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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第96話 偶然か否か

「リーネ?」


 そんな俺の問いに答えることなく、リーネがゆっくりと倒れ込むのを必死で受け止めた。

 その顔色は青白く呼吸は短く弱い。苦しそうに眉をひそめ名を呼んでも返答もない。



 そんな――先程まで何ともなかったではないか。

 こんなにも急に体調が悪くなるなんて、それにこの症状は何かの中毒症状のように見える。まさか毒が盛られたとか?少し前に飲んだ葡萄ジュースに何か?それともその前に食べた物に?


 いや、今はそんなことを考えている暇はない。とにかくリーネをなんとかしなくては。



 意識のないリーネを横抱きにすると走り出す。



「リーネ、頑張ってね。すぐに治してもらうからね」



 シリルやリオンヌ様の神聖力でおそらく治療可能であるが、今は自宅にいない。この人混みを探している暇もない。幸いなことに大聖堂が歩いて5分程、そこに行けば毒の治療ができる聖女がいるだろう。


 全力疾走し街中を行く、ただの5分程度の距離だというのに実際よりも長い時間に感じられ、大聖堂へ上がる階段に苛立ちを隠せない。


 

「教皇様、教皇様はいらっしゃいますか?」


 階段を登りきり、肩で息をしながら大聖堂の入り口にいた神官を呼び止め、教皇への面会を急かした。

 時々、苦しそうに声をあげて顔を歪めるリーネが辛そうで見ていられない。誰でもいいから早くリーネを治してほしい、そんな事を思っていた。

 

 大聖堂の奥にある、医務室へ案内されリーネをベットへ下ろす。更に顔色が悪くなったように見え、状態が悪くなっているのではないかと、不安になる。



 廊下より慌ただしく走る音がきこえ、神官と教皇がこちらに駆けてきた。一大事であると伝えたため、教皇は息をきらしているようだ。



「はぁはぁ、小公爵様、どうされたのですか?アイリーネ様?」

「リーネが急に体調を崩した。中毒症状のような気もするが……とにかく治療をお願いしたい」

「……弱りましたね。解毒のできる聖女は出払っているのです」

「!出払っているだと?そんな事があるのか!?」


 

 大聖堂には数は少ないものの常時数人の解毒ができる聖女が待機しているはずだ。それなのに不在だと?ふざけるな。そんな怒りが教皇に届いたのか、教皇は困ったような顔で理由を述べる。



「実は何者かが首都より馬車で半日ほどの所にある、ゾナと言う村の井戸に毒を撒いたのです。村人の多くが中毒症状をおこしたので聖女を派遣したばかりなのです」

「………そんな、じゃあリーネは……」

「……シリル様なら、シリル様に連絡はとられましたか?」 

「いや……そうだ」



 ポケットから紙を取り出しシリルにむけて短い要件を書く、魔力を込めて窓から空へ放つと紙は鳩に姿を変えて飛んで行った。

 シリルが来るまでどれぐらいの時間がかかるだろうか、リーネの手を握り祈ることしか出来ないなんて。二人ではなくいつものようにシリルやイザークと来ていればこんな事にならなかった。今更後悔しても、もうどうしょうもない。



 俺の我儘がこんな結果を招いてしまった

   どうして、リーネなんだ、なんで……



「教皇様、教皇様ーっ!!」


 神官が勢いよく医務室の扉を開けて慌てて入ってきた。ノックもせずに入室するとは何事かと、教皇も顔をしかめている。


「どうしたのですか?騒がしいですよ」


「それが、大変です。ミレイユ様が大聖堂におみえになりました!収穫祭の合間に立ち寄られたそうなのですが、解毒の為にこちらに来られます!」

「それは!なんて偶然でしょうか、小公爵様これでもう安心です。ミレイユ様はとても能力が高い聖女です、きっと大丈夫です」


「……ええ、本当にすごい偶然ですね……」


 教皇は一安心したように見える、もしもこのままリーネが悪くなれば教会側も困ることになるだろう。


 ふと占い師の言葉が頭をよぎる――


「あなたの大切なものが近々危機にさらされます。いい人の演じている人物に騙されないように気を付けて下さい」


 

――はたして、偶然なのだろうか?それとも……



 すぐに駆けつけた聖女ミレイユにより、解毒が行われリーネの顔色も呼吸も落ち着き、今はよく眠っている。




「偶然立ち寄ってよかったです。それにしても、誰がこのようなこと……」


 ミレイユは心配そうな顔でリーネを見てる、はたして本心なのだろうか。

 銀色の髪をなびかせミレイユは微笑んでいる、その笑顔は作ったようで嘘くさい。

 アレット姉様の生まれ変わりなどと誰が言ったかわかないが全然似ていないじゃないか。

 


「……そうですね、ありがとうございました。今日はこのまま失礼します、礼は――」


「礼なんて必要ないよ、ユリウス」


 突然入ってきたシリルがミレイユとの会話に口をはさむ。シリルは走ってきたのだろう、息が上がっている。


 ほんの一瞬だけ見せたミレイユの顔は多分怒りだ、シリルが邪魔をしたと思っているのだろう。次の瞬間にはすでに微笑んでいる、注意深く見ていないとわからないだろう。 




「聖女が治癒するのは当たり前のことだし、それに礼をするなら、ユリウスじゃないでしょ?アイリーネの保護者はリオンヌ様じゃないか」

「そうですね、改めてお礼に伺いたいと思います」

「とりあえず帰ろうよ、ユリウス」

「――ああ、わかった。では失礼します」

「……はい、お大事に……」



 

 再びリーネを抱えると、シリル達と帰路につく。

 ひとまず穏やかな寝顔に安心すると肩の荷が少しだけおりたようだ。











読んでいただきありがとうございました

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