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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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34:ダチョウと軍師






そもそも、私は未だ魔力のことについて理解が浅いし、十全にも扱えていない。



アメリアさんにアクセサリーの用意を手伝ってもらいながら、思考を回す。


私の"族長モード"、所謂気合を入れて周囲を威圧するという方法。高原じゃ主に格下相手へのスタン効果ぐらいしか見込めなかったソレは、この人間社会において私が取れる唯一の交渉手段ともいえる。この世界の交渉事とかについて学ぶ機会があればいいな、なんて思ってはいるんだけど正直子供たちのお世話をしながら何かするって余裕は今の自分にはない。


アメリアさんに片手間で魔力操作を教えてもらうだけでも結構ギリギリなレベル。特記戦力として数えられ、一国の王であり特記戦力でもあった獣王を倒しちゃった以上、今後そういう交渉事の場面にダチョウの代表として立たないといけなくなるんだろうけど……、この手札だけで大丈夫なのかな、なんて思ってみたり。


暴力第一主義みたいなこの世界において、この手札が結構強力であることは理解できたんだけど、通用しない相手とか自分よりも強い相手に対しては絶対に通用しないことも理解している。昔高原で喧嘩売って死にかけたし。だから結構不安なんだよねぇ……。



(っと、思考がズレた。)



んで、この族長モード。早い話、ただの"威圧"なんだ。魔力とか覇気とかそういう物を前面に出して、相手のことを『なんか変なことしようとしたら、いてこますぞオラァ!』っていう意志表示。死や圧倒的な格上への耐性がない弱者相手ならば有効だけど、同格や上の奴には効かないソレ。魔力操作を覚えた私はこの威圧の方向性をある程度操作できるようになった。


これまでは魔力をただ垂れ流すだけの無差別範囲攻撃だったのが、ある程度方向性を決めた範囲攻撃にまで進化している。効果範囲を減らして威力とか密度をいい感じに調節できるようになったってわけ。獣王との戦いのおかげで魔力総量も増えたし、多分大分強化されているんじゃないかなぁ、って感じ。



(まぁアメリアさんから私の魔力操作は『赤ちゃんレベル』らしいけどねぇ。)



それを聞いた時はかなりダメージを受けたものだけど、実際に実例を出されて比べられればもう納得するしかない。アメリアさんが半ば拉致してきたこの町の魔法使いの人の魔力操作を見せてもらったんだけど、その人でも魔力の線がうどんレベルだった。一般的な実力らしい彼でうどんレベル、対して私は成人男性でも食べるのが難しい太さのフランスパンレベル。


たしかに赤ちゃんレベルかも……、って感じですよねぇ。いやね? 魔力を扱うこと自体はすぐできたんですけどね? なんかこう、魔力総量がデカくなっちゃったせいで扱いが難しいんですよ。普通の人の魔力がコップ一杯とすれば、私は巨大な湖レベル。全体の何%を使って~って同じことしようとすれば扱う魔力量もやっぱり変わるわけで……。



(こ、これでも頑張ってるんですからね!)



アメリアさんに色々相談した結果、あと数年単位で魔力操作の練習を続ければ、この"威圧"も全体攻撃から単体攻撃にできるまで圧力を高められるみたいなんだけどねぇ……。道は長く険しそうだ。




え、属性魔法の使用はどうなったのかって?


その魔力操作についての説明を受ける前日に、ちょっとそういう魔法が気になって、戯れに『小火球(ミニファイアボール)』って叫びながら腕を天に掲げたことがあったんですけどね? 魔力がガコンっと減った感覚と同時に、今滞在させて貰ってる町の直径と同じくらいの大火球が頭の上に浮かびましてね。あわてて何もない方角、獣王ちゃんと殺し合った方へ投げ飛ばしちゃったんですよ。



(綺麗な雲が上がりましたよねぇ……。)



一瞬にして視界が赤へと染まり、とてつもない爆風が巻き起こる。私含め数多くのダチョウちゃんたちが「わぁ!」と言いながらアイキャンフライ状態になるというアクシデントが発生。魔法が撃ち込まれた大地の大半がガラス化するっていうとんでもない被害を巻き起こしちゃいました、はい。そのせいでガチギレしたアメリアさんから魔力操作を習熟するまで属性魔法の使用を禁止されちゃったけど……、まぁ仕方ないというか当たり前だよね。


まぁ、ダチョウちゃん的には大興奮のアトラクションに見えたみたいなんだけどね。



「すごい! まますごい!」

「かっこいいー!」

「きれいー!」

「とんだ! とんだ!」

「もっとー!」

「もっかい! もっかい!」


「「「もっかい! もっかい!」」」



とまぁこんな感じでした。キミらがとってもかわいいことは理解したけど、ごめんね。多分コレ連発してたらほんとに魔王認定されて討伐されちゃう奴だから……、やるなら高原でやろうねぇ。これぐらいなら日常茶飯事とは言わないけど、無いわけではなかったし。あそこならどれだけ地面を破壊しても地面の中にいる魔物たちが整地してくれるから安心なんだよねぇ。





「……うん、完成ね。できたわよレイス。」


「ありがと、アメリアさん。急にごめんね?」


「気にしないでいいわ。」





彼女の声を聴きながら、思考を現実へと戻していく。アメリアさんがこちらに向けてくれる鏡を覗き込みながら最後のチェックを完了。うん、とりあえず族長として相応しい恰好になったかな? よしよし、じゃあモードを切り替えまして……、



「ッ! ……あ、相変わらずというか、慣れたはずなのにまた魔力が上がったせいで意識が飛びかけたわ。」


「あ、ごめん! 大丈夫?」


「えぇ、気にしないで。……というかソレで、方向性を与えていないのよね?」


「うん、今は無差別かな? 軍師さんと話すときは範囲狭めてみるよ。」


「…………かわいそ。」



アメリアの声を聞き流しながら、礼を言って天幕から出る。そこにはすでに私の覇気を感じ寄ってきたウチの子たち。ちょっと頭が良くなったせいか、前よりもキリリとしたいい顔になっているねぇ。うんうん、その顔もとってもキュート。ママ写真撮りたくなっちゃった、誰か白レンズ持ってない? 言い値で買いますよ~!



「ママ? 敵?」


「ううん、違うよデレ。"おはなし"しに行くの。一緒においで。」


「うん!」



デレを横に控えさせ、先頭をゆっくりと歩きながら目的地へと向かう。マティルデから軍師さんたち一行がどの方面からやって来るのか、どのあたりに駐屯する予定なのかは聞いている。私がこういうことをする、っていうのはマティルデを通じて町の人たちには伝えてもらったし、際限なくやってしまおう。変に嘗められて不利益を被るのはごめんだからね。



(頭脳のみを以って、"特記戦力"。つまり頭の良さだけで高原を生き残れる様な存在。……威圧が効けばいいけど、ね。)










 ◇◆◇◆◇








とまぁレイスが結構不安になりながら、覇気を辺りにぶちまけながら子供たちと行進し始めたわけですが……。


逆に聞きます、効かないと思いますか?


そうですね、効かない訳ないどころか、クリティカルヒットですね。


元々魔王二人がタップダンスをしているような魔力の持ち主であるレイス、そんな彼女が魔力を一方向に向かって制御し、威圧した場合どうなるか。その数なんと、魔王換算で約5人分。


そうです、『魔王戦隊ダチョルンジャー』の完成です。現地に持ち込んだ火薬を持ち帰る際に事故を起こしてしまうよりは使い切ってしまおうと思ったのか、背後で島の形が変わるレベルの爆発が起きる感じの戦隊ものです。もう色々ダメですね、これで特記戦力の中では真ん中ぐらいって言うんですからこの世界の強者の規格外さに少し引いてしまいそうになります。




さてさて、可哀想ですがお話を進めなければなりません。ちょっとだけ時間を巻き戻して、軍師さんたちの様子を見ていきましょう。




レイスちゃんがお着替えを開始したころ、この町の西側の入り口では代表者同士のご挨拶が行われておりました。


ヒード側、ダチョウ陣営からはプラーク守護にしてダチョウのお手伝い部隊隊長の"騎士"マティルデさんと、完全にダチョウさんの恐ろしさを心で理解してしまった可哀想なこの町の領主さんが。


ナガン側、軍師さん陣営からは代表である軍師さんと、同行してきた軍の中で一番強い"赤騎士"ちゃんがついて来ました。


現在同盟国とは言え、つい先日までライバル状態であった二国間の関係はあまりよろしくありません。ナガン側は軍師さんの教育が行き届いているのでまさに清流が如き心持で対応に当たっていますが、ヒード側はちょっと警戒気味です。それもそのはずで、マティルデさんはナガン王国から自分の町が攻められたばっかり、この町の領主さんも先日同盟のお話を聞いたばっかりです。


町の防壁の上にいる兵士さんたちも結構ピリピリしております。


ま、そんな状態を軍師さんが見抜けないはずもなく。安心させるような声を発しながらゆっくりと頭を下げました。



「この救援部隊の指揮を任されている"軍師"でございます。この度は戦に間に合わず、大変申し訳ございません。非公式にはなりますが、謝罪を。」



頭を深く下げ、言葉を紡ぐ彼。その声色からは誰が聞いたとしても"謝罪"や"申し訳なさ"などの感情が入り乱れているように感じられた。ナガンの政を任されている人間としてそう易々と頭を下げることは許されないが、獣王国からの停戦交渉がない限り今はまだ戦時であり、非公式の場。故に自身の想いを伝えることが出来る、そのようなパフォーマンスの一環でした。


高原であれば頭を下げた瞬間に『いただきます!』されるのが世の常ではございますが、ここは文明社会。ダチョウたちのおかげで町に被害が出なかったということもあり、救援が遅くなったことに対するナガンへの怒りという物は一切ありません。むしろ大量の補給物資を持って来てくれているというのは先触れで伝達済み。むしろヒード側がお礼をしなければならない状態でした。


そのため、急いで顔を上げてもらわねばなりません。ヒード側の代表として、ダチョウたちに一番近い存在であるマティルデが声を上げます。



「軍師殿、頭をお上げください。幸い我らに被害は一切出ておりません。むしろ来ていただいたことに対し我らが礼をしなければならぬ側、お気になさらず。」



このようなやり取りが何回か続き、ヒード側が謝罪を、ナガン側が礼を受け取ることでようやく収まりが付き、姿勢を元に戻す軍師さん。


顔を上げる時に少しだけ防壁の上にいる兵士さんや、マティルデの後ろにいる兵士さんたちの顔の様子を見ましたが、ナガン王国に対する警戒心というのは少し収まったようです。まだ彼の求めるレベルには達していないようでしたが、布石としては十分だったのでしょう。脳内で手順を確認しながら、もう一度彼が口を開きました。



「それで、可能でしたらかの『ダチョウ』の方々にも直接お会いして謝罪の方を……。」



その言葉が出た瞬間、マティルデの体が少し強張ります。ナガン側が持ってきた救援物資の内訳は先触れの人が持ってきた資料で把握済みです。ざっとマティルデが見た感じ普通の物資であり、量が異様に多いこと以外は何でもないものでした。しかしながら彼女には、軍師が『別にこれぐらいなら情報開示しても大丈夫ですよ~』と言っているようにしか思えません。


何せ相手は頭脳だけで特記戦力になってしまった相手、そして通常の特記戦力とは違い、戦場だけではなくこういった日常の一場面でもその能力を遺憾なく発揮してくる相手です。自分がこのように疑心を抱いていることすら利用してきそうな相手。正直何も信用できません。しかしながら相手の言い分は真っ当、そして同盟国の要請となれば断るわけにはいきませんでした。



「伝令を頂いたのが先触れが到着するほんの少し前でな、現在レイス殿は準備中だ。この場にいらっしゃるとお聞きしているし、少々待たれ……ッ!!!」



この場で待っていてくれ、そんな言葉が紡がれようとした瞬間。空気が、変わります。


瞬時に世界から色が消え、感じるのは純粋な恐怖。死という存在が、直ぐ近くにいる。この一帯にいた人間は、それを理解した、いえしてしまいました。"特記戦力"と呼ばれる存在が、覇気を以ってこちらに近づいてくる。この場にいる全員が、それを理解します。



「ッ!」



色が消え硬直した世界の中で、一番早く動き出したのは軍師くんでした。"特記戦力"として自身以外の存在にも会ったことがあったからか、それとも事前に覚悟が出来ていたのかすぐさま自身の身だしなみを確認し、背後に控える部下たちにも指示を出します。自分たちはすでに恨みを買っている身、しかしながら国としてあの攻撃は『一貴族の暴走』として処理してしまった以上、国として正式に謝ることは出来ません。


むしろ謝らない方がよいまであります。軍師くんの下に集まった情報を見る限り、レイスという存在は案外話が通じる相手であり、その価値観も比較的一般のものに近い。そのため『ウチの部下が暴走してしまい、本当に申し訳ない!』ならばまだ同情して許してもらえる可能性がありました。しかし『私のせいですごめんなさい!』と言ってしまうと、なら責任を取れということで国ごと壊される、という可能性もあったのです。


選ぶならば圧倒的に前者だったが故の、選択でした。




「(気を、強く持たなければッ!)」




おそらくその場にいた全員がそう思い、気を引き締めた瞬間。



彼女たちの姿が、視界に入る。



鳥の獣人たち、総勢300が。



たった一人の長によって、率いられる光景。



全員が長の命に従い、ゆっくりと歩を進める。



そして、ダチョウたちの女王である"レイス"と。



ナガンが誇る特記戦力である"軍師"の眼があった瞬間。






その全てが、破壊される。






レイスがそれまで振りまいていた覇気が、一方向。ナガンの兵たちがいた方向へと固定される。




その瞬間、覇気が、倍増した。




すでにナガンの一般兵のみならず、事前に通達していたはずのヒードの兵士まで失神。聞いていたけど覚悟できていなかったこの町の領主さんは色々まき散らしながら夢の世界へ、マティルデさえもそのまま立っていることが難しく、思わず膝を突いてしまう。


そして、肝心の軍師くんは……。



「(マズいマズいマズいマズい……ッ!!!)」



盛大に、勘違いしておられた。


レイスちゃんが現在絶賛『うわ、やらかしたかも。』と滅茶苦茶後悔しながら、ぶっ倒れた人大丈夫かな? ケガしてないかな? とすごく心配しているのであるが、軍師くんから見た場合、全然違う。


一度ケンカを売ったのに卑怯な手を使って逃げてきたナガンと言う敵を消し飛ばすために、値踏みしながらゆっくりと歩いているようにしか見えないのだ。それがダチョウの習性ということを知らない軍師からすれば、彼女がこちらと目があった瞬間に威圧の圧力を高めたことや、他の部下たちと一緒にこの場に来ていることの説明ができなかった。



「(何が、何が正解だッ!)」



その頭脳を回し続ける軍師、何の覚悟もなくこの場に立っていれば一般人に毛の生えた程度の力量しかない彼は即座に意識を手放していただろう。しかし、背後に控えていた赤騎士の様子、体を震わせその全身鎧を煩いほどに鳴らし口から意味のないうわごとを漏らしてしまうという醜態をさらしてしまった彼女がいたおかげか、何とか正気を保つことが出来た。


そして、過去に同格とまではいかないが同じような特記戦力と戦い抜いて来た経験が生きる。重圧に押しつぶされそうになりながらも、彼の思考は回り続ける。


先ほど述べたように、国の責任として認めてしまえば終わる。謝罪にも謝罪のタイミングがあり、即座に謝ってしまえば不信感を募らせてしまうだけ。謝り方も自身が悪いのではなく、自身の部下が暴走してしまい申し訳ない、その意図を伝えられるような謝り方をしなければならない。だが、相手の怒りが暴発するタイミングが解らない。



思考は巡れど時間は進み、彼女がゆっくりと距離を詰めるほどに脱落者が増えていく。背後に詰めていた赤騎士も落ち、何とか確実にナガンの存続へと繋げることのできる策を構築し終わった瞬間。


彼女が、目の前に。



「やぁ、キミが軍師、かい?」


「はい。初めまして、レイス殿。」



その身に振りかかる純粋な暴力、死の恐怖を意志の力のみで耐えながら。震えを抑えながら彼はそう、答える。



そして……。



「こちらこそ初めまして、軍師殿。それで……、ちょっとやり過ぎちゃった、てへぺろ☆」







一瞬で、素に戻る。







「………………は?」





最後に残ったのは、今世紀で一番状況を把握できていない軍師さんと、色々漏らして大変なことになってる兵士さんたち、あと狩りの予定が無くなり暇になったので、勝手に遊び始めたダチョウさんたちでした。
















「? かり、おしまい?」

「なし?」

「おわり?」


「ママ―? 狩りしないの?」


「ああ、うん、しないよ。今日のお仕事終わり! 遊んでおいで。」


「あそぶ?」

「あそぶ!」

「なんかくちゃい。」

「ほんとだ。」

「わー!」

「にげろー!」






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[気になる点] さすがに主人公の特製と世界システムの相性良すぎでは… セルフ脳破壊繰り返して無限の魔力でステバフするだけで簡単に世界最強になれちゃうから特記戦力どうのと気を回すのが舐めプでしかない
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