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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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17/103

17:ダチョウと宰相






「まだプラークに着いていないというのに、今から胃が……。」



多くの護衛に囲まれた馬車の中。ヒード王国の宰相である彼は一人愚痴を吐いていた。頭髪はすでに真っ白に染まり、すでに孫が成人していてもおかしくないような年。普通であればすでに引退していてもおかしくないというのにただ国のため、王のため宰相をしていた彼だったが……、ちょっとだけ逃げ出したくなっていた。


それもそうである、今から特記戦力である"ダチョウ"に会いに行くのだから。



(特記戦力、単体で国を滅ぼせる相手。)



彼が今から会いに行く"ダチョウ"という存在。単体ではなく一つの群れで"特記戦力"相当と判断されたソレ。


すべての強者が同じ性格ではないが、基本"特記戦力"と呼ばれるような者の性格は傲慢であることが多い。自身の強さに自信を持ち、やろうと思えば国家を自身のものにすることも、全て更地に変えることすら出来てしまう。


故に、彼らと交流を行う際は細心の注意が必要とされる。気を損ねてしまえば交渉役が殺される程度では済まない、最低でもその都市が吹き飛び、国が消滅する。暴れすぎるとより上位の特記戦力や、複数の特記戦力によって討伐されるため文明の崩壊まではいかないが、それぐらいの被害ならよくあることだ。事実、人類の歴史においても、特記戦力と呼べる者に愚かな振る舞いをした国が一晩で消滅したという話は掃いて捨てるほどある。


上手く付き合えば人類の守護者であり、国家最強の戦力。気を損ねてしまえば滅亡の元凶で、瓦礫の上の王。それが特記戦力だ。




『故に宰相、お前に交渉役を任せる。』


『……かしこまりました。』


『要件はすべて受け入れ、望む以上のものを提示せよ。なんとしてでも我が国に。』




宰相は、王都での会話を思い出していた。


そんな化け物相手に普通の交渉役を送れるわけがない。いくらヒード王国に特記戦力に対する経験が皆無と言えど、ほんの少しでも気を損ねてしまえば終わる相手。


さらに、先日軍事同盟を結び同盟国となったナガン王国。交渉の際に焦り、何かに怯えていた"軍師"の表情と、ヒード王国の幼女王の推測、そしてプラークから寄せられたナガンの侵攻軍が文字通り壊滅したという報。これから考えるにナガンが新たな特記戦力、"ダチョウ"たちに興味津々であることは決定的に明らかだった。



(あの"軍師"を抱えるナガンのこと、こちらの動きに先んじてすでに行動に移していてもおかしくはない。……マティルデ殿の報告によると彼らは"フリー"の存在、引き抜かれる前に動かなければ。)



故に、王の信認厚く、同時に宰相として様々な決定権を持つ彼が派遣されることになった。最初は王が単身向かう予定であったが、すでに王家の血を引く存在は彼女しかいない。彼女を失えばヒード王国の滅亡を意味するため、安易に王都から出ることは家臣団の猛反対によって否決され、代わりに宰相である彼に白羽の矢が立ったわけだ。


そして、彼の目的のためにも、自身が最初に会う方が、都合が良かったのだ。



「陛下……。」



復讐の炎によって飲まれてしまっている王であれど、彼らが仕える王には変わりない。そしてヒードが特記戦力という存在を所有しない以上、今後他国に食い物にされてしまう未来は見えていた。彼自身、自分に任された仕事に不満はなく、むしろ少しでもこの国のために、という気で溢れていた。


溢れていたのだが……。



「本当に大丈夫なのだろうか?」



プラークに近づけば近づくほどに王都に向けたマティルデからの文が増えていく。平民であれどその優秀さを先王に評価され、騎士となった彼女。おそらく少しでも我が国のためになる様に、と手に入れた情報を逐次送ってくれているのだろう。使者として少しでも情報が必要と言うこともあり、宰相と言う地位を活かしてすべての書状に眼を通したのだが……、読めば読むほど不安になっていく。



曰く、一つの種族によって構成された300の群れ

曰く、南から現れた故に暗黒地帯の出身である

曰く、こちらの常識が全く通用しない

曰く、その群れの長は女性であり、魔王かと思うような魔力を保有している

曰く、群れのただの構成員ですら兵100と同等以上である

曰く、群れの者たちは人を食料と同列に見ている

曰く、ちょっと喰われた者がいる……



マティルデによって封が為され、書状を運ぶ伝令も国家に仕えるもの。幼女王か彼女に許可された宰相でしか封を開けることが出来ないソレ。故にここに書かれているすべてが真実であり、マティルデという優秀な騎士が見聞きし、我々に警告しているものに他ならない。さらにすべての書状の最後に『絶対に敵対してはならない』、『危害を加えてはならない』と強く念押しされている。



(とても、危険。)



宰相の脳内に、筋骨隆々の屈強な男たちがプラークの町を闊歩するイメージが浮かび上がる。何も抵抗できぬ無辜の民をひょいと掴み口の中に放り込む鬼のような巨漢。そしてそんな男たちを傅かせる悪魔のような女性。マティルデから寄せられた情報を基に宰相がはじき出した光景が、それであった。



(こわい……。)



まぁ実際はみんな子供みたいな感じで、お目目もクリクリで可愛いダチョウさんが『ごはん! ごはん!』と言いながら走り回ったり、日向ぼっこをしているだけなのだが。……え? 人は食べるのかって? リーダーが制御していない野生のダチョウなら躊躇なく食べるでしょうね。実際ちょっと先日齧っちゃいましたし……。



「いや! 弱気になるな……! なんとしてでも成功させなければッ!」



もう一度気合を入れ直しながら、彼の脳内では自身の仕える王のことを考えていた。


まだ幼いながらも国家を統治し運営するのに十分な能力を持っている彼女、しかしながら彼女は聡明と言えど、天才ではない。その能力を得るために、"それ以外全てを切り捨てた"人間だった。ただひたすらに自分の家族を奪った相手を殺すために、少しでもその可能性を高めるために、全てを捨てて王として必要な技能を身に着けた。それがかの女王だった。


そして、その幼女王が見据える終着点は一つ。『復讐の完了』のみ。


王としての能力を得るために全てを捨てたと言っても過言ではない彼女は……、統治者として持つべき"次代へと続ける"という意志を全く持っていなかった。彼女ができるのは現状維持だけであり、目標は復讐の完了。つまり仇を取ってしまえば後はどうなってもいいとさえ考えていた。特記戦力を利用し、仇を討ちとる。利用されたことに気が付いた特記戦力は怒り狂い、自身を、国を破壊しつくすのだろう。


だが、彼女はそれでいい。"国がどうなろうとも"、"民がどうなろうとも"、自身の復讐さえ果たせればそれでよかったのだ。幼子にとって家族とは世界そのもの、自分の世界がすでに壊れてしまった彼女にとって、むしろ復讐を遂げた後の死は救いですらあった。




(…………。)




そして、宰相はそれを理解していた。幼女王が何を考え、目的にしているのかを。そして、自分にはすでに止めることが出来ないということも。彼女が生まれた時からじいやとして傍にいて、今日まで宰相として支え続けた彼。どうしようもないほどに彼女の恨みは深く、その負担を少しでも減らすことが出来なかった自身を憎悪していた。


故に、行動する。



彼の目的は特記戦力たる"ダチョウ"と交渉し、王都まで連れて来ること。そして、彼らが王都に着いた瞬間に陛下の復讐の相手である"奴"が治める国家に向けて宣戦布告。なし崩し的に"ダチョウ"たちを参戦させる、ということ。


陛下の想定であれば、ヒードに新しく生まれた特記戦力である"ダチョウ"たちとナガンが誇る知略の特記戦力である"軍師"。その二つを用いて復讐を遂げ、自身が利用されたということに気が付いたダチョウたちによって陛下自身が殺されることで幕を閉じる。その後国家がどうなろうと陛下の知ったことではない。



(それを、変える。)



怒りの矛先を女王ではなく、宰相である自身へ。幸い陛下の見た目を考えれば自身が全て裏で操っていたと言っても怪しまれない。それほどまで陛下は幼い存在。特記戦力が暴れた場合、国家自体にもかなりのダメージが予測される。しかし敵特記戦力の撃破と陛下の生存さえ達成できればこの戦乱続く世であってもヒード王国は存続できる。


復讐を遂げたあとの女王が何を思うのかはわからない、しかし生きていれば何か変わる可能性がある。死んですべての可能性を消し去るよりも、生きて欲しい。彼はそう考え今回の交渉へと向かう。


先王にも仕えた彼の、最後の奉公として。



「ほんとうに、気を引き締めなければ、な。」














◇◆◇◆◇












「え、宰相さんくるの!?」


「あぁ、なんでもレイス殿に礼をいいたい、と。」


「へぇ~。」



定期的に行われる魔物の狩りを終えた後、うちの子たちを自由に遊ばせてその様子を眺めていた時。マティルデが話しかけてきた。狩りから帰ってきた後、どっかから知らせが来たって急いで町の方に走ってたんだけど……。宰相さん来るんだねぇ、……あ、あのさ? 私の認識が間違ってたらアレなんだけど、宰相さんってめっちゃ偉い人だよね?



「そうだな、この国のNo.2だ。」


「あ、そっかぁ。」



確かにまぁ他国からの侵攻を食い止めた、ってことでマティルデからお礼されたし、そのことを上に報告したということも聞いている。さらにその件について国からもお礼されるだろうということも聞いていた。けどいきなりそんな上の方が飛んでくるなんて……、ねぇ? こちとら原始人生活を10年続けてた未開人だし、前世も別にそんなエライ人間じゃなかった。そういう上の人とお話するなんて初めてなんだけど……。もしかして"おめかし"した方がいい奴?



「ん~、どうだろうか。別にあの方はそういうものを気にしない方であるし、大丈夫だとは思う。もちろんしたいのであれば手伝うぞ? それに、今回レイス殿は我々を"受け入れる"側だ。いくら宰相と言えど下位、気に入らなければ突っぱねてもいいのだぞ?」


「……それ宮仕えなのに言っていいの?」


「普通に駄目だな。秘密にしておいてくれ。」



そう笑いながら言う彼女。もう、お茶目さんなんだから!


……私のそういった基準は前世の現代日本が元になっている。故に権威には弱いし、お偉いさんとかあまり関わりたくないってのが本音。群れにとってマイナスになるならなおさらね? けれど聞いてみた感じ別に悪い人でもない様子。マティルデには色々世話になってるし、私が断れば彼女に迷惑を掛けてしまうことになるだろう。ならまぁ我慢して受けようか。



(にしても私が"上"、ねぇ。)



マティルデやアメリアさんから色々教わった結果、この世界じゃ"力"が全てみたいなものらしい。単純な武力だけでなく、財力とか権力とかそういうのひっくるめて"力"。まぁつまり殴り合ったと仮定して最後に立ってた奴が一番偉い、と言うわけ。



「今回の場合、レイス殿とヒード王国を比べる。確かに我が国は財力や権力などを所有しているが……。レイス殿が持つ圧倒的な暴力にはどうあがいても敵わない。故にこちらが膝を曲げ『ははーっ!』しに来るわけだ。」


「……それ大丈夫なの? 国の権威とかさ。」


「普通だぞ? 貴殿のような特記戦力相手ならな。まぁ隣の獣王国のように王が特記戦力である場合は話が別だが。」



特記戦力、この世界において滅茶苦茶強い人たち。それに私らダチョウも含まれているようで、元々誰一人特記戦力のいないヒード王国さんは、私たちにこの国に残ってもらえるよう色々手を回しているそうな。そこら辺というか、私たちを取り入れようとする力関係をあんまりよく理解できてなかったんだけど、アメリアさんに『貴方たちの言う"ビクビク"、アレの人間版みたいなものよ。怖いから国で手厚く保護して、何かあったら力を貸してもらう。そういうの。』と説明され納得がいった。



「特記戦力ねぇ、"ビクビク"に比べれば私らなんて可愛いものだと思うけど。……実際可愛いし♡」


「たまに聞く"高原"の話。聞いていると頭が痛くなって来るな。……それで、レイス殿はどうするのだ?」



ヒード王国と契約を結ぶことでこの国に居つくか、それとも他の国に行くか、そう問いかける彼女。彼女やアメリアの話を聞く限り、私たち"ダチョウ"の戦力を欲しがりそうな国はどこにでもあるそうだ。つまり仕えようと思えばどこにでも行けるってわけだ。さらにどこかの国に所属するのではなく、国家と対等の契約を結ぶことすら可能。



「そうねぇ……。」



正直、群れの長として考えた場合、この子たちが自由に生活できて尚且つ食事の問題が解決できればそれでいい。群れの子たちを危険に晒してしまうから戦うのはイヤだけど、日々群れが全滅する可能性があった高原に比べれば大分マシ。戦うリスクを受け入れる代わりに、うちの子たちの普段の安全と食事を得ることが出来るのなら、受けてもいいはずだ。



(正直、どこかの庇護を受けずにこの人間社会で生き続けるのは難しい。うちの子たちに仕事をさせる、外貨を稼がせるってことは不可能。魔物だって高原に比べて数が多くないし、生態系の再生まで時間が掛かり過ぎる。)



高原は正直こっちが引くレベルで魔物の再生ってのが早い。ある一帯の魔物全てを食べつくしたはずなのに、一週間もたたないうちに全回復していた。しかしこっちでは最悪一生魔物の数が復活しない可能性すらある。アメリアさんに聞いたがソレがこっちじゃ普通のようだ。つまり私たちがタダで手に入れられる食料には限りがあって、食べ物が無くなったこの子たちが次に襲うのは……。人だろう。


つまり国の庇護を受けない場合は略奪者ルートになるわけだ。そうなれば人間すべてが敵に回るだろうし、ウチの群れが受ける被害ってのも多くなる。



(そう考えれば、どこかの国の支援を受けた方がいい。……、じゃあどの国の支援を受けるか、って話だけど……。)



マティルデやアメリアさんをはじめとした冒険者のパーティの人たちに話を聞いた限り、この近くで良さそうなのは二つ。今いるヒード王国と、その東に位置するチャーダ獣王国ってところ。ヒード王国は多民族国家故に、チャーダ獣王国は名前の通り獣人の国だから、ってことで。両者ともに私たちダチョウ獣人に対して偏見が少なさそうであり、迫害などの危険性がない国だ。



(それで、この国を比べたら……。まぁヒード王国だよねぇ。)



この国には文化圏にきて初めてできた友人がいるし、うちの子たちもプラークという場所に慣れ始めている。そして何より、すでに私たちはヒード王国に恩を売っている。ナガンと言う人間至上主義を掲げる国家からの侵略を打ち破ったという恩。すでに友人がいて、恩が売れている以上。ヒード王国の方が自分たちをより高く売り込むことが出来るだろう。



「ま、とりあえずはこの国にお世話になるって方針かな。」


「ほんとか!」


「うんうん、ほんとほんと。でもまぁ……、決めるのは宰相さんのお話を聞いてからだけどね?」



こっちが求めるのは『食事の確保』と『住む場所』、あとは『群れの安全』くらいか。あっちが求める要求と、私が譲れないもの。その辺の上手いすり合わせが求められるってワケね。……しっ! 群れの長として、がんばりますか!












〇ダチョウ略奪者ルート


略奪者というか、文字通り全て平らげていくルート。ダチョウたちが高原から出た後、何らかの理由でレイスが死亡した場合高確率で突入する。また、レイスが何らかの理由で人類全体に対し強い恨みを抱いた場合も突入する可能性が高い。


現在の群れが300程度しかいないため、初動を失敗したり、序盤に他特記戦力に発見されると殲滅される可能性が高いが、1年でも人間社会で潜伏し、数を増やすことに成功すればだれも手が付けられない化け物へと進化する。高原において外敵の多さから卵をより多く産む方向へと進化したダチョウが、外敵のいない人間社会の近くで繁殖を行った場合。とんでもないことになるのは明らかだろう。


レイスがいない場合は彼らの故郷である高原が存在する南の大陸までしか進出出来ないが、もしレイスがこの侵攻を主導していた場合、帝国の活動圏である北の大陸にまで侵攻してしまうだろう。最初は拮抗するだろうが、年月が経つごとに増殖するダチョウには耐え切れず、かの帝国すら滅亡する可能性が高い。


つまりダチョウの惑星の完成、ということだ。そうならない未来を強く祈る。












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― 新着の感想 ―
ダチョウの惑星成立したら、最終的に増えすぎて食料足りんくなりそうね。
ダチョウの惑星 この星に、ダチョウ族しかいなくなったら……あとは共食いか? 地獄すぎる
[良い点] ダチョウの惑星ってSFっぽくてカッコいい!!いや、普通に怖いけどw
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