第94話 褒美
すべての試合を終えて剣術大会は終了した。
あとは閉会式を残すのみである。
閉会式では優勝者は国王陛下より褒美を与えられる。
歴代の優勝者達は爵位や金品を望む者が多く、どのような願いも叶えられた。
国王は席から立ち上がるとまず出場者に労いの言葉をかけた。その後王は優勝者であるイザークに声をかける。
「優勝者、イザーク・ルーベンそなたの望みの褒美を与えよう。何なりと申すがよい、爵位でも宝石でも……好みの令嬢との縁談でもよいぞ」
王の言葉にひやさすようなヤジも飛び交い、闘技場は笑いに包まれた。
イザークはそのようなヤジにも目もくれず王を見上げる。
「私の望みは一つです。陛下は巷で愛し子について噂になっているのは、ご存知ですか」
イザークの言葉に王は耳を傾け、それに気づいた闘技場の人々は再び静まり返った。
「噂とは、どのような噂だ」
「先日おきましたの大聖堂の襲撃された件でございます」
話しをきり出された王はこの祝の場に相応しくない内容に眉根を寄せる。
「……ほう。大聖堂の襲撃とな」
「はい。襲撃された事により、愛し子が偽物ではないかなどという噂も出ております。陛下の……いえ王家としての見解をお聞かせ願いたい。これが私の願いでございます」
通常ならば王に対してイザークの立場から意見をするなどありえないことではあるが、アイリーネの噂を払拭したいイザークはわざわざ剣術大会で優勝し、願いを叶えることにした。
「イザーク!」
イザークを嗜めようと前に出ようとしたアベルを王は制した。少しの沈黙の後、王は口を開く。
「よく聞け、国民よ。前教皇の神託により愛し子はアイリーネ嬢で間違いない。先だっての大聖堂の襲撃事件は……悪意による人間によるものである!」
王がそう言った途端に闘技場の観客達はざわめいた。
大聖堂に魔物が入り込んだ事件は詳しくは調査中とされており、正式に発表されていなかった。そのため王の口から人為的なものだと発表され、驚きを隠せなかった。
「しかし、恐れることはない。優勝したイザークを始め我が国には優勝な騎士がそろっている!しかも妖精王の遣わした愛し子もいるのだから心配は無用だ」
王の言葉に観衆は沸き、大きな歓声と拍手に包まれた。
――よかった、これで前回のように、いや前世のアレットのように断罪されることはないだろう
満足したイザークは注目されて驚いているアイリーネを見て笑みを浮かべて頷いた。
♢ ♢ ♢
――どうする気だ、ミレイユ。
王よりはっきりと人為的、と発表された。
犯人を捜す、あるいは検討をつけているのかも……
父親のフォクト公爵も普段ならばあのような愚かな行為はしない。それなのに、ミレイユの指示通りに魔獣モドキに大聖堂を襲わせるなんて。
「エルネスト!」
名を呼ばれ腕を掴まれたエルネストはその相手、従兄妹のミレイユを冷ややかな視線で見る。
「何の用?ミレイユ」
「おじさま……宰相であるおじさまは何か言ってなかった?エルネスト」
「さあ?最近顔を合わせてないから知らないよ」
「もう、なによそれ!役に立たないわね!」
「……じゃあ、もう行くよ」
「待ちなさいよ!エルネスト!」
待てとミレイユは言うが、待つ必要もないだろう。
このままミレイユといれば、こちらも罪人となってしまう。筆頭公爵家であるフォクト公爵家も終わったな。
宰相である父はどうするだろうか。
父は父でローレンス殿下と何やらあったようだ。
大方、光の魔力を持つ殿下を崇める余りに、怒りを買うようなことをしたのだろう。
まあ、それも私には関係ないことではあるが――
「おや?あなたはエルネスト様ではないですか?」
聞き覚えのある声にギクリとし、表情が強張るのがわかる。
「これは……ジョエル様……こんな所でどうしたのですか?」
「先程、一瞬ですが闇の魔力を感じまして、見回りにきたのですよ」
「……そうなのですね。私には魔力がありませんのでわかりませんね」
エルネストの言葉にジョエルは不思議そうに首を傾げた。
「そう……ですか?魔力がないようには思えませんが……」
「いえ、そのように記録されているはずですよ?では、失礼します」
「………」
まだ何か言いたげなジョエルを後にして歩き出す。
そう私は魔力がないとされている、父の手によって。
光の魔力を崇拝している父にとって私は忌み嫌う存在だろう。生まれた時に母や乳母が止めなければ殺められていただろう。
父にとって闇の魔力を持つ私は不要な存在ということだ。
私だって好きこのんで闇の魔力を持って生まれて来た訳ではないのに……
しかし、だからこそ闇の魔力を使用しても気づかれない、その点については父に感謝だな。
しかし、王宮魔術師のジョエルほどの魔力はなく、魔力や神聖力が高い者に、私の魔力は通用しない。
そう、愛し子やその周辺の者には通用しないのが残念でならない。もし、記憶を操作できたら……
「馬車を出してくれ」
「はい」
まだ興奮さめやらず闘技場を後にして、エルネストは一人馬車に乗り帰路についた。
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