35:ダチョウと赤騎士
「でねー! ウチの子がねー!」
「なるほどなるほど、それは大変可愛らしい情景ですな。」
「でしょー!」
軍師くんが持って来てくれた酒を片手に、会話を弾ませる。
あの後。私がやらかしちゃったせいで、色々"処理"が大変なことになっちゃった兵士さんたちを町の中に運ばないといけなくなった。放置し続けるのは色々と酷だし、臭いしばっちい。私のせいでそうなったわけだから別にそれぐらいはいいんだけど、もうちょっと頑張れない? とも思ってしまう。高原じゃこんなのジャブ程度だよ? ……まぁこっちの基準がおかしいのは理解してるけどさ。
軍師さんに舐められないために頑張っては見たけれど、両軍ともに被害甚大のため作戦中止。一旦お話はやめにして、"お掃除"の方を開始した訳だ。色々と汚いから子供たちは自由に遊ばせて、最初は私と軍師さんで。その後は比較的マシな人を叩き起して頑張ってもらって、ちょうどさっき搬入作業が終わった感じだ。
にしても"みんなで同じことをする"ってのは連帯感が生まれるんですかね? ヒードの兵士さんもナガンの兵士さんもみんな肩を叩いたり、慰め合いながらお洗濯してて……、とっても仲良くなってましたよね! うんうん、仲良きことは美しきかな!(やけくそ)
(ま。それでみんなが洗い物する羽目になったから、私たちはお外で時間潰すことになったんだけど……。)
唯一の生き残りである軍師さんがね、『少しお付き合い頂けませんか?』って言いながらお酒を持ち出してくれたもんだから乗っちゃったのよ。
昨日の夜にお外から帰ってきた獣王国方面の索敵してくれてる兵士さんに聞いたんだけど、未だ獣王国からやって来る後続は影も形もない。多分あの獣王の連れてきた兵でお終いだったのだろうという話になっている。つまり戦う予定もないし、ウチの子たちも自由気ままに遊ぶだけ。最低限の警戒はしないといけないけど、私たちに求められているのは純粋な武力。なので別に昼間から酒盛りしても大丈夫ってわけだ。
たぶん今の私なら獣王クラスが来ない限り何とかなるし、そもそもこの後の予定はウチの子たちが遊ぶのを眺めながら、アメリアさんに課された課題である魔力操作の練習のみ。別に急いでやることでもないし、わざわざあっちから誘ってくれるのなら拒否する意味もなかった。単純にお酒が飲みたかったてのもあるしね~。
それに……
『この荷馬車にある荷物は全て酒樽です。ヒード王都で購入した葡萄酒がメインですが、道すがら良さそうな果実酒も複数乗せています。同じような馬車がいくつもございます。ヒード王国からの補給もあるでしょうし、ぜひお好きなだけ。』
なんて言うんだもん! 真昼間だけど誘われて断ればそりゃ"ダチョウ"が廃るってもんでしょう? というわけで、酒樽の馬車三つぐらい引っ張って来て今飲んでるの! まだ一時間も経ってないけど、二台分の馬車空にしちゃった! あはー! 今はもう慣れたみたいだけど、私の飲むスピードを見た軍師さんの顔! まぁ~ったく理解できないものを見るような顔になっててとっても面白かった!
「それに、軍師さんのお話が面白いから酒が進んじゃうよねぇ!」
「いえいえ、私も楽しく飲ませて頂いていますから。」
そう口では言うが……、正直全然楽しくない。正確に言うと楽しかったのは最初だけ。
それもそのはずで、相手は頭の良さだけで"特記戦力"。まぁ高原レベルと称される人間だ。そして、まだ全力ではなかったとはいえ、私の"威圧"を涼しい顔して受け流す相手。彼の隣にいた真っ赤な鎧の人はまぁまぁ強そうだったけど、その人もダウンしてた。なのに軍師だけ最後まで残ってる。魔力も肉体的な強さも全然感じられないけど、その頭と意志の強さってのはそれ相応に強いらしい。
(実力的には確実に格下、それなのに耐えられるのは……。思うところがないと言えば嘘になる。)
これだけで十二分に警戒対象なのに、急にそんな人間から『酒盛りしません?』っていう話を振って来るわけですぜ? 警戒しない訳がないでしょうに。……まぁ相手側もそれは理解しているだろうし、会話内容も場末の居酒屋で繰り広げられる意味のない話や愚痴ばっかりだ。けれど単純に話の内容が上手すぎる。
前世で『引き込む話術』とか『気に入られる話術』みたいな本が売ってたような記憶があるけど、そんな内容に書かれていることを軽く超えた技術を駆使しているのだろうな、と感じる。かといってだんまりを決め込んだり、あえて雰囲気を壊すということは避けないといけない。私がヒード陣営に属している以上、この人は同盟国のお偉いさんだ。
それに、あんまり雰囲気を悪化させすぎるとウチの子たちが勝手に勘違いして、軍師さんを『てき!』判定する可能性もある。嬉しいことに、あの子たちにとって私の存在はかなり大きいらしく、まだ獣王戦のことを引っ張っている子もいるのかやたらと私のことを心配そうにじーっと見つめている子がいる。
(私が変な顔したら飛んでくるだろうし、そうなれば一瞬のうちにカニバリズム大会だ。色んな意味でそれは避けたい。)
元々お酒にはかなり強い方だけど、飲んでも飲んでも高揚感を得られないのはコレが初めてだよ……。
比較的意味のない話、酒飲みが良くするような何でもない会話をずっと続けてはいるが、その"何でもない"っていう情報の判断基準は私にある。つまりただ会話するだけでも、この軍師さんに私についての情報や判断基準のレベル、そしてウチの子たちの情報をプレゼントしてしまっていることになってしまう。流石に伏せるべき情報は避けてはいるけれど……。
(厄介だよなぁ。)
「あ、そうだ! 軍師さんもなんか話してよ~!」
「私ですか? そうですね……、ではちょっと愚痴になってしまうのですが。」
そう言いながら彼が話すのは、国の"人間至上主義"についての愚痴。ただの愚痴のはずなのに普通に話が上手いせいでちょっとムカつく、あと今の自身には彼の話を精査できるほどの情報がない。話半分に聞くのすら危ういだろう。確実にこの人私が全然酔ってないの解ってるっぽいし……。
最初は面白かったけど、ずっとこう頭の良い人と話してると疲れるよパトラッシュ……。掌の上で踊らされているような感じするしさぁ……、いくら前世の記憶があってもダチョウがおつむで勝負なんかできるわけ……、あ! そうだ! 頭破壊して軍師君と同じレベルになるまで無理矢理進化させればいいんだ!
(まぁやってもそこまでレベルアップできるか解らんし、クソ痛いからやらないけど……。)
「やはり根付いた思想をどうにかするのは難しく、少しずつ時間を掛けて行わねばならないことは理解しているのですがね。」
「なるほどねぇ……、まぁそんな辛気臭い話には酒だよ! ほら飲め飲め!」
そう言いながら彼のグラスに酒を注ぐ。
なんでもこの人はこの人で思想云々で色々苦労しているらしく、他種族に偏見を持たない人間も増えてきたそうだが依然として国を代表する思想、ってレベルで人間至上主義がのさばっているんだと。一部の貴族のみならず平民にまで思想が広がっているせいか、それに反することをすれば革命にまで行ってしまいそうでヒヤヒヤしてるんだと。
「"おはなし"すれば理解してくださる方もいるのですが、やはりこう、洗脳みたいになってしまいますし……。」
「ふーん。……あ、これ美味しい。」
「おっと失礼しょうもない話でしたな。そちらは道すがら購入した蜂蜜酒ですね。地方の地酒として著名なものだったかと。」
お~、道理で美味しいわけだ。私甘めなの好きなんだよね~。
……そう言えば用意された酒、全体的に甘いのが多いな。私辛いのとか苦いのそんなに好きじゃないから嬉しいんだけど、もしかしてそこら辺もバレてる感じ? ナガンの応援が運んできてくれた食事の量も明らかにダチョウ向けの大量輸送になっていた。そういや王都にいる時もちょっと飲んだし、ウチの子たちもいつも通り食事をしていた。……あ~、人のうわさとか、市場の流れとかを見ればバレるのかな。
(う~ん、思ったより面倒そう。)
おそらく私が『どういったところに落とし込むのが群れにとって最善かなぁ』と思っているのも軍師には筒抜けだろう、そう考えながら酒を呷っていると、こちらに向かって結構な速度で歩いてくる赤髪の女性の姿が見えた。軍師さんや、あれ知り合い? ……え、あの赤い甲冑の中身があの人? はえー、ガチガチに鎧で固めてたから性別解んなかったや。
ずかずか、という歩き方でいいのだろうか。おそらく胸中には色んな思いが渦巻いているのだろう女性が、私たちの前まで移動し、膝を突く。
「ご歓談中失礼いたしますッ!」
◇◆◇◆◇
"赤騎士"と呼ばれる女性、本名『ドロテア・イクエス』はもう一杯一杯であった。
それも仕方のない話。彼女自身、狂信的なほど信奉しているわけではないが、"人間至上主義"を信じており、人以外の種族など劣等種族だと考えていた。しかしながら自身が敬愛する"軍師"からお言葉を頂いたため、今回の任務では常に平静でいられるような心構えを作ってきたのである。
ナガンの軍の人間、それも位が高いものほどそうなのだが、皆"軍師"の異常さと、愛国心の強さを理解している。彼が国にいれば安泰であり、彼の言うことを聞いていれば間違いはない。しかしながら彼が求めているのはただの操り人形ではなく、意見をしっかりと述べられる仲間。彼女も、それを理解していた。
(けれど、自身には高尚な意見を述べられるほどの頭はない。)
彼女は、建国時から続く騎士の家系で生まれ育った人間だった。元々ナガン王国の成立が他種族による攻撃から身を守るために作られたということもあり、先代たちの活躍に恥じぬ行いを家訓としていた彼女の家は、皆が"思想"の信奉者だった。故に幼少期の大半をそこで過ごした彼女が、思想に染まるのは仕方なかったといえる。
厳格ながらも愛のある家庭で育った彼女は、次第に"騎士"への道を歩み始める。家のすべての人間が軍人であり、その適性を持たぬもの以外は全員が騎士として、国の盾として活躍していた。先祖の活躍、両親の勝利、兄弟たちの輝かしい戦績を聞いて生まれ育った彼女が、同じ道を選ぶのは何もおかしいことではなかった。
そんな、家族の活躍に憧れる少女に、ほんの少しだけ女神は微笑んだ。
魔法使いの才能も、不可能を可能にする異能も持たぬ彼女。しかしながら齢五つにして、成人し騎士として活躍してきた完全装備の兄を片手で振り回せるほどの膂力を、彼女は持っていた。彼女の家族は驚き、同時に喜び、期待した。『この子ならば、ナガンの"特記戦力"に成れるかもしれない、と。』
当時はまだ"軍師"が軍師として活動していなかったころ、特記戦力を持たぬナガンは非常に苦しい状況に追い込まれていた。そんな中で、才能を持った子供の誕生。国に仕える騎士として、親として、これほど喜ばしいことはなかった。彼女自身も、両親や家族が喜ぶ姿を見て、より一層励もうと考えるようになる。
そうして、時が流れ。彼女が一般兵1000を簡単に屠れる程度の実力を身に着け、士官しようとした矢先。ナガンに"特記戦力"が誕生する。
周辺国の圧力に耐えかねていたナガンが行った反攻作戦、その戦いで"軍師"が頭角を現したのだ。策を以って敵軍を瞬く間に殲滅し、味方の被害はゼロ。まさに圧倒的な実力だった。それを聞いた彼女は、憧れた。家族の期待を胸に士官した瞬間、自身が目指すべき存在を知ったのだ。単純な武力と、知力。その方向性は違えど、自身が目指す存在には変わりない。
彼女は、考える。
『もし自身が特記戦力になることが出来れば、ナガンは二人の戦力を抱えることになる。』
軍師という存在が策を練り、それに合わせて自身が全てを破壊する。いまだ顔に幼さが残る彼女は、恋する乙女のようにそんなことを考え、鍛錬に励んでいた。上を見ればキリがないが、どの国においてもたった一人で1000を相手することが出来る人間は数少ない。即座に重要なポストが彼女に用意され、すぐさま戦線へと送られ、全ての経験を糧にしていく。
戦えば戦うほどに自身の成長が感じられ、周囲からいくつもの期待の声が寄せられる。軍師が台頭し始めたこともあったのか、『次のナガンの特記戦力』として大いに持て囃された彼女。決してその声で増長するようなことはなかったが、その声を否定することはなかった。自身も、そうなることを信じていたからだ。
(……しかし、何事にも限界がある。)
彼女が5000、準特記戦力へと到達したころ。違和感を覚え始める、それまで感じていた成長する感覚が、一切無くなったのだ。そう、成長限界である。一部の特記戦力は限界などありえないという風に成長していくが、生物である限り上限は存在する。彼女は、齢18でそれに到達してしまった。あまりにも早い限界だった。
準特記戦力となったことで、国王陛下から自身の髪色である"赤"が入った称号『赤騎士』を頂き、深紅に燃えるような真っ赤なミスリル鎧を頂いた。人々の期待の声も、昔よりずっと大きかった。皆が自身を期待し、より強くなることを求めている。
しかしながら、自分の体は限界を訴えている。
求められるものに成れないという事実と、周囲の声、そして自身の無力さに打ちひしがれ、壊れそうになった時。声を掛けてくれたのが、軍師。彼であった。
(あの方のおかげで立ち直ることが出来た、特記戦力として隣に立つことは出来ないが、駒として動くことはまだできる。)
彼女は、自身を軍師の駒として再定義した。
それが壊れそうになった精神を立て直すのに一番早い方法であったし、何より彼がそう望んでいるように思えたからだ。準特記戦力と言えども、戦場での働きは非常に大きい。一般兵のみならず熟練兵であっても簡単に屠れてしまう。最強の矛ではなかったが、ここぞという時に使える使い勝手のいい矛には成れる。
自分程度であれば代わりがいる、故に使いつぶせる駒になろう、と。
軍師は彼女の決断を褒めることはなかったが、それを受け入れた。当時の彼女にとって否定は命取り。そして、国へその心を捧げていた"軍師"には、ただ一人の人間として動くことは不可能。国益を第一に考えれば、それが最善だった。
しかしながら、軍師と言えど人間。彼女が戦勝の報告を持ってくるたびに、過去の選択は本当に正しかったのかと、少し顔を歪ませてしまう。
赤騎士は、その表情の変化に気が付いていた。
彼女は、そのほんの少しだけ苦し気な軍師の顔を、自身の実力不足が原因だと判断した。事実、使い勝手のいい駒になることは出来たが、未だ彼女の実力は5000程度、装備などで上乗せしても6000には届かない。戦場において、安心して何かを任せられるほどの実力ではなかった。
(……もっと、強くならなければ。)
故に彼女は力を求め、同時により駒になることを選んだ。
多くの戦場に赴き、自身を高める方法を模索しながら最適化していく日々。彼女の変調に気が付いた軍師が、彼女の姿を見て一瞬だけ表情を曇らせてしまったこともあり、その勢いは緩まることはなかった。
そして、今に至る。
軍師は、彼女を対獣王のために連れてきていた。彼が彼女に必要だと感じていたのは、圧倒的な成功体験。獣王の討伐である。その手で特記戦力を倒したという経験は必ず彼女に何かよい影響を与えると感じた彼は、獣王へのトラップが成立しその体から魔力を取り除いた瞬間。彼女を投入する予定だった。
しかしながらソレはダチョウによって破壊されてしまった。
故に、軍師は策を立て直すことになる。成功体験がダメならば、むしろ吹っ切れさせるのはどうだろうか、ということだ。ダチョウは獣王を超える特記戦力。それを間近で見ることで彼女の中に眠る根本の願い、『特記戦力になりたい』という思いが少し変容するのではないか、と考えていた。かなりの荒療治にはなるが、そこから必ず立ち直ってくれると確信したが故の行動だった。
さらに、彼女の持つ思想の矯正や、ダチョウと言う群れの構成員の力量の調査、様々な目的を同時に果たすため、彼は行動を起こす。
……その結果が、まぁアレである。
レイスの『こんにち威圧』によって赤騎士ちゃんを含め色々まき散らしながらの失神。
ナガンもヒードも関係なく全てを呑み込んでしまったダチョウたちは、赤騎士ちゃんの心も確実に踏み抜いていた。
明らかに自分では勝てないという圧力、眼前に映る濃厚な死。準特記戦力として何とか踏ん張っていた彼女ではあるが、だんだんと近づいてくるレイスの圧力に負け、その場に倒れ込んでしまう。それと同時に、色々と漏らしてしまう。詳細に述べてしまうと彼女の尊厳に関わるので詳しくは述べないが、"色々"だ。
そうして、下半身の異様な気持ち悪さで目を覚ました彼女は……。
(わぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!)
もう、とっても、とっても一杯一杯であった。
まず、騎士として。自身の上司であり、ナガンにおいて王に次ぐレベルでその身を守らなければならない軍師よりも先に気を失ってしまうという失態。さらに国王陛下から頂いた大事な大事な深紅の全身ミスリル鎧に、あろうことか小さい方と大きい方の両方をぶちまけてしまうという失態。こんな最悪なやらかしなど家族に知られた瞬間、一族郎党セルフ根切りである。もちろん彼女が真っ先に自分で首を落とす。
さらに、駒として。実は軍師から『到着したらこんな感じで進むから、赤騎士ちゃんはこんな感じで動いてね~』という指示を彼女は頂いていた。複数の状況に合わせて作られた詳細な指示である。その全てを頭に叩き込み、軍師の駒として動くはずだったのに……、気絶した。自分のせいで軍師の計画は丸つぶれである。駒、失格。生きる価値無しである。
最後に、乙女として。未だ彼女は齢20にならぬ未婚の女性。これまでずっと騎士として働き続けてきたが故に恋なんてしたことなんか全然ない。そんな乙女が、憧れの上司として慕っている"軍師"に色々漏らしているところを見られる??? もう、終わりである。お終いである。羞恥心で爆発しそうである。いや、彼女の心情的に爆発した方が楽になるのかもしれない。
死の危険を強く感じたせいか、騎士としての想いよりも最後の乙女の想いの方が強く出てきた彼女は、もう羞恥にもだえ苦しんでいた。国に士官している手前、勝手に死ぬことは許されない。そして何よりも自分で鎧を、色々まき散らしてしまった鎧を洗わないといけない。というか他人に任せられるわけがない。
この世界において男女の戦闘における能力差はあまり変わりがないが、軍における男女比は男性に寄るのが事実。つまり彼女は、様々な異性に見られながら、顔を真っ赤にして鎧を掃除しなければならない。
更に運の悪いことに、彼女が着ていた鎧、その"運"が付いている鎧は、全身鎧である。
他の兵士に比べ、格段にパーツが多く。掃除の手間が、かかる。
(あぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!)
もう、脳内で叫ぶしかないのである。
そうして、色々見かねたマティルデやヒード及びナガンの女兵士たちに手伝ってもらい、乾かすためにお日様の下に置いた彼女。赤騎士のことを哀れに思った町の人間から貸してもらった町娘風の衣服に身を包み、自身の愛剣を片手に大股で歩く。色々と限界で顔を押さえて喚き散らしたい現状ではあるが、彼女は"騎士"である。与えられた最低限度の任務はこなさなければいけない。
つまり、"ダチョウ"構成員との模擬戦である。
心の中で荒れ狂う感情を何とか歩きながら発散しようとするが、際限なく溢れてくるソレ。しかも視界に自身の上司である軍師が入った瞬間、さらに増加。まだレイスもその場にいるという事実によって、そこに恐怖もぶち込まれる。
もう自分が何を考えているのすら理解できなくなった彼女は、もうヤケになりながら叫んでいた。
「ご歓談中失礼いたしますッ!」
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