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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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29:ダチョウと決着





「(……想定よりも学習のスピードが早いッ!)」



脳内でそう叫ぶ獣王。しかしながら魔力によって強化された全身、そこから繰り出される攻撃には一切陰りがない。常に平静を保ちながらも、同時に熱き闘志を燃やし続ける彼、しかしながら世界のバグとも呼べるような化け物を目の前にして、叫ばずにいられるほど彼の心は死んでいなかった。


一度見せた技が、劣化コピーとは言えほぼ真似されてしまう。魔力を四肢に予め多く集めておくことで即座に攻撃、もしくは防御に移せる技術も。それを前提に組み上げた武術も、そしてその術たちをどのように構成し攻撃へと繋げていくかという思考も。少しずつ、確実に盗まれている。


確かに、その魔力操作はお粗末なものだ。時間経過によって少しずつ向上していると言えども、いまだロスが非常に多い。本来魔力による身体能力の強化は体内で完結するため、外に魔力が漏れることはありえない。外部に漏れた魔力はそのまま霧散し、ロスになってしまう。しかしながら彼女は、その身に宿る圧倒的な魔力によって、その浪費を無視している。



「(常人であれば一秒と経たぬうちに干からびてしまいそうなほどの魔力を浪費しているというのに! 未だその魔力に限りがないッ!)」


「あはははは! まぁ~だまだ! やれるよねぇ!」


「ッ! (多重魔力防壁・最大出力!)」



大きく振り上げ、全力で落とされる踵。両腕をクロスさせ同時に腕に溜めてあった魔力を全て吐き出し防壁を生成する。一枚では確実に破壊し、脳天まで貫かれてしまう。そう判断した獣王は、3枚の防壁を生成し、それを受け止めた。


一枚目が瞬く間に粉々にされ、二枚目が一瞬受け止めたのちに霧散する。そして三枚目で何とか受け止めることが出来たが、獣王の眼前にいる化け物は"ダチョウ"である。その脚力は素の状態で重装歩兵を蹴り飛ばせるレベル、それが魔力によって強化されているのだ。尋常な威力ではない。


レイスの足を受け止めた衝撃により、獣王の両足に接していた地面が割れ、一瞬にして陥没する。彼を中心にした巨大なクレーターの出来上がりだ。元々のどかな草原であったこの場所は二人の戦闘によって破壊しつくされており、幼子が走り回り自然を謳歌できるようなものは一かけらも残っていない。



「(そこッ!)」



地面が陥没するほどに押し込まれる、一見して獣王が不利に追い込まれたと思うような状況ではあるが、彼はそれを狙っていた。レイスが飛び上がり、踵を落とすということは彼女の身体は獣王の上に存在する。そして、地面が陥没するほど押し込まれるということは、彼の口。魔力砲を至近距離で撃ちこむことが出来るということ。



「くら……、ッ!!!」



口内に集めた魔力を解き放とうとし、上を見上げる。


そこには、彼と同じように、口に魔力砲をチャージしたレイスの姿が。



「お・ん・な・じ!」


「ッ!!!」



即座に口に溜めた魔力砲をキャンセルし、足から全力で魔力を放出させる。


同じ技の打ち合いになった時、獣王は圧倒的な不利に陥ってしまう。未だ技術や経験の差は歴然としているが、相手の魔力量はそれを全て無に帰してしまう。打ち合いになった場合、相手に手傷を与えられるかもしれないが、確実にその有り余る魔力によって回復される。さらに出力はすでにあちらの方が上、最終的に彼が消し飛び、レイスが無傷と言う状況になってしまう。


故に、選ぶのは逃走。


足裏から魔力砲を発射し、即座に退避する彼。そして彼が先ほどまでいた場所に、放たれる極光。全てを焼き尽くし、破壊しつくす魔力による単純な暴力。自身が積み上げ、使用してきたからこそ理解できる脅威。獣王の額に、何度目か解らぬ冷や汗が流れた。



「あ~あ、避けられちゃった。ざんね~ん。」


「…………ッ!」


「ん~? あ、もしかして魔力量の話? あはー! 私全然減ってないどころか、増えてるもんねぇ? なんかね、そういう体質ってのがあるんだってー! ふっしぎぃー!」



獣王の脳裏に浮かぶ情報、ブラフと言う可能性もあるが、獣王の視点から見ても今のレイスはかなりおかしくなっている。自身の手で脳を破壊し、再生するという荒業。急激に脳へと叩き込まれる魔力の流れから、獣王は彼女の体内で何が起きていたのかを理解していた。脳が新しくなったことで、脳の破壊と再生時に生じる痛みを誤魔化すために脳内麻薬が大量に放出されているのだろう。


本来ならば痛みが止まる程度、ここまでハイな状態にはならないだろうが、生物の設計上ありえないこと。脳が全損した後に再生するという理解できぬ事象が起こったため、脳の機能がおかしくなっていると考えられる。つまり必要以上に脳内麻薬が吐き出されているということ。


そして、本来生物が死に至るような状況からの生還。それにより生じる魔力の爆増。



「…………化け物かッ!」


「あはは! ある意味そうかも! かわいいバケモノちゃんでぇーすっ!」



つまり、眼前のダチョウを名乗る女を殺すには、それこそ全身を消し飛ばすようなものでないといけない。中途半端な威力では利敵行為になってしまう。


獣王の想定以上に学習が早い、また彼も理解し始めたことであるが眼前の彼女はすでに方針を"殺し"、から"学び"に切り替えている。つまり獣王の持つすべてをラーニングし終わるまでこの戦いは続き、彼女が満足してしまった瞬間この戦いは終わりを告げるということ。獣王が望んでいた短期決戦はすでに失敗し、今彼はレイスによって生かされている状態に陥ってしまった。


ならば、学習されるよりも早く押し切ろうと考え、体内の魔力構成を変化。単純な魔力の放出である『魔力砲』に属性を付与し、多種多様な攻撃を繰りだそうと考えた獣王であったが……。



「次はァ……、属性付与とかかなァ!? なに見せてくれるのかなァ!」



すぐにその手を止める。


先ほどなんとか避けることが出来た攻撃の着地点、そこにはこちらを楽しそうに見つめながら、この世界全体が自身のおもちゃ箱だという風に笑うレイスの姿が。完全にキマっている、それだけを見ればただのクスリをやっている人間にしか見えないが、彼女の脳は歓喜と憎悪で踊りながらも確実に正解をはじき出していた。


学ぶ速度が早いということは、停滞した状況の間に予習。もしくは予想する時間を生んでしまうということに他ならない。獣王にとって不利な状況と言うことはレイスも解っていたが故の回答だった。



「…………。」



魔力構成を元の状態に戻しながら、もう一度構え直す獣王。


属性魔法は確かに威力の向上を見込めるが、敵の耐性によってその威力が激しく変化する。ダチョウが一定以上の電気に対し耐性を持つのと同じように、獣人の中にはいくつかの属性に対し完全耐性を持つ存在がいる。そんな者に対して、無効化される攻撃を放つということは隙にしかならない。


相手の成長速度やスペック差などを前にし、功を焦り過ぎたと自戒しながら方針の変更を行う獣王。


中途半端な攻撃は相手にとって利でしかない。体質による魔力回復もいずれ限界が訪れることを彼は知っていたが、それがどのタイミングで訪れるかは不明。そもそも賭けが成立しそうにない『相手の息切れ待ち』をする気は彼になかった。つまり、残されたのは最大出力による攻撃。自身が持つ全て、文字通り全てを使用した攻撃で相手を消し飛ばす。



「(これが失敗すれば終わる。……だが、やるしかないッ!)」










 ◇◆◇◆◇









「あれ、やめちゃうの? ざんねーん!」



獣王が行っていた特殊な魔力操作、おそらくだけど属性の付与ってのを止めてしまう。


え~! せっかく面白そうな技術だったのに! さきっぽだけ見せてしまっちゃうとかいじらしい奴め! ちゃんと全容を把握する前に元に戻しちゃったせいでどんなのかわかんなかったじゃん! けちんぼ! きりゃい! レイスちゃんを怒らせたから獣王君には高原で木を数える仕事をしてもらいまーす! 大丈夫だよ! 身の危険しかないから!


そんなことを考えながら、より深くで思考を回す。


さっき口にしたけれど、おそらく属性系の魔法を使おうとしていたのだろう。それこそ『魔力砲』に属性を乗せる、って感じ。今はただの極光が発射されているだけだけど、多分火の柱みたいなビームが出せるようになるって感じなんじゃない? それこそちゃんと見て、自分の身で受けてみればすぐに再現できるとは思うんだけど……、やってくれないのなら無理だね。



(と、なると何をしてくるか。)



あの獣王ちゃんと結構やり合って、ハイな状態も少しは落ち着いてきている。思考の表層や口調は未だ継続中ではあるが根っこの思考はちょっとずつであるが冷静になり始めている。


相手、獣王の置かれた状況ってのはかなりヤバいはずだ。私は今も技術向上の真っただ中であるし、同時に魔力も潤沢に残っている。体を作り替えたおかげかすべての動きが、とてもキレている。ゲームで例えると常時クリティカル状態っていったところだろうか。実際は違うかもしれないが、気分は本当にそんな感じ。


対して相手はかなり消耗している、目立った傷跡は無いに等しいけれど所々煤けている。それに技のキレは衰えてないが、少しだけ体が付いて行ってない。疲労によるスペックの低下だろう。そして何よりも彼の戦いを支えている魔力の消費、未だアメリアさんの最大魔力よりも多そうに感じるが、戦い始めた時よりも大分少なくなっている。



「ハァッ!」


「アハ! きたきた来たァ!」



脚部から魔力を発し、距離を詰めてくる獣王。接近戦をお望みの様だ。


ただ少し、速度が遅い。出力の低下? いや、魔力の温存か。



(自分が相手ならばどうする?)



突き出された拳を翼で受け流しながら思考を深めていく、その代わりお口が脊髄になっちゃうから多分ヤバいこと喋ってるんだろうがそのあたりは気にしない。突き出される拳や足、先ほど獣王が見せてくれた経験に基づいた武術。そこに魔力による身体能力へのバフが乗った強烈な一撃。普通に貰えば今の私でも結構痛い攻撃だ。


だが、先ほどまでならそこに『魔力砲』を合わせていたはずだ。私も現在真似しているけれど、この組み合わせがかなり厄介。なんだろ、ガンカタみたいな感じ? まぁあっちは拳銃でこっちは破壊光線なワケだけどさ。普通のパンチかと思ったらお手手からビームが出てくるから面倒なんだよねぇ。だから私と"普通"に戦うならば、使わないと逆に不利な攻撃だ。



(……こっちの攻撃は、魔力防壁で防御される。)



そんなことを考えながら、攻撃を組み立てていく。


うん、やっぱ魔力温存して何か企んでるよね。かといって奴の体内に流れる魔力の変化は見えない。あ~! 多分アメリアさんとかだったら解るんだろうけどなぁ~! コレ、絶対経験不足な奴! となったらもうライフで受けるしかないじゃない! 俺は魔法カード! 【魔力による肉体硬度の増強】を発動するゼ! もう自分でも最大量の把握が出来ない魔力を生贄に、自身のDefense力を3000ポイントアップするぜ!


強靭! 無敵! レイスちゃん最強ーッ!



「ッ!」



うんうん、やーっぱバレるよね! 私たち魔法が扱える人間は目に魔力を通して物事を見ることが出来る! 故に私が体に回す魔力を上げて防御力の向上に取り組んだのはモロバレ! でもそれぐらい想定済みでしょ? でしょ? これまで通りの身体強化に! 常時回し続ける回復! そして足や翼に溜めた『魔力砲』用の魔力! ここに追加で防御力向上もぶち込めば流石に頭の容量がカツカツだけど、問題は無し!


なんてったって私の脳みそは新品! もちろん魔法使用の容量も向上中! ちょっとしんどくて裏で思考を回せないぐらいの影響のみ! 



「さぁさぁさぁ! 何を見せてくれるつもりだったのかな! 早く教えてぇー!」



そう言いながら、全力で蹴りを繰り出す。


ここで終わるのならばそれまでの存在、起死回生の一手を見せられないままに終わるってのも乙なものなんじゃない!? 


片足を地面につけたまま、もう片方で狙うのは相手の頭部。ハイキックだ。


前世の世界、私たちの元になったダチョウですら蹴りを直撃させればライオンを殺すことが出来る。そもそもライオン自体百獣の王なんて呼ばれているが、それは人間が勝手につけた称号だ。ライオンより強い生物なんてもっと大量にいる。故にダチョウの脚力、そして魔力強化によって底上げされたこの力で蹴られれば、確実に殺せる。


それは相手も理解しているのだろう。腕を上げ、これまでと同じように魔力防壁をはら……



(……張らない?)



そのまま、何もしない獣王。



何かある。



そう思ったがすでに振り抜いた足は止まらない、その無防備な獣王の腕に触れた瞬間。








爆発する。










「ッ!」





爆風に吹き飛ばされ、地面を転がる。


結構な威力ではあったけれど、そもそも防御態勢を整えていたおかげか、こちらにダメージはない。だが、かなり距離を取られてしまった。



(一体何を……、ッ!)



足爪を地面へと突き立て、速度を急速に落としていく。その後は爆発によって舞い上がった土埃たち、視界を遮る邪魔なソレを全力で翼を振るうことによって吹き飛ばす。これで視界の確保ができたわけだが……。



(奴の腕が、ない。)



先ほどの爆発のせいか、獣王がガードしたはずの腕が根元からなくなっている。確かにかなり規模のデカい爆発であったが、奴であれば防御できたはずだ、何故わざわざ腕を捨てた? まぁ何となくだがどうやって腕をぶっ壊したかの原理は解る。腕の中で魔力を限界まで高速回転させ、外部からの衝撃を受けた瞬間に外方向へと爆散するような指示を与えていたのだろう。


いわば体内で引き起こす魔力砲、多分この威力的に何かしらの属性を付与しているっぽいが、そこまでは解らない。


魔力爆発のせいで獣王の魔力が散らばっているせいか、そこまで詳しく見えないん……




「……あぁ、なるほど。」



つい、感心の声を上げてしまう。


土煙による通常の目隠しと、腕を魔力によって爆散させることで引き起こした魔術的なジャミング。目に魔力を通したとしても見えなかったであろうソレ。彼にとっては十二分なチャージ時間だったのだろう。


獣王の口内に、これまで見た中で一番大きな魔力球が浮かんでいる。


彼の体の中にはほとんど魔力が残っていない、つまり、アレで決めるつもりだ。










「ガァァァアアアアア!!!!!」











それを視認できた時にはもう遅い、魔力球が解放される。


瞬間、視界いっぱいに広がる魔力砲の極光。



「わぁ。」



あ、これ、いたい。肌が焼かれるね……、うん。この威力じゃ回復が追いつかないや。うんうん、確かに決死の一撃だね。これを生身で受けちゃったら流石に死んでたと思う、さすがの私も全部吹き飛ばされたら死んじゃうだろうしね~! あと首ちょんぱされた後に一定時間そのままにされたら死ぬと思う。


……、え? なんで死にそうなのに慌ててないのかって?



「だって切り抜け方、もう教えてもらってるし。」



私が繰り出した『なんちゃって魔力砲』、獣王がそれを体で受けた時、極光、魔力の奔流を切り裂いて安全圏を確保していた。今からそれをすればいいわけだ、けどまぁ……。ちょっと情報不足。魔力に呑まれてた、ってことは外側から魔力視しても見えない訳で。ほら、めちゃくちゃ明るい部屋で懐中電灯付けても『まぶし!』とはならないでしょ? そういう感じ。


だから自己流でやる必要があるわけだ。



「ま、つまり安全圏を確保できればいいわけでしょ?」



極光の中で、体内の魔力を回す。両翼を胸の前に合わせ、魔力を練っていく。まだ完全とは言えないが、獣王という良いお手本がいたおかげで魔力操作の技術はかなり向上することが出来た。いわばこれは、生徒から先生への贈り物。今日の授業に対するレポート提出だ。


想像するのは、あの獣王の芸術品とも呼べる魔力球。


魔力の線を一本一本撚り合わせ、塊を形成していく。



そして。





「放つ。」





私の体内と同じように魔力で満たされた魔力球、そこに開かれる針一本の小さな穴。


その瞬間、世界が切り替わる。


極光の中に生まれるのは、黒い光。単純な魔力の放出ではなく、練り込まれたドス黒い魔力の集合体。私の体がちょうど収まるほどの小さな黒の光は確実に白い光を押し返していく。


獣王も私が光の中で何かしているのに気が付いたのだろう、即座に威力を押し上げる。もう魔力なんてほとんど残っていないだろうに。……けれど、こっちの方が威力が高い。少しずつ、確実に獣王の魔力を押し返していく。


……この一撃に彼は文字通り全てを懸けていたのだろう。確かに、この攻撃は私を殺しうる一撃ではあった。もしここに私と彼以外の要因、私の子供たちだったり、彼の臣下たちがいればあっちに軍配が上がっていてもおかしくはなかったかもね。


うん、いい先生であり、いい相手だった。





終わらせよう。





編み上げた魔力球にさらに魔力を押し込み、より圧力を高める。


より威力を増した黒い光は、白い極光を貫き。


確実に、破壊した。







































ゆっくりと、歩を進める。



「……あぁ、やっぱ生きてるか。」


「…………おまえ、か。」



すでに魔力はカラで、下半身は消し飛んでいる。全身傷だらけで所々焦げているが、上半身だけでも残ったのはさすが"特記戦力"と言うべきか。結構、本気で消し飛ばす気でいたんだけどね?



「無傷、か。」


「いーや? 結構削られたよ? 無防備で喰らったら多分消し飛ばされてただろうね。ま、私の成長の方が早かった、ってことで。ありがとね、せんせ?」


「…………はッ。」



軽く笑い飛ばす獣王、既に死が近いせいかあまりうまく笑えていない。すこしだけ、いやかなり悔しいことにコイツはちょっと清々しい顔をしている。それ以外に多くの感情もあるだろうが、これだけやって無理ならば仕方ない。みたいな感情が見えてくる。あーあ、絶望させて殺そうとしてたのに。失敗しちゃったじゃんか。



「……貴殿は、獣王の地位に、興味は、ある、か?」


「獣王? ……もしかして戦って一番強い奴が王様になるってシステムなの? ないない、これでも保育園のママさんでね。子守で手一杯さ。これ以上抱え込むのはご勘弁。」


「そう、か。」



ま、王様ならそれ相応の苦労があるんだろうし、コイツにもコイツの人生があったはずだ。


獣王の話を持ち掛けるコイツの眼は、芯のある目をしていた。自分の後ろにいる人を守る者の眼、個人的に好みな眼だ。ただ殺戮を楽しむような狂人のものではない、守護者、と言うべきか。……ちょっと似てるのかな。


私が殺し尽くした兵士や指揮官の中にも友人とか戦友とかたくさんいたんだろう。けどまぁ、コレが戦争で、今のこの大陸が戦乱の時代ならどうしようもないところがある。今回私たちが生き残って、コイツが死ぬのも、ね? 色々踏ん切りをつけていくしかない。


もし戦争などなくて、コイツが私の子供たちを傷つけていなければ、違った未来があったのかもしれない。







「……まぁ、気が向いたら気に掛けるぐらいはしてあげるよ。どうせ私らは"雇われ"、最後は自分たちで決めるんだ。攻撃されない限り、こっちから何かする気はないよ。」


「……………そう、か。すこしだけ、あんし、ん。し……」







動かなくなった獣王の眼を、閉じてやる。


当初の予定通りとはいかなかったが、恨みは晴らした。学べるものも学んだしね。


……獣王、"シー"。覚えておくとしますか。あ、でも私ダチョウだからさ、記憶力には期待しないでよ?





「さって、アメリアさんやマティルデに任せてるから大丈夫だとは思うけど……、さっさと帰ってウチの子たちの面倒を見に行くとしますか! 急がなきゃねッ!」






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― 新着の感想 ―
決着! 話し合いで解決できていれば、レイスの副官になれたかもしれない獣王 かなり多彩な能力の持ち主でした ダチョウ軍団の人財的には残念
獣王は賢くて強い、良い王様だったね。 獣王を軍師は完封出来るってマジなのか? 足から噴射するやつで距離取りつつ、魔力砲何回も撃たれるだけで詰みそう。
[良い点] レイスさんの思惑通りにはならなかったですが、最後まで王として戦い、背負うべきものを背負い続けていた獣王シーさん、格好良かったです。 本当に別の道があれば、良き師匠、良き友になっていたのでは…
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