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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第92話 嫉妬と約束

 クリストファー殿下がとった行動に驚いた。

 まさか殿下まで前世の記憶を持ち、エイデンブルグの関係だとは夢にも思わなかった。


 それからの殿下の太刀筋は明らかに違っていた。

 見覚えのある太刀筋。私のようになりたいと、私を真似ていた、弟――キリアン――が脳裏に浮かんだ。

 そんな都合のいい話しがあるわけがないと自らの考えを否定する。

 勝敗が決まり、仰向けになった殿下が担架に乗せられ運ばれて行く。



「殿下、大丈夫ですか?」


「……はい、大丈夫です。イザーク……」



 頷く殿下の表情は何とも言えない表情で、喜び、戸惑いといった感情を表している。

 そして私は確信した、殿下はやはりキリアンであると。



「申し訳ありませんが、殿下は治療のため急ぎますので失礼します」と、兵士に連れられて殿下は去っていく。



 私は殿下を見送りながら、イルバンディ様に感謝した。


 前世で最後に見たイルバンディ様はキリアンと共に私を眠りにつかせた。

 死という眠りから覚め、前世の記憶を思い出した時、キリアンの身を案じていた。

 前世の縁が紡がれていくなか、キリアンの姿はみえない。心優しく、何の落ち度もなかったのにあのように亡くなってしまった、キリアン。

 あれから、約200年がたった。

 もしかしたら、今ではない別のどこか、あるいは別の国で幸せに暮らしているのかも知れない、そんな風に考えたこともあった。

 それなのに、こんなにも近くにいただなんて……



 まずは殿下に謝りたい、あのような最後をむかえたのは、私のせいなのだと。たとえ、許されないとしても……



 その為にはまずは次の試合に勝つ、そしてその次はあの男、アルバート・カロン……いやアルフレード・デリウス、あの男を倒す。



♢  ♢  ♢



「次はイザーク様の出番ですよね?」

「ああ、そうだな」


 祈るように手を組み、つぎの対戦に備えるリーネはまだ誰もいない場所を見つめている。


「リーネはイザークに優勝してほしい?」

「はい。あ、でも……」

「でも?どうしたの?」

「もし怪我をしたら嫌ですので、怪我をするくらいなら優勝しなくてもいいです」

「そっか……」

 


 クリスがアル兄様に負けてから、イザークは先程試合を終えた。リーネが心配する間もなくイザークの圧勝だった。相手は騎士団に所属する騎士であったが、格の違いを見せつけるように、イザークの相手ではなかった。

 この国の騎士のレベルが低いのではなく、イザークが強いのだ。何度か訓練としてイザークと手合わせしたことがあるが、今日は格段に違う。

 まさか俺と手合わせした時は手を抜いていたのか、と疑うほど強い。



 隣に座るリーネを見て思う。アレット姉様もこんな風にイザーク殿下を気にしていたな……と。

 イザーク殿下は皇太子であると共に膨大な魔力の持ち主であった。皇太子という立場であるのに自ら魔獣の討伐にむかい、そういう所が国民に人気があった。

 そんな皇太子にアレット姉様もどうか無事に帰ってきますようにと、いつも祈っていた。


 こんな風にイザークの無事を祈るリーネがどうしても姉様と重なってしまい、胸が痛む。

 こんなことぐらいでと思うかも知れないが、俺にとってイザーク殿下と姉様は誰が見てもお似合いだった。

 そしてお互いに想い合っていた。

 だからだろうか、イザークとリーネが並ぶ姿に前世が重なって、胸の奥にもやもやとした黒い物を感じることがある。

 

 リーネは今はまだデビュタントにも満たない幼い少女だ。この先リーネが俺を選んでくれて、恋が芽生えたならば、この黒い感情も消し去るのだろうか?

 

「ねぇ、リーネ」

「はい、何でしょうか」

「明日の収穫祭に二人で出掛けないか?」

「二人でですか?」


 突然の俺の言葉に少し驚いたのか、リーネは目をパチクリさせた。少し考えた様子のリーネはシリルをチラリと見る。もしかしたら、約束でもしていたのだろうか?

 優しいリーネはシリルを気にしているようだ。


 シリル、わかっているよな?空気よめるよな?と俺は圧をかける。



「……そんな怖い顔しなくても、わかってるよ。二人で行ってきたらいいよ」

「でも、シリルも収穫祭に行きたがっていたでしょう」

「僕は……そうだな、リオンヌ様達と行くよ!リベルト様も行きたがっていたからね」

「リベルト様って……あの人お祭りとか楽しい事、大好きだよな」

「ユリウス、そんな事言っていいの?告げ口したら、ナマイキな奴は出禁だとか言われても知らないよ」

「……シリル?」



 俺は笑顔でシリルに圧をかけ黙らせることに成功した。リーネともしっかりと二人で行くと約束もした。

 あとは、イザークが護衛についてくると言わないように、手を打たなくてはと戦略を考えた。







 


読んでいただきありがとうごさいます

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