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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第93話 勝利の行方

 近づく最後の勝者を決める戦いを前に、闘技場は次第に熱を帯びてきた。

 観客の中にはどちらが勝つか賭けをする者まで現れ、お祭り騒ぎである。



 大勢の観客に紛れてフードを目深に被り、目立つ髪色を隠す。

 どうして突然、剣術大会に出場すると言ったのだろう。あんなにも目立ちたくないと言っていたのに。

 それに今のあなたは、とても楽しそうに剣を振るまっている。

 まるで昔からの旧友に出会ったかのように、ただ純粋に剣術を楽しんでいる。そんな気がする。

 今のあなたはいつにも増して私にとって遠い存在で、だから早くこの大会を終えて帰ってきてほしい。

 私の目の前から消えてしまいそうで、怖いから。

 


 それから……

 王族席に目を向けると、噂の愛し子も座っているのが見える。噂通りのこの国では珍しい髪の色だ。


 フードをギュッと握りしめ、目深にフードを被りなおす。髪の色は似ていても、愛し子と呼ばれる令嬢とは髪の艶も長さも全然違う。

 周りから愛されるのが当然のような女の子……

 姓もない、ただのカトリナ……私とは違う……



 いくら考えても仕方がないのに頭から考えが離れてくれない、そんな風に感じていたらほんの一瞬闇の魔力の気配がした。

 この魔力があの指輪によるモノだともわかる。

 まだ大きくはないけれど、それでも確実に闇の魔力は育っている。

 むくわれない恋に苦しむあの令嬢を思い出す。自分のようで哀れだと思った。だから諦められないのなら、いっそ闇にのまれてしまった方が楽なのに……ね。

 


♢  ♢  ♢


 ずっと感じていた思いはやはり劣等感なのだろうか。


 前世では辺境伯という高い地位に生まれながらも、本当に望んだものは手に入らず、現世では側にさえいられない。彼女は俺の存在さえ知らないだろう。

 だからだろうか、剣術大会に出場しようなんて柄にもないことを考えた。活躍すればするほど、彼女の目に留まるだろう、そう考えている。


 そんな自分に対して、あいつはどうだろう?

 現世ではいつも側にいながらも、一歩引いた存在で彼女のことを見守るだけ。そんな殊勝な態度ですら、腹が立つ。ただの言い掛かりだってわかっている。


 だからこそ、勝敗で白黒つけようではないか。

 あいつと剣を交えたい、それも本音なのだから。


♢  ♢  ♢


「おまたせしました!ただいまより、アルバート対イザーク・ルーベンの試合を始めます!」


 先程まで騒いでいた観客達は静まり返り、固唾をのんで見守っている。



 

「はじめ!」

  審判は右手を高く掲げ、始まりを合図した。




――動く気配はない。か……


 イザークはどうしたものかと思案する。

 ほんの少しでも油断したり、読みを間違えればあっと言う間に勝敗はついてしまうだろう。



 剣を構えたイザークは静かに息を吐く。闘技場の中にはまるで自分とアルバートしかいない、そんな錯覚におちいるほど、静かだ。

 


 次の瞬間、イザークは足に力を込めると素早く駆け出し剣を振り下ろした。連続して打ち込むも相手も予想しているかの如く、受け止められ金属音だけが鳴り響く。

 鍔迫り合いを終えて、距離を取ると息を整える。



「やっぱり、簡単には勝たせてくれないか」

「……負けるつもりは、ありません」

「そうか……よ」



 言い終える前に今度はアルバートが仕掛けてくる。

 アルバート自身を表すよに荒々しい剣はイザークの懐を目掛け、上着のシャツを真横に切り裂いた。




――イザーク様!


 観客の誰もが息を呑み、ある者は声が洩れる、そんな中アイリーネはイザークが斬られてしまったのではないかと、思わず両手で顔を覆い伏せた。


 今なお続く金属音にそっと顔をあげると、どうやらイザークはすんでのところで腹を斬られるのは免れたようで血も流れていない。


――よかった、怪我をしてなくて……


 剣がいつかイザークを傷つけるのではないかと不安になると、気がつけば涙が頬をつたっていた。



「リーネ……」

 

 ユーリに差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭うと私が泣いてどうするのよ、と自分を叱りつける。


「リーネ、休憩室へ行くか?無理して見る事もないよ」


 闘技場には王族の方や高位貴族が休めるように休憩室が準備されているそうだ。

 ユーリは私の事を考えてくれて提案してくれているが私は申し出を断った。



「いいえ、私はイザーク様にいつも守らてばかりだから、最後までここで応援します」

「……わかった」


 そう言うとユーリは私の頭をポンポンと撫でた。

 再び、試合に集中すると、お互いに距離がある状態で牽制しあっているようだった。




 腕に感じるのはただのハンカチではなくて、まるでアイリーネ様の手が添えられているようだ。

 彼女という存在があるならもっと強くなれる、そんな気がする。


 そろそろ勝負をつける時だ――


 むかってくるアルバートの剣を受け止めるとそのまま右へ左へ打ち合うと圧されたアルバートは後ろに下がる。

 今だ、とその瞬間を見逃さずに剣を弾くとアルバートの首元に刃をあてた。



「……負けた……か」

 

 アルバートはそのまま地面に座り込むと、審判が勝利を告げる。




「勝者はイザーク・ルーベン、イザーク・ルーベンです!よって優勝者はイザーク・ルーベン」


 

 審判がイザークの手を持ち天に掲げると、会場中から割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。

 イザークは答えるように手を振ると、王族席にむかい礼をとる。国王に王妃……それから父にジョエルと見渡したあと、最後にアイリーネを見た。


 アイリーネは大粒の涙を流していて、イザークは少し困ったように眉を下げるが、泣きながら笑い手を振るアイリーネに微笑んだ。



「お前、前より強いだろ」

「……以前は膨大な魔力があったので、魔力に頼っていたのでしょう」

「そうか……今の俺とは逆か……」 


 アルバートに手を差し出すとしっかりと握り返され、二人は拍手と歓声の中、固く握手を交わした。



読んでいただきありがとうございました

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