28:ダチョウと獣王
魔力を"回復"のために注ぎ込みながら、体を再生していく。
どういう仕組みで戻っているのかもわからないし、何故自分がコレを出来ているのかも正直解らない。体に元々備わっている機能をそのまま使っている、そんな感じだ。まぁこの世界に生まれ落ちてから何度も使用している"力"だからね、そう変なことにはならないでしょうよ。バグっておかしなことになっちゃったら、脳みそを叩き潰して強制リセットすればいいしね!
魔力をエネルギーに変換し、この身に宿る"回復力"へと注ぎ込む。どこに注ぐかとか意識する必要はない、全力で魔力を体の隅々まで巡らせるだけ。回転速度が上がれば上がるほど体温は上がり、膨大な熱量となる。体が燃えるように熱いが、それでいい。本来の回復効果・速度を大幅に上回り稼働している証拠だ。
(失った部分をより強く新しいものへ、まぁそれだけだと体のバランスがおかしくなっちゃうからね。全部総入れ替えだ。)
両足は残ってはいるが、中身が結構やられている。翼は片方ないし、もう片方は千切れかけ。車だったら修理するより新車を買った方が安く済むレベル。それなら最初から全部作り直せば良いじゃない、ってことだ。半分だけ新品になった脳みそくんが全身へと指示を送り、魔力を回していく。
焼け焦げた肌が徐々に元に戻っていき、体から抜けていた血液が再び生成され始める。無くなってしまった左翼の感覚も、根元からパッと生えてきたら元通り。……うんうん、顔のあたりの感覚も戻って来たし、後数秒で完全回復かなぁ。
「……再生持ちか。」
「お、戻って来たねぇ。」
そんな風に回復をしていると、ようやく相手さんが戻っていらっしゃった。どうやら、さっきの魔力砲……? でいいのかな? あれを足裏から射出することで高速ホバー移動を可能としているらしい、なるほどねぇ。軽く見た感じ、バランス感覚と出力の調整が面倒そうだが……、とても便利だろう。ダチョウには出来ぬ大空の旅ができるかもしれないし、こんど練習してみようか。
にしても……、本当に無傷だな。いや、確かにその身に宿す魔力は相応に減っている。けれど微々たるもの。ちゃんとした外傷は見えていない。魔力を拡散して放出したのが仇となってしまったのだろう。ウチの子たちを逃がす時間を稼ぐことは出来たが、逆に言うとソレしかできなかった。……まぁ、それでいい。あそこで死なれたら色々と興ざめ、だからね。
「それで? お前は『獣王』ってことでいいのかな?」
「……いかにも。」
あはー、やっぱりか。……マティルデが嘘つくとは思えないし、ヒード王国側がわざわざ嘘をつく理由が見えない。
私、いや私たちは一時的にヒード王国についているが、より良い条件を提示されたりヒード王国に旨味を感じなくなればすぐに出ていくことが出来る状況だ。聞いた感じ"特記戦力"は前世の地球で言う核兵器みたいなもん、抑止力に成り得る存在だ。そんな私たちに嫌われて出ていかれれば国として終わり、デメリットしかない。
それに、話してた感じ宰相さんはまともな人だった。幼女王はあの年齢にしては色々達観しすぎているような気がしたけど……、別に騙そうという意志は見えなかった。まぁ私は高原生活が長いわけだから、策略とかそういうのには疎い。故にあんまり信用できないけど、少なくとも私は大丈夫だと判断している。
つまりヒード王国側が私たちを騙すメリットはなさそうに思えるし、騙されたという線はない。……となるとこの獣王さんが一歩上手だった、ってことだ。
「魔力の隠蔽、だっけ? よくできてたよねぇ、いい感じに喰らっちゃったもん。びっくりしちゃった。」
「……。」
「まぁおかげさまで色々見えてきたのだけれど……、一応そこは礼をしておこうかな?」
片翼を軽く広げながら、その上に魔力球を生成してみる。さっき見たコイツのようにまだ上手く練ることは出来ない。けれど死にかけるまで一切魔力を運用できなかった私が、今じゃ手に取る様に動かすことが出来る。これほどいいオモチャはないだろう。"お返し"をしなければ"ダチョウ"が廃るというものだろう。
「あぁ、そうだ。名乗りはいるかい? このあたりの礼儀作法は全く解らなくてね。一応名乗っとくよ、"レイス"だ。さっきのあの子たち、ダチョウたちの族長をしているよ。」
「…………チャーダ獣王国が王、"シー"。」
「ふぅん。まぁ覚える気ないけど。じゃ、死のうか。」
とりあえず作法は果たした、後は殺すだけ。
そういった瞬間、翼の上に生成していた魔力球を解放し、獣王に向かって魔力砲を撃ちこむ。
正直ね、腸が煮えくり返りそうなほどに怒ってるんだ。
もう治ったけどあんな大怪我させられたから? あぁもちろん。それも少しはある。けれどね? それ以上に。
ウチの子たちを傷つけた落とし前、どう取らしてやろうか。
群れの子たちは私が高原にいたころからずっと面倒を見てきた子たち、全員が自分の家族で、年上もいるけどみんなが私の子供みたいなものだ。デレだけじゃない、全員が私にとって大切な存在。それを、それを傷つけた? 今すぐその体を細切れにしてやりたい。仲間を傷つけ、それを見てしまった他の子たちの心を傷つけた。絶対に、生きては返さない。
同時に、自分への怒りもある。
私がもっと強ければ、こんなこと起きなかった。私が完全に魔力をものにしていれば何とかなったはず。あの攻撃も完全に受け止め、獣王ごと敵軍の全てを葬り去ることが出来たはずだ。
自分の弱さに、心底腹が立つ。
(だからお前を、糧にさせて貰おう。)
どうせ殺すのだ。ただ自身の怒りの発散のために使うのは少々命に対して失礼という物だろう。何より"デレ"から初めて"ママ"と呼ばれたのだ、母親として呼ばれたからには、それ相応の振る舞いが求められる。怒りに任せて破壊しつくすのは教育に悪い、"族長"として、"ダチョウたちの長"として、対応しよう。
高原では、私たちは必要以上の狩りを行わなかった。殺す時は食べる時か、身を守るときだけ。それが自然の摂理ってものだ。流石に相手が人な以上、食べる気は正直起きない。故にその体ではなくその身に刻まれた知識、そして技術。余すことなく喰らいきってやろう。それが最低限の礼儀。
「と、撃ってみたけれど……、やっぱダメか。」
先ほどと同じように、魔力球をそのまま放出させる。しかし変更点が一つ、さっきの攻撃は獣王の後ろにいた他の獣王国兵を纏めて焼き尽くすために放った。けれどそれでは獣王を殺すことは不可能。ならば拡散ではなく、収束。
自身、まだそこまでちゃんとした魔力操作は経験不足で出来ない。精々元々私の体内で圧縮していた魔力を切り取って、丸める。そしてその球体に穴をあけてそこから全力で押し出す。獣王が見せた美術品のような『魔力砲』とは違い、『なんちゃって魔力砲』だ。魔力消費効率やらなんやら、色々彼のものと比べ劣っているだろうけど……。
感覚的には、さっき獣王がした攻撃よりも威力は上。
けれど、やはり手ごたえはない。
「……あぁ、なるほど。切り裂いているのか。」
私が放った魔力砲、それによって生み出された極光。
その光がゆっくりと収まっていくと、見えてくるのはその手を前に突き出した獣王ちゃん。軽く見た感じ、腕に結構な魔力が宿っている。どうやら私が放った魔力砲を切り裂いて安置を確保したようだ。なるほどねぇ……、確かに無傷。けれど肩で息をしていらっしゃる。そう何度も出来ない技みたいねぇ。
(私の魔力はまだまだ残っている、このまま近寄らせずに斉射し続ければまぁ勝てるだろう。けれど、あっけない勝利だ。面白みに欠ける。)
死ぬならば自分の全てを出し切って、何も通用しないままに絶望のまま死んでほしい。何もできずに死ぬとなると、どこかに諦めが生まれてしまうだろう。『これができる相手に負けたのならしょうがない』、と。私の子供たちを傷つけた奴がそんな心持で死ぬ? んなもん許すわけねぇだろうが。お前は私の糧になって、絶望のまま死んでいくんだ。
「さぁ、私の"糧"として、楽しませてくれよ。」
◇◆◇◆◇
獣王は、肩で息を整えながら、同時に魔力の流れを元に戻していく。
「(あ、あれは魔法などではないッ! ただ、魔力を放出しているだけッ!)」
魔法を触ったことがある者ならば一目で解る事実。しかしながらその非現実さ故に、獣王は混乱と恐怖をその心に宿していた。
先ほどレイスが放ったもの、彼女は『なんちゃって魔力砲』と言っていたが、アレはそんな可愛らしいものではない。
アレは、ただの魔力の塊だ。
「(普通、魔法であれば魔力消費1に対し2以上の威力を発揮する……、しかし!)」
獣王が操る『魔力砲』、その根本となっている魔法は、単純なもの。魔法使いであればだれでも使用できる初心者向けの魔法だ。しかしながら彼は、その卓越した魔力操作によりその効果を飛躍的に高めていた。単純故に威力が低いその魔法は、通常1の魔力消費で2の威力を齎すものである。
しかしながら獣王はその魔法のみを使用し、体になじませ最適化し続けることで、1の魔力消費によって100以上の威力を引き出せるようになった。多くの者が魔力消費を上げて威力を上げたり、属性を付与し威力向上やそのほかの効果を付与している間、彼はずっと『魔力砲』を使用し続けていた。
故に彼は最低限度の魔力を使用し、最大限の効果を発揮する。特記戦力としては中位の実力しかないが、その継続戦闘能力や格下の殲滅能力は非常に高い存在だった。
そんな彼だからこそ、目の前のレイスと名乗った女の異常さが理解できる。
「(奴の『魔力砲』、いやあれはただの"放出"! 1対1の等価交換ッ!)」
レイスの放つ『なんちゃって魔力砲』、それは1000の魔力を消費し、1000の威力を生み出すという魔法使いであれば卒倒しそうなほどの非効率さ。しかも未だ魔力操作を完全に習熟していないせいか、むしろ損をしている。1000の魔力を消費しているのに、及ぼす効果は900~800。魔法使い、それも特記戦力となればありえないほどのロスである。
本来、そんなことをし続ければすぐに魔力がそこを突き、倒れてしまいそうなほどなのだが……
「(魔力が、魔力が一切減っていない! いや、総量が大きすぎるのかッ!)」
獣王は知らぬことだが、レイスの体は世界のバグのような存在である。
確かにダチョウという種族は体が一部破損しても回復できるほどの力はあるし、同じ攻撃を受けても無事でいられるように回復した後はそれに対する耐性など一定の向上が見られる。しかしながら、それはレイスに比べれば微々たるものだ。脳が弾け飛んだとしても修復し、魔力と言うブーストがありながらも欠損した部位を一から作り直す。
さらに、レイスの肉体はただ直すだけでは飽き足らない。二度と同じ方法で破壊されないように、より強固なものとして作り直してしまう性質。そしてより死に近づいた時に、魔力総量が大幅に上昇するという性質。死にかければ死にかけるほど強くなる彼女は、幼少期に幾度となく脳を破壊し、生き返ってきた。
そして、つい先ほど。また彼女は舞い戻ってきた。
魔力総量はさらに跳ね上がり、彼女自身自覚できないほどに膨れ上がっている。最初は魔王一人だけだったのが、もう一人増えて肩を組みながらタップダンスを踊っているような状況である。そもそも魔王レベルの魔力で、特記戦力中位たる獣王が恐怖を覚えてしまうのだ。流石に倍増とまではいかないが、それほどまでに相手の魔力が増えていることに気が付いた時。彼は何を思うのか。
……そして。これだけで獣王にとって絶望的な事実ではあるが、まだ彼女の異常さは止まらない。
彼女は見て、実践し、覚えるタイプである。それも常人とは比べ物にならぬ速度で理解することが出来る。
元々そういった資質を兼ね備えていたのだろうか。彼女は10年間のダチョウたちとの生活の間に、とある技能を手に入れていた。それは、『情報を噛み砕く』力だ。ダチョウたちはすぐに忘れてしまうおバカではあるが、決して何も解らぬバカではない。彼らの理解できるレベルに噛み砕き、教えることが出来れば彼らは理解することが出来る。その理解したこともすぐに忘却されてしまうが、断片として脳に残り続けるのだ。
レイスは、ダチョウたちと会話するためにその能力を手に入れた。高原を見聞きし手に入れた情報を彼らでも解るように噛み砕き、知識として伝えていく。高原という魔境においてダチョウたちは弱者である、レイスがたった一人で群れを組織し生き抜くのにはダチョウたちにもある程度の知能が必要だった。
故に、眼に見えるもの、耳に聞こえるもの、そのすべてが彼女の糧である。
「(魔力効率が、先ほどよりも向上している……!)」
魔力操作、そして「魔力砲」のお手本である『獣王』が目の前におり、好き放題に実験できるこの環境がある限り。彼女は際限なく成長していく。時間を掛ければ掛けるほど魔力消費は少なくなっていき、いずれ獣王と同じ1対100を創り出すことも可能となってしまうだろう。そうなれば、獣王の死は確実である。
「(時間を与えてはいけないッ! 短期決戦のみが活路!)」
獣王は、そう判断する。
短期決戦に持ち込むためには、彼自身の強みを最大限押し付ける必要がある。自身の得意分野、距離で勝負し、何もせぬままに勝利する。レイスもレイスでかなりの激情を抱えているが、獣王もその点は同じ。自身が守るべき民である兵士たちは皆、死んでしまった。彼が友として認めていた将たちも皆、消しとばされてしまっている。
しかしながら、彼は王であった。
タダの人としての自身が何を叫ぼうとも、国家のため、残った民のために何が最適なのかを考え、行動する。
自身が信頼する軍が消滅した以上、国家としての戦力はガタ落ちである。即応できる優秀な兵を全て失い、同時に優秀な将すら失った。国家としての戦闘能力は民を徴兵することで急場しのぎにはなるが、そもそも指揮する人間が足りなくなるだろう。
彼一人で一つの戦線を受け止めることは出来るだろうが、獣王国にとって敵は一国ではない。そもそもヒードの国王、あの幼女王は獣王国に深い恨みを抱いている。ここで止めなければ獣王国自体がどうなるか解らない。ただ勝つだけではだめだ。相手を成長させぬためにも、獣王国のためにも、彼は短期決戦をせねばならなかったのだ。
「参るッ!」
◇◆◇◆◇
「へぇ、近距離戦か。いいね。」
何度か『なんちゃって魔力砲』を撃ちながら、どうすれば彼が私にとってより良い糧になってくれるかを考えていると、先にあっちが動いてくれた。とてもありがたい。何となくであるが魔力砲の仕組みってのは掴めてきている。今の私はただ魔力を押し当てているだけだが、コレはどうやら魔力をより内側に圧縮し、解放する方が威力が上がるようだ。
まだちょっと魔力操作がおぼつかないところはあるけれど……、もう数時間あれば納得ができるものにはなるでしょう。ということでこの分野の"糧"は御馳走様ということで。
(おぉ、やっぱ速いな。)
そんな私のささやかな願いが届いたのだろう。彼が距離を詰めてくれる。獣人としての脚力、そして足裏からの高密度の魔力砲。それによって弾丸のように打ち出された彼の速度は十二分に速い。うん、高原でも通用する速度だろう。……あ~、もしかして特記戦力って"高原レベル"とかそういうの? あ、なんかそんな感じしてきた。
それにしてもいいね、接近戦。実は私もそっちの方が得意なんだよ。そう思いながら普段通り体を動かそうとすると。
「ん? なんだ?」
違和感を感じる。なんというか、左右の感覚が違うというか、反応速度に違いが出ているというか。……あ、解った。脳か。
さっき私の脳みそは半分吹き飛ばされてしまった。それゆえに片方だけ作り直した感じ、そのせいで新しくて反応速度が速い脳と、古くて反応速度が遅い脳が私の頭にあるって感じなのだろう。ほら右脳と左脳ってあるじゃん? アレのスペック差が出ちゃってる感じ。
「これで近接戦は無理だな。……しゃあない。」
距離を詰める獣王に見せつけながら、頭に翼を当てる。え、何やるかって? わかんない?
脳を破壊するの。
魔力によって全力で強化された翼で、脳に対し強烈な振動を与える。所謂「発勁」みたいな奴。自身の想定以上の威力がでたソレは、頭蓋を破壊し完全に脳を粉砕する。消えゆく視界の端で獣王の驚愕に満ちた顔が見えた気がするが、んなもんどうでもいい。
予め用意してあった魔力を"回復"へと叩き込み。頭を再構築する。
「…………アハッ! いいねぇ、コレ!」
クッソ痛いが、めちゃくちゃ思考がクリアになった。う~ん、新品で高性能な脳みそはいいですなァ! あはー! テンション上がって来ちゃったァ! お、どうした獣王さんや! 何その化け物を見るような顔! ホレホレ! レイスちゃんが遊んでやるって言ってんだよ! はよ来いや! あ、もしかして私が回復するまで待ってくれてたってコト! アハー! いっけめーん! 殺すのは最後にしてやる! まぁお前以外いないんだけどなぁ!
「たっのしー!」
というかその獅子のムキムキな肉体! お前さんもしかして近接戦得意タイプやった!? 全身に駆け巡る繊細な魔力、そして掌に集まる高密度の魔力! 私が立ち直った瞬間に纏い直すその精神! いいね! いいね! そういうの好きよ! 殴る蹴るの隙間に魔力砲を挟んだ戦闘スタイルがユーの十八番なんじゃないの! あはー! それも私に"喰わせろ"!
「ㇱ!」
全身に魔力を巡らせ、彼と同じように身体強化を施す。それと同時に、全力で地面を踏み抜く、あぁ、いいなコレ! 正直これだけで高原でてっぺん……、は取れないか。でもそうそう負けることなさそ!
爆発的な速度で距離を詰め、相手の懐に潜り込む。それを防ごうと獣王から魔力砲が飛んできたが、そんなもの関係ない、体で受け止めながら、そのまま前へ。殺されかけた一撃よりは確かに弱いけど、それでもウチの子たちを一瞬にして消し飛ばしてしまいそうな威力。けれど今の私にはもう意味がない。
極光が視界を埋め尽くすが、感じた痛みは少々肌が焼かれた程度。いや焼かれた瞬間に自身の"回復"が作動し、元に戻していく。しかもさっきよりも効率が段違い! 回復速度も魔力効率もお得に増加中でーす! あはー! 身体強化だけじゃなくてそっちにも魔力流してるからね! 常時最大回復レイスちゃん! あはは! というか! やっっっばこれ! 私魔力量また上がってんな!
「おかえ、しッ!」
「させんッ!」
そのまま距離を詰めきり、懐へと潜り込む。瞬時に思いっきり蹴り上げるが、獣王の腕にガードされてしまう。あれ? これぐらいならそのまま蹴りぬいちゃうかなって思ったんだけど……、なんで防がれた?
「……あぁ、魔力防壁!」
「ハァァァ!!!」
「ッとぉ! もう、危ないじゃんかァ!」
折角答え合わせしてあげようとしたのに! 両手とお口から『魔力砲』撃って消し飛ばそうとするのなんてひどいじゃんか! ぷんすこ! っていうか、その魔力防壁、めっちゃいいじゃん! 常に魔力を足とか腕とかに集めて置いて! 魔力砲や魔力防壁を即座に展開できるようにしてる! 攻防一体の構えっていうのそれ! たーしかに面倒! 真似しちゃう!
「こんな……、かんじか!」
「なッ!!!」
「あはー! 魔力消費すっごーい! けど全然きつくも何ともないね! んじゃ、教えてもらったお礼に、試してやるッ!」
魔力の練り方、圧縮率、技術面におけるすべてが獣王に軍配が上がる。けれど私との絶対的な魔力量の差は、そんなもんじゃ埋まらない。私を殺すためには何かしら新しい技術を出さないといけないけど、出した瞬間私が喰べる。というかこの技術! かなり面倒で外に魔力垂れ流しちゃうけどめっちゃ便利じゃん!
すごーい! ノータイムで攻撃と防御ができるー!
「ほら見てよォ!」
「ヌォォォォッ!!!!!」
彼が先ほどしたように、魔力防壁と魔力砲を合わせながらやっていく。あっちの魔力砲は生身で受けて、魔力で強化された物理攻撃は魔力防壁で防いでいく。あはは! すぐに殺さないように手加減してるけど! こいつ普通に強いや! お前武術かなんかやってるでしょ! 攻撃がうまーい!
流れるように連続して拳を叩き込んでくる獣王、その全てを翼で流したり、魔力防壁で受け止めていく。合間合間にただの突きかと思わせて魔力砲とかぶち込んできてくれるけど全然痛くなーい! いや肌焼かれてるから痛いけどダメージにはなってないよ! ほらほら! 他の技術見せて! 私をもっと満足させて! それで何もできない絶望のまま死んで! お願い!
「つぎつぎ! まだあるでしょ! 早く私を殺してみなさーい、って!? あはははは!!!!!」
次回、決着。
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