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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第97話 似たもの同士

 何度目だろう、こんな風に意識のないリーネを眺めるのは……

 顔色は戻っていて呼吸だって正常だ。

 それなのに、どこか安心しきれない自分がいる。

 リーネの頬に触れ、体温を感じる。

 それでもまだ、不安だ。


 回帰前と進む道が違えば違うほど、二度目の人生が変わっていく。複雑に絡み合う糸のように、もがけば更に絡まるだけ、解くことが出来ない。

 すでに回帰とは呼べない程変わってしまった二度目はリーネを幸せに導くことは出来るだろうか……



「ユリウス、少し休んだら?学園に戻らなくてはいけないだろうし」

「学園か……」



 学ぶべきことも学園にはすでにないが、貴族として生きていくなら、学園を卒業しなくてはならない。

 それに学園に通わなければ、いつかのように父から注意を受けるだろう。

 一度家に帰り、父にも今後の事を話した方がいいかも知れないな。



「念のためにもう一度僕か治癒しておいたから、心配いらないよ」

「……そうだな」


 結局、毒だったかも含めすでに解毒されたため、何が使用されていたのかわからない。症状から見れば何かの中毒症状であったことは確かだ。

 それに、ミレイユが怪しいとはいっても証拠はない。

 あんなにも都合よく必要とされた場面で現れるなんて偶然ではないだろう。

 

 シリルは彼女が俺に恩を売りたかったのではないかと言っていたが、彼女がそこまで執着する理由がわからない。彼女からは恋愛感情を感じない、それなのにデビュタントのパートナーにと執拗に打診された。

 何度言われても頷くことはない、リーネのパートナー以外は務めるつもりはないのだから。



「じゃあ、おやすみシリル」

 


 人の事が言えない程リーネに執着しているくせに、と自嘲気味に笑うと寝室へ向かった。



♢  ♢  ♢



――シリル・オルブライト!

 いつもわたくしの事を警戒し他にむけるような笑顔も見せない。注意深く観察しているのか、視線を感じる。

 わたくしの邪魔をするなんて、もう少しでユリウス様に恩を売り、信頼を得てからデビュタントのパートナーになってもらうつもりだったのに。

 そんなわたくしの計画が台無しではないの。



 考え事をしながら、知らず知らずの内に腹立たしくて爪を噛むと血が滲んだ。

 わたくしは自分自身に治癒の能力を使用すると、すぐに傷も痛みも治ってゆく。



 傷が治癒する様子を眺めていたミレイユは歪に笑う。



 わたくしの能力は誰よりも高く、本来なら愛し子と呼ばれてもおかしくないのに。

 鏡越しに映るわたくしはこんなにも美しく、更に公爵令嬢として生まれてきた、正に完璧ではないか。



 だから……

「妖精王は間違えているわ、エイデンブルグのようにこの国まで滅びたらどうするのよ」



 鏡の前で自分の姿に酔いながら、悪態ついていたミレイユの部屋の扉がノックされた。

 入室を許可された侍女が頭を下げミレイユに告げる。



「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「お父様が?何かご用かしら?」

「……私どもは存じ上げません」

「まあ、それもそうね」


 ミレイユは教会では心根の優しい聖女を演じているが、本来の彼女は我儘でプライドが高い。

 屋敷にいる使用人に対しても高圧的な態度で接し、見下している。

 ミレイユは使用人にどのように思われようと気にしていなかった、そのため自分の手を汚さずに使用人を使い今回の計画も行っていた。




「お前は何を考えているのだ!」

 

 いつもは、わたくしの事を怒らない父が部屋に入るなりいきなり怒鳴ってきた。どうやら、わたくしが愛し子に毒を盛ったのではないかと思っているみたいだわ。

 まあ、そうなのだけど決めつけるなんておかしくないかしら。



「お父様はわたくしが何をしたとおっしゃりたいの?」

 

 わたくしは父の言ってる意味がわからないわと、とぼけてみるも父の怒りはおさまらない。


「お前の侍女のジニーが罪の重さに耐えかねて、私の前で罪を告白したのだ!」

「………」


 ジニー……わたくしから報酬の宝石を受け取っておきながら、お父様に告げ口するなんて、覚えておきなさい。

 でもお父様にわたくしを責める権利があるのかしら、お父様だって大聖堂を襲わせたじゃないの。

 教会の持つ影響力を下げて、光の魔力を持つローレンス殿下を価値を上げようだなんて、肝心のローレンス殿下にその気はないじゃないの。


「お父様には言われたくありませんわ」

「なんだと?その言い草はなんだ!」


「だってお父様もすでに教会を魔獣モドキで襲わせるなんて悪事を働いているじゃないですか?」


「!! お前は!」

「ですから、わたくしの悪事が表にでるとお父様も困りますよね?」

「………」


「ですから、お願いしますね?お父様」

 


 父の悔しそうな顔を見ていると、少し気分が晴れたようだ。

 次はどうしよかと恍惚とした表情のミレイユに対して、父であるフォクト公爵は青ざめて頭を抱えた。


 








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