27:覚醒
「ッ!」
考え得る限りで最悪の状況、私たちの眼の前であの子が。レイスが光に包まれた。
私は、エルフとして長年生きたけど特記戦力にはなれなかった。魔力量の限界、そして放出量の限界。驚くほど早く来たそれのせいで自身は上限を知った。そこから小手先の技術を磨いたけれど、たどり着いたのは準特記戦力という中途半端な力。人々から尊敬される程度の力ではあるけれど、同程度の実力者など両手で数え切れないほど多くいるし、下位の特記戦力にすら歯が立たない。
だからこそ、隠蔽に気が付けなかった。
相手は獣人と言えど、三万の侵攻軍。絶対にどこかに魔法使いが潜んでいるはずだった。攻城兵器を持たぬ以上、防壁を壊すために魔法使いが招集されるのは目に見えている。故に、ずっと戦場を見続けていた。けれど、少しも見つけることが出来ず、また見つけたとしても何もできぬままにダチョウたちに殺されていた。
故に、油断してしまっていたのだろう。
「レイスッ!」
ギリギリ、本当にギリギリ防壁を張ることが出来た。自身の魔力の大半を叩き込んで、魔力操作なんて何もない様な魔力の壁。ほんの少しでも威力が弱まればと思い作り出したそれは、最初から何もなかったかのように突き破られた。
あの、高密度の魔力によって生成された極光によって。
潤沢な魔力に、意味不明なほどに練り込められた魔力。それこそレイスの身に宿っていたような高密度で固まっていた魔力のような濃度。けれどアレはただ無理矢理押し付けられたが故の圧縮ではなく、魔力の線の一本一本が気の遠くなるような技術によって編み込まれたもの。下位の特記戦力や、何の対策も及んでいない中位の特記戦力ですら消し飛ばしてしまうような一撃。
そんな攻撃に、光の渦に、彼女は巻き込まれてしまった。
直前に彼女の号令があったおかげで、多くのダチョウたちがその攻撃を避けることが出来た。おそらく先頭で指揮を出し一番魔力の多いレイスを狙う攻撃だったのだろう。故にその範囲も大きくなかったのが幸いした。多くの子たちが避けることに成功し、デレのおかげで私も生き延びることが出来た。内側にいたが、これまでの戦闘で中央から離れていたマティルデ。あの領主様も、馬から無理矢理飛び降りることでなんとか生き残れている。
けれど……
あまりにも速過ぎる攻撃、あの子は背後の子たちを守るためにあえてその身で受けた、少しでも被害を減らすために。一番丈夫な彼女が受け止めれば、"せめて自身が死んだとしても"生き残れる個体が増えると信じて。
……最悪なことを、考えてしまう。あの密度、あの威力。私を背に乗せてくれているデレと名付けられたこの子では確実に耐え切れず、私もろとも消滅していた。レイスも、もしかしたら。
その考えを振り払うように、極光を、彼女がいた場所へと眼を向ける。攻撃を受けてからまだ一秒も経ってない、けれど永遠にも等しい時間が流れ、光が、ゆっくりと少しずつ収まっていく。
「(……人影ッ!)レイ……ッ!」
「………………。」
信じ、られなかった。信じたく、なかった。
全身が焼け焦げ、大きな裂傷が数え切れないほど刻まれている。高密度の魔力によって焼かれてしまったのか、その全てから血は出ていない。しかしながら、明らかに人が生きるのに必要な血が足りていない。
片翼は消滅しており、もう片方は今にも取れてしまいそうなほどに、やられてしまっている。もう、動くことはない。
そして何よりも、顔の、半分が、無くなっている。
えぐれている。
頭の半分と、肩の大半。そこにあるはずの物が、ない。
そして何よりも。脳が、焼かれている。
人が、生物が、生き残るために絶対に必要な器官。
その、脳が、破壊されている。
彼女はもう、助からない。
「ッ!」
落ち着け、落ち着け! 事実を、事実として認識するな。理解するな、ただ受け止めろ! 何故、あの子は"避けろ"と言った? 横に跳べと叫んだ? その脚力であれば、反応速度であれば避けられたはずのものを何故避けなかった? レイスが大切にしていた仲間たちを、彼女の群れを守る為だろう!
悲観するな、諦めるな。この身はすでに彼女たちのもの、高原で助けられた恩。今返さなくてどうする!
彼女の痛ましい姿から眼を背けたかったのかもしれない、けれど、自分にできるはずのことをするために、彼女が守ったその背後にいた子たちの様子を確認する。
(裂傷、火傷……、かなりひどいけど、部位欠損までは行っていない。まだ、まだ間に合う! 応急処置をして教会に連れて行けば……!)
数は、40ほど。レイスとの距離が近いほどにそのダメージは大きくなっている。でもどの子もまだ息がある。マティルデが乗っていた馬が文字通り消し飛ぶような中で、良く生き残ってくれた。これも全部レイスのおかげ。彼女のためにも、絶対に助けないといけない。まだ、急げば助かるかもしれない傷なんだ。
さっきの防壁を作るのに大量の魔力を消費してしまったけれど、その残り全てを応急処置のために回す。そしてダチョウたちの速度で町まで戻すことが出来れば何とかなるはず。教会の人間たちが持つ奇跡、長丁場になるだろう、後遺症は残ってしまうだろう。けれど回復魔法をかけ続ければ必ず命は繋がるはず。
(どうする、どうする……!)
あの負傷者たちを連れて撤退するにはどうしてもダチョウたちの力が必要、そして何よりも応急処置をするのにも時間が掛かる。魔法で一瞬と言えども、戦場での一瞬は命取りになりかねない。運ぶためにも、回復のため、隙を作ってもらうためにもダチョウの力がいる。私やマティルデだけでは確実に殺されて終わる。
けれど私たちの声はおそらく彼らには届かない。そして、デレにすら届くのかすら解らない。
『ウチの子たちね、私を攻撃されるとキレちゃうみたいで……。正直あぁなると止められないというか。』
レイスの言葉が、脳裏に浮かんでくる。そうだ、前回のプラークでの戦いは彼女に傷はなかった。けれど今の彼女は、すでに生きているかどうかすら解らない。いや、生きていたとしてももう助からない傷を受けてしまっている。そんな攻撃をレイスが受けてしまったら、どうなるか。
先ほどまで気が狂いそうになるほど静かだった周辺の空気が、熱を持ち始める。おそらく、彼女の子供たちが、群れの子たちが、理解してしまったのだろう。受け止めてしまったのだろう。最初は信じられなかった、けれど、彼女は動かない、感じるのは死の匂いのみ。彼らが愛していた存在が殺されてしまった時。どうなるのか。
跨っているデレの背から、燃えるような熱を感じる。
(とめ、ないと……!!!)
際限なく膨れ上がる熱、怒気を何とかして収め彼女の意志を、覚悟を無駄にしないため、どうにかしてこの子たちを押さえつけ引かなければいけない。いくらこの子たちが暴走しても、その力は特記戦力に届くとは思えない。そして彼らが正気を失った時、各々自由に攻撃を始めてしまうだろう。おそらく、彼らの母の仇である獣王に向かって行くのだろうが……。
おそらく、いや絶対に耐えられない。
彼らが暴走すると、文字通り、全滅する。
その事実を理解した瞬間、肌を焼くような強烈な魔力の反応。
獣王だ。
魔力の方へと眼を向ければ、案の定もう一度口内に魔力を集めようとしている。ここから見える体内に宿る魔力、確かに先ほどに比べ小さくなった、けれどそこまで変わっていない! 連発だ、連発出来てしまう。アレを撃った後も、攻撃は飛んでくる。この子たちが暴走してしまえば本当に取り返しがつかない。
(拡散……、いや! 直線! さっきの巻き直しッ!)
狙いは、レイス! ダメだ、確実に殺し尽くそうとしている。先ほどと同じレベル、いや。溜めの時間がさっきよりも長い。あの攻撃よりも、より強力な魔力砲。時間が、なさすぎる、早く! 早く動かないと! せめて彼女以外を退避させなければ!
「デレ! デレ!」
「…………。」
「デレ! 手伝って! 他のみんなを落ち着かせるの! 私一人じゃ全員は無理! 間に合わない!」
「…………。」
「デレ! ねぇデレ! 聞いてッ!!!」
「……ま、マ?」
◇◆◇◆◇
本来、ダチョウとは強い生き物である。
圧倒的な脚力に、スタミナ。外敵をいち早く発見できる視力に、無限とも呼べるような回復力と免疫力。
地球にいるダチョウ、その個体たちが病気や外傷で死ぬことはほとんどなく、死ぬのはまだ成長途中の子供が多くを占める。
成人したダチョウが死ぬことは滅多にない。
そんな生物が、ダチョウだった。
その獣人となった彼女たちも、地球と同様に強い生き物だった。
けれど、彼女たちが住む高原は、強い生き物しかいない環境。いや、ダチョウが何でもない生き物として数えられてしまうような場所だった。
人の文明圏における"特記戦力"が闊歩する世界、辺りを見渡せば必ず国を滅ぼせる化け物がいる世界。それが高原である。
獣人化することによってダチョウは知能を手に入れることが出来るはずだった。
ダチョウとしての身体能力をそのままに、人となることで手に入れられるはずだった知性。
しかし、彼らは生存のためにそれを最初から捨てた。与えられるはずの権利を捨て、違うものを求めたのだ。
高原に必要なのは頭脳ではない。
ただ単純に、生き残るだけの力だった。
ダチョウ獣人という種族は、そのように進化してきた。
頭脳を捨て、より高い身体能力を得る。
脚力の向上、視力の向上、回復力の向上。
世代を重ねるごとに、より高原に適合するように"種"を高めていったのだ。
けれど、自然は常にすべての状況を想定し続ける。
もし、高原において知性が必要となってしまった時。
知能を捨ててしまったダチョウたちに、最初から持っていなかったダチョウたちに。
待っているのは種の絶滅のみ。
故に、"特異個体"として例外が生まれてくる。
それが、生まれながらにして、知能へのきっかけを持つ個体だ。
レイスのように、無理矢理脳を拡張し、自身の体を作り替えるような化け物ではない。
ただ単純に、ダチョウと言う"種"が残した生き残るための一手。
"きっかけ"が実り、成就すれば次の世代へと続いていく。
必要がなく"きっかけ"が実らなければ何も起きない、未だダチョウに知能は必要なかったのだから。
"特異個体"、『デレ』。
彼女は、生まれながらにして"執着"が強い個体だった。
群れで生きるダチョウたちにとって、仲間は仲間であり、それ以上のものはない。
みんな同じで、みんなと一緒に生きる。
個々人の違いはあれど、彼女のように何か一つに興味を持ち続ける個体はいなかった。
特異個体と言えど、記憶保持能力は同じ。けれど一度興味を引いた存在は、心で覚え続ける。
……そして、彼女が初めて"執着"し始めたものは、何だろうか。
本来、ダチョウたちの群れに存在しないはずのもの。
ダチョウたちの中において、一番の異物。
彼女が、一番初めに、"気に入った存在"。
それは、『母親』。
生みの親ではない。
いつの間にかそこにいて、常に自分たちを愛し、育ててくれる存在。
彼女が初めて何かに興味を持ったのは、"レイス"だった。
デレ自体、他のダチョウと何も変わらない個体である。ただ、特異個体としてほんの少しの切っ掛け、"執着"へのきっかけがあっただけ。そんな個体がすぐに知能を成熟させることは出来ない。
少しずつ、少しずつ積み上げていく。母親にくっついてみる、褒められる。ほかの個体が真似し始める。自分が構ってもらう時間が少なくなる。その間に、新しいものを見つける。母親に見せてみる、褒められる。それが嬉しくて、ずっと見続ける。たまに褒められて、もっと嬉しくなる。毎日、毎日、ずっとその繰り返し。
ダチョウに記憶力はない。故に、繰り返し、繰り返し行うことで脳の力を鍛えていく。彼女が引き起こした行動は少しずつ群れへと伝播し、他の子達たちも少しずつ"きっかけ"を掴んでいく。デレはその中で一番先を進んでいた。
そして、大きな転換点を迎える。
初めて、母親以外の複雑な言葉を操る存在。新しい、"執着"の先。本能で一番自分に色々なものを教えてくれそうな、"愛"を返してくれそうな存在を選んだデレは、エルフのアメリアを母親の次に執着することにした。
その後は、どんどん新しいものを知って行った。母親が自分たちが新しく見聞きするものについて教えてくれて、アメリアもそれを補足するように教えてくれる。決してその全てを覚えることはできなかったし、記憶として残ってもほんの少しの断片のみ。けれど何度も説明を受けるたびに彼女たちからとても暖かいものを感じていた、自分がとても愛されていることを、理解していたのだ。
……そんな、存在が。
デレの、彼女の眼に映る光景は。
何人もの仲間たちが倒れ、今にも死にそうな状態になっている。とても、心がこわれそうなほどにつらい出来事。けれど、彼女の心はこれを知っている。高原は、死の世界。仮令レイスという司令塔があったとしても、犠牲を免れない戦いなど数え切れないほどあった。仲間の死は、知っていた。
仲間思いなせいか、群れの死を強く受け止めすぎると立ち直れなくなってしまうため、脳が意図的に記憶を消去していたとしても。心は、その悲しみを覚えていた。
けれど。
(しら、ない。)
自分が初めて"執着"した存在で。自分に溢れんばかりの愛情を注いでくれた存在が。死んだ?
(しら、ないっ!)
自分たちの母親が、愛してくれた人が、ママが、死んだ?
(しりたく、ないっ! いやだ!)
深く、強い感情。その大きすぎたモノは、脳に強烈な負荷をかける。
彼女たちの母親のように、脳そのものが破壊されたとしても回復できるような力は、ダチョウたちにない。けれど、強い感情によって焼き切れてしまったものを、戻し、強化し、再生するという回復力は、全ての個体に宿っていた。
悲しみが、彼女に、知性を齎す。
大きなものではない、けれど、今の彼女たちにとって、一番必要なものだった。
母を、母として呼べるだけの、叫べるだけの、力が。
「ママ!!!!!」
その声は、必ず届く。
◇◆◇◆◇
「ママ!!!!!」
声が、聞こえる。
私は、知っている。
これは、デレの、声。
……あぁ、あの時と同じか。
私が、"私"になったあの時。10年程前に思い出した記憶に脳が耐え切れなかったあの時。
こう、自分が自分じゃないような。定まらないような感覚。
……呼ばれてるんだ、起きないと。
希薄な意志で何とか体を動かそうとする、けれど、ほとんど動かない。
いや、これは。"ない"のか。
足はなぜ今立てているのか解らないほどに砕けていて、片翼は消滅、もう片方は肩の接合部分が抉られているせいで今にも取れそうだ。それに、面白いことにその抉れた肩から上。全部無くなっちゃってる。
眼も、一つしか残ってない。それも、あまり見えていない。
そうか、私。攻撃されたのか。それで、後ろにいる子たちを、庇って。
無理矢理、体を動かして。後ろを見る。
………………あぁ。
何とか、死んではいない。けれど一刻を争うような状態。
高原であれば、最後まで横にいてあげるしかできない様な状態。
まもれな、かった、の、か? ……いや、まだ大丈夫な、はず。
こっちには、便利な魔法ってのがあった。それで、治せる。
ウチの子たちは、すごいんだから。回復できちゃう、はず。
そう、信じろ。
「ママ! ママ!!!」
……あぁ、デレ。ずっと呼んでくれてたのかい? ごめんね、耳がちょっとおかしくなっちゃったみたい。
子供が見てるんだ、不安を感じさせてはいけない。
すぐに、動くよ。
なんてったって、ママだもの。
(そういや、初めてそう、呼ばれたな。)
魔力を、回す。
仲間を傷つけられた怒り、それを止められなかった自分への怒り、あの子に母親と呼ばれたが故の意地。
その全てを以って、無理矢理、動かす。
自身が思っていたよりも感情の力が強かったのか、それともこれほどまでに死にかけたが故に動いたのか、それとも強大な魔力に身を焼かれたが故に緩んだのか、理由が何かは解らない。
けれど、確実に、動く。
(多分、こう。)
全身に、魔力を巡らせる。多分、ここにつぎ込めば、体が直る。
潤沢な魔力を注ぐのは、自身の"回復力"。脳が破壊されたとしても元の状態どころか、より強くなって作り直すその力。魔力というエネルギーを以ってそれを無理矢理動かす。真っ先に直すのは、脳と喉。
思考速度が遅い、時間経過でマシになって来てるが。
加速させる。
「ゴホッ! ……あ~、喉に血が溜まってたか。」
「……れ、レイス!?」
「お~、アメリアさん。ちょーっと、待ってね。」
喉と脳だけを直し、回復へと回していた魔力の一部を喉へと戻す。
うん、思考も元に戻ってきた。ちょっとノイズが入ってるがイケないこともない。ウチの子たちの怒りが完全に限界を超えそうになってる。仲間がやられた上に、私もやられたのだ。多分この怒りを限界までチャージして全部解放つ様な怒り方、もう撤退とかそういうの何も関係なく、自分たちか相手のどちらかが死ぬまで暴れる最悪の奴だね。
弾ける前に声かけれて良かったよ~。
じゃ、声に魔力を乗せて。みんなの耳元に直接届くように。……んぁ、ちょっと負荷が高すぎるな。脳が焼けそう。……まぁいいか。焼けても直せるし。
「"落ち着け、私は生きてる。もう一度だ、落ち着け"」
「ママ! ママ! 生きてる!!!」
「"あぁ、ありがとう、デレ。おかげで戻って来れた。……一度しか言わないよ。『なかまを連れて、退け。』"」
子供たちの動きが止まる、私の方を見るがまだ怒りは収まっていないようだ。まぁ脳と喉を先に直しただけだから、腕と言うか翼がもうない感じだからね~。超血まみれだし、はいはい。怒るのも解るけど……、アイツは私の獲物だよ。人のものは取っちゃだめ、って何回も教えたでしょう?
「だいじょう、ぶ?」
「ほんと? ほんと?」
「にげる?」
「やだ! やだ!」
「まもる!」
「"二度は言わない、って言ったでしょう? 『退きなさい。』返事は?"」
私の声で、渋々諦めたような顔色になり始める子たち。怒りが収まってきた子もいるのか、私に駆け寄って大丈夫かと聞きに来ようとする個体も見えたが、『引け』という言葉をちゃんと覚えてくれていたのだろう。私の後ろで控えている子供たちの方へと向かい始めてくれる。みんな、賢くなったね。
そんな彼らの行動を否定するように、部外者の声が鼓膜を震わせる。
「ッ! させん! 一撃で殺せぬのなら、もう一度撃つまで!」
少し離れたところ、ちょうど私の前にできた直線の先にいる存在。私を殺しかけ、後ろの子たちを傷つけた存在。
鬱陶しい。
…………こうか?
回復に注いでいた魔力を止め、奴がやったように眼前に魔力球を生成する。生成すると言っても体内に宿る魔力を切り取っただけのもの。あとは方向性を定めて、放つだけ。
「ハァァァアアアアア!!!!!」
「撃て。」
奴の攻撃は、先ほどよりも太く、きめ細やかで、大きい。多分何もせず受ければ群れごと消滅するだろう一撃。けれど、それを上回る魔力で、ただ押しつぶす。体内に宿る魔力の半分をさらに駆り出し、ただがむしゃらに放出する。
敵の生み出した極光を軽く覆い尽くし、視界全てを白へと染め上げる。奴の後方にいた他の敵兵もまとめて消し飛ばせるように。
膨れ上がったソレは周囲を焼き尽くしながら進んでいく、地面は抉れ、赤熱化し、溶けていく。あの敵は一瞬にして光に包まれて行き、さっき殺し損ねた敵の獣人たちも全て光によって溶かしていく。……うん殲滅できた。
「……死んでないな。」
あの、私を殺しかけた獅子の獣人。そいつをメインで焼き払ったはずだが、手ごたえがない。というか未だ奴の魔力を感じる。奴を殺すついでに、途中から拡散。広がる様に動かしたのがまずかったのか? まぁいい、それ以外のすべての敵は焼き殺した。この子たちが逃げる時間はあるはずだ。
「レイス!!!」
「ママぁ!!!」
「あぁ、二人とも。」
私の放った光が収まろうとするころ、アメリアとデレがこっちに寄って来てくれた。ごめんねデレ、まだちょっと翼が直ってなくてね。いつもみたいにわちゃわちゃしてあげられないや。ちょっと10秒ぐらい頂戴? 無理矢理直すからね……
「あ、あなた! ど、どうやって生きて……ッ!」
「あぁ、もう戻って来るのか。」
アメリアから見れば、未だ私の体がすごいことになっている。脳はちょっと回復中で丸見えだし、翼は変わらず。二人の方を向くためにちょっとだけ足を直したおかげで動けてはいるけど、全身ヤバい感じであることに変わりはない。まぁ普通のダチョウというか、普通の生物だったら死んでるだろうねぇ。
そんなことを思いながら、彼女に何かしらの説明をしようとしたとき。また大きな魔力を肌で感じる。しかも近づいてる。
……奴だな。さっきの極光である程度重傷を負わせられたかな、と思ったけど全然だったみたい。こっから見る限り全然外傷がないし、距離もびっくりするぐらい離れている。多分魔力防壁を張って、後ろに緊急回避したのだろう。上手いねぇ……、もしかしてアレが特記戦力って奴? マティルデから聞いてた『獣王』っての。まぁいい、生物なら殺せるだろ。
「デレ、私の言うこと聞ける?」
「ママ……、うん! 聞ける!」
「あらすごい、もうそんなに話せるようになったの? じゃあ後でたくさんお話しないとね……。今すぐ他の子たちを連れて町に戻りなさい。そこで傷ついた子たちを治してもらって? できる?」
「がんばる! できる!」
「うん、いいこ。……アメリアさん、後よろしく。」
魔力を扱えるようになったおかげか、アメリアさんがこちらによって来ようとした瞬間からウチの子たちの応急処置を魔法で進めてくれているのが見えた。細かいところは彼女に任せればいいだろう。デレもアメリアさんの言うことならちゃんと聞いてくれるはず。
そして、後ろにいる倒れてしまったウチの子たちを見る。いつの間にかマティルデが彼らに近寄って、まだ動けるダチョウたちの背にその子たちを乗せられるように手伝ってくれている。少しだけ目が合ったので、後を頼むように強く頷く。あぁほんと、頼りになるなぁ。
……二人と、デレと、みんなに。任せても、大丈夫そうだね。
残った魔力を全て回復へと注ぎ込みながら、こちらに向かって距離を詰めている奴へと向き直る。
……あぁそうだ。言い忘れてた。
今私、とんでもなく怒ってるんだ。
碌な死に方、できると思うなよ。
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