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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第91話 憧れ

 ずっと思っていたことがある。

 これは私の罪の証だと。


 回帰後の私はずっと悪夢を見ていた。重たい壁に押し潰されて、身動きがとれずに苦しくて目覚める。

 毎日見る夢はとても苦痛であっかが、回帰前に許されないことをした。

 だから、私への罰なのだと誰にも打ち明けなかった、例え、国王である父上であっても。



 しかし、違った、違ったんだ。



 先程の攻撃で全身を打撲した時に思い出した。

 あの夢には続きがある。あのあと憧れていたあの人がやってくる。



 探していたイザーク兄上がやってきたんだ……

 あれは、夢ではなく、私の前世での最後……

 あの時、キリアンだった私は兄上を探しているうちに爆発に巻き込まれた。痛くて、苦しくて早く兄上にアレット姉上のことを伝えなくてはと必死だった。

 兄上が来てくれて、姉上のことを伝え終えた時、もう自分は長くないなと悟った。

 兄上に手を握られて、これから死にむかうというのに思ったよりも落ち着いていた。

 ずっと、憧れていたんだ、兄上に。

 


 剣を握っている瞬間に浮かぶ、誰か。

 誰なのか、ずっと思い出せないでいた。

 その誰かのようにずっとなりたくて、憧れていた。


 今わかった、私が憧れていたのは、

      イザーク・エイデンブルグ



 クリストファーは右手の剣を持つ手を背にまわし、左手で拳を作ると額にあて、礼をとった。



「なんだなんだ」

「王太子殿下は打ち所が悪かったのか?」

「大丈夫かい、殿下」


 闘技場の観客はクリストファーの突然の行動に戸惑い、そして心配した。




「さあ、いくぞ。もうひと勝負だ!」


 観客の想いなど気にもとめず、クリストファーはただ純粋に剣術大会を楽しむべく、アルバートに向かって行った。



♢  ♢  ♢


 先程の一見すれば奇妙な行動、あれはエイデンブルグで剣術の試合を行う前の挨拶。

 今ではどの国でも使われていない、忘れ去られた挨拶だ。こいつもまた、エイデンブルグに関わる者ということか?



「チッ!」


 アルバートの思考を奪うように、クリストファーは剣で斬り上げる、たて続けに攻撃されその動きに翻弄された。


 それにこの太刀筋、先程とは余りにも違う。

 わざわざ嫌な場所を目掛けて攻撃しているようだ。

 速さも増し、今までと同じ人物だと思えない。


 これと似た剣技を扱う奴を知っている。

 しかし、その男であるはずはない。

 なぜなら、その男は今ではイザーク・ルーベンと名乗っているからだ。

 では、お前は誰なんだ。



「くそっ!しつこい」


 執拗な攻撃に暴言を吐くと、力任せに押しやった。

 弾き飛ばしたクリストファーは後ろに下がり、二人の間に距離が出来る。


 ある程度の距離が出来ると剣を構え、肩で息をしているのがお互いにわかった。


 

――次で決める



 そう思うのは、アルバートだけではなく二人共であろう。


 クリストファーの攻撃を間一髪で避けると、次はこちらの番だと剣を振り下ろす。

 アルバートの剣を反射的に受け止めたように見えたが、攻撃に耐えられなかった剣は折れその刃先は地面に突き刺さった。




「……負けちゃったか」


 クリストファーは肩を動かし呼吸をすると力尽きたのか、地面の上に仰向けに寝転んだ。



「……勝者はアルバート!」


 

 勝者が告げられると雄叫びのような歓声が響く、大勢の拍手も見られ二人の健闘が讃えられた。




 

「ユーリ……クリス様が……大丈夫でしょうか」

「うん、リーネ。クリスは怪我をしたわけじゃないから、大丈夫だよ」


 不安そうに涙をためたリーネに安心させるように、優しく微笑むとリーネはわかったとばかりに頷く。

 

 王族席の王妃様も表情こそ変わらないが顔色が悪いようだ。これは4年後は王妃様から許可がおりないだろうなと苦笑いする。


 それにしてもクリス、あれはエイデンブルグに縁がないと出来ない行動だ。

 エイデンブルグでは剣を学ぶ際、一番に教わる挨拶。

 クリス、お前もまた滅びゆくエイデンブルグに存在していたのか?だとしたら、エイデンブルグの関係者が他にもいるというのだろうか。



「シリル、お前は知っているのか?」

「……本人に聞いたら?きっと教えてくれるよ」



 シリル……まだ秘密にしている情報があるのか。 

 

「敵じゃないから、本人も覚えていないこと、言う必要ないでしょ?」 



 唇を尖らかせプイと反対側を向くシリルに若干苛立ちを覚えるが、本人も覚えていない?だと。では今の行動はどういうこどだ、治療のため運ばれ行くクリストファーを見ながら、ただ疑問が増えていった。



 クリストファーから目を離さずに見つめているユリウスを横目で見る。


 君はきっと知らないよ、ユリウス。彼とは会ったことはなかったはずだから。

 エイデンブルグにあのような悲劇がおきなかったら、義理の兄弟としていずれ出会っていたかも知れないね。

 そうして、今みたいに仲の良い友達として過ごしていたかも知れないね。


 あの子、キリアンも生まれ変わっても前世を覚えているほどの未練があったのかな。あの子の最後を思えば仕方ないないのかも……


 イルバンディ様、エイデンブルグの関係者がこんなにも生まれ変わるなんて、偶然じゃないですよね。

 僕は未来がわかる訳ではないから、先のことが不安で仕方がありません。

 大きな事が起こる、それだけはわかります。



 人間になる前の僕なら未来への不安なんて考えることもなかったのにね……




 

 

 

  

読んでいただきありがとうごさいます


いいね、ブクマありがとうごさいます

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