、補給が間に合わずダチョウたちが同族以外モグモグする可能性を考えたレイスによって、獣王との決戦が行われた場所近くに会場が設置されることとなった。


連合側からは、ナガン王国から全権を委任されている"軍師"、ヒード王国から全権を委任されているマティルデ伯爵。そして今回の戦争において力を見せつけた『ダチョウ』たちからレイスが。


獣王国からは外務相、そして常備軍から将軍が一人参加する。


今回の会談の経緯としては、獣王国軍が常備軍のほぼすべてを喪失した上に、最強戦力であった特記戦力の獣王を失ったが故に起こったものである。獣王国からすれば未だ徴兵などを行えば兵力の補給こそ可能であるが、特記戦力を止められるだけの戦力を保有していない。また、準特記戦力と呼べる各軍の指揮官たちの多くが今回のヒード侵攻に加わっていたため、時間稼ぎすら怪しい。


また獣王国国内にて謎のアンデッドが大量発生しており、そちらの対処もあることからこれ以上の戦争継続は自殺行為に等しい。またこのまま戦力がないままでいると、他国から攻められ国が崩壊するどころか虐殺が起こる可能性がある。故の停戦、もしくは終戦交渉であった。




しかしながら、ことはそう簡単に収まらない。




今回の戦は、軍師が裏で操作していたとはいえ、獣王がヒード王国に侵攻したが故に起きたものである。つまり侵攻軍が全滅し、継続戦闘能力がない獣王国は、非常に厳しい立場にある。交渉の場を開くことは出来たが、何かミスれば文字通り国土が更地になってしまう。身動き一つすら取れないような状況である。


それを示すように、交渉の場は全身に鉛が纏わりつくような雰囲気に侵されていた。


連合側の中央に座るダチョウたちの女王、レイスから発せられるもの。彼女からすれば『群れの子たちが勝手にどこかに行かないように軽い威圧を飛ばして待機状態にしている』だけなのだが、獣王国側からすればたまったものではない。


女王から発せられる圧倒的な覇気と、300対、合計600の目玉が一斉に獣王国の者たちに向けられているという恐怖。


この場における上下関係を、その魂に叩き込まれていた。


しかしながら、もしレイスが"威圧"の手加減を覚えていなければ今頃全身の穴という穴から色々まき散らしていただろう。それを考えると獣王国側は恐怖を感じるのではなく、先に犠牲になってしまった者たちに感謝しておいた方がよいのかもしれない。



(こう、子供たちも座ってはいるけどいつでも"狩り"できるように待機させちゃってるわけだから……。早く終わらせたいよね?)



そして、特記戦力は、彼女だけではない。ナガンにおける最高戦力、その頭脳だけでどんな不利な状況もひっくり返してしまう男。"軍師"、この場において一番危険な存在はレイスたちではあるが、獣王国にとって一番厄介な存在が彼であった。このような交渉の場は、彼にとっての十八番。その口一つで好きなようにこの会談を操ることが出来るだろう。



(ついに来ましたね……、講和条件はヒードの彼女に任せる……? あ、無理そう。レイス殿を獣王にしないのが目的でしたが、彼らの死にそうな顔的に多分話題すら出せないですね、コレ。頑張って私が回しましょうか。)



最後に、ヒード王国からマティルデ伯爵。彼女についての情報は、獣王国側が必死に調査したことで何とか理解できている。正確には軍師が裏からプレゼントしたものではあるが……、彼らが真実を知ることはないだろう。単純な武力としては脅威と言えるものではないが、ダチョウと言う特記戦力を自国へと引き入れた上に、獣王が死した戦いに参加し生き残っている。これだけで油断できぬ、恐ろしき智将と言えよう。



(……なんか滅茶苦茶勘違いされてる気がする。私マジで何もしてないぞ? というか何話したらいいの私?)




全身を押さえつけられるような緊張感の中で、会談が始まる。


ある程度の挨拶や自己紹介などが終わった後、本題を切り出すように獣王国の外務相が口を開いた。



「獣王国側としましては、できるだけ早期の終戦を望んでおります。」


「……なるほど? つまり無条件降伏。これを望んでいるということでいいのか?」



ヒードの代表として、そう口を開いたマティルデ。事実ヒード王国は今回の侵攻において多くの被害を受けている。今いる地点から東側、獣王国との国境線近くにある防衛拠点や町を全て落とされている、こういった交渉事はマティルデの得意とすることではなかったが、奪われた分を取り返さなければ国としての面目が潰れてしまう。


故に、かなり強めに切り出し相手の出方を窺おうと思ったのだが、彼女の想定外の反応が返ってきた。



「…………はい。無条件を受け入れます。」



そう発する外務相、隣にいる獣王国将軍も暗い顔をしている。


本来であればもう少し相手側からの譲歩や条件のすり合わせが起きそうなものであるが、今回の場合は別である。獣王国側からすれば、もしこのまま戦争が継続した場合、最悪ダチョウによってすべてが焼き払われてしまう可能性がある。今は国と言う体制を守るのではなく、国民の命をどうにかして守るフェーズへと移行していた。



「…………。(え、どうしよこれ受けちゃっていいの? 宰相殿~! 陛下~! 助けて~!)」



その訴えを聞き、何も響かなかったような顔をしながら、マティルデは脳内で思いっきり混乱する。無条件ってあれぞ? マジで何されても文句言えない奴ぞ? え、そ、それでいいの? というかそんな重要そうな決定、つい先日まで騎士で政治の"せ"すら解らなかった私に任せないで~! のような状態になっている。


そんな彼女へ助け舟を出すように、"軍師"が口を開く。



「なるほどなるほど、でしたら後はパイの切り分け方になりますが……。それは我らで後ほど決めるとして、無条件にも色々と決めなければならないこともあるでしょう。文書も残さねばなりませんし、その細かいところを決めていきましょうか。」



その問いにマティルデが了承の意を示し、レイスが軽く頷くにとどめる。非常に重々しい顔をしている二人であったが、頭の中はもうごちゃごちゃである。二人ともこのような場など初めてであるし、何をすればいいのかすらわからない。とりあえず二人ともヒード側の利益を確保しないといけないことは理解していたが、確実に軍師の掌の上。



(普段であればナガンに有利なように進めるのですが……、ダチョウと協調路線を踏むのであればここでもめ事を起こすのは得策ではない。まだ配分について決める場ではありませんが、ヒード、ダチョウ側が有利になる様にあらかじめ仕込みをしておきますか。)



軍師が話を進めることで、会議が進んでいく。


詳細はダチョウちゃんが聞くと頭から火が出るレベルの難解さであるため省略するが、実質的に獣王国が解体され連合によって統治されるという形で話が落ち着く。領土分配などは今後連合内で話し合って決めていくこととし、正式にどちらかの国家に併合されるまでは現在の政府が統治するということになった。



「では、講和条約としてはこのような形で。異論がある方は……、いらっしゃいませんね。では、お開きと致しましょう。」













〇各員の様子


・レイス

「いい社会勉強になったよね、内容はまぁ簡単にしか解んなかったけど。とりあえずウチの子がちゃんと我慢できたから褒めてやらなきゃ。」


・ダチョウちゃんズ

「なんか美味しそうなのがいるけど……、ママが『やっつけろ!』って言うまで我慢!(意訳)」


・マティルデ

「なにも解らなかったです……。多分軍師殿はヒードに結構配慮してくださったのは理解できたのだが……。」


・軍師

「とりあえず上手く行ってるので機嫌はいいですね。」


・赤騎士

「(実はおむつ履いて来たけど使わなくてよかった……。)」


・獣王国

「い、生き残れた……。帰ったらアンデットを何とか……。え、報告? なによ……、って増えたのォ!? 大変大変!」










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