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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第86話 噂は噂

 馬車を降りてすぐの場所にあったピンクの屋根のカフェで休憩をすることになった。

 焼き菓子専門のこの店ではクッキーやマドレーヌ、他にも野菜を使用したサブレなどの甘みを抑えたお菓子も用意されている。

 用意された席は窓際にある明るい席で、ゆったりとしたソファに座りくつろいでいく。

 


「おいしそうだね」

「本当ですね」


 三人は出てきた焼き菓子を手にすると、広がるバターの風味と甘みを堪能する。

 シリルも気に入ったようで、自宅で食べるようも購入しようとしていた。

 それならば、お父様達へお土産にしよう、私も持ち帰り用の焼き菓子も購入していこう。


「他に欲しい物があるの、アイリーネ」

「あとは、レターセットです!」

「誰かに手紙でも書くの?」



 少し恥ずかしそうに俯くと「ユーリにです」と答えた。


 ユリウスに手紙だって?今だって学園の休みの日には遊びにくるし、平日だって夕食を食べていくこともあるのに、と必要な理由がシリルにはわからなかった。


「元々はコーデリア様が淋しがっておられると、クリス様からお聞きして、お手紙を差し上げたのです。すると自分も欲しいとユーリに言われて……」


「………目に浮かぶようにわかるよ、ね。イザーク」

「………はい」


  

 まったく、アイリーネは笑ってくれているけど、ユリウスはアイリーネが関わるとポンコツ過ぎるよ。



「シリル様、シリル様ではありませんか?」


 シリルの名が呼ばれたため、振り向くと見知らぬ男女がが立っていた。声の主を見たシリルはゲッと小さな声を出すが、表面上はにこやかに挨拶を交わしている。


 シリルが好まない相手とはどんな人だろう。


 二人共に年齢はユーリと同じぐらいかしら。男性の方はブロンドの長い髪を一つにくくり、流行りのデザインのシャツを身に纏っている。女性の方はシルバーの長い髪をハーフアップにし、質のよい布地のワンピース姿で二人は貴族なのだと、すぐにわかる。



「あなたが噂のアイリーネ様ですね。初めまして私はエルネスト・オースティンと申します」

「初めまして。私はアイリーネ・オルブライトです」


 噂と言う言葉にシリルは不機嫌を隠すつもりがないのか、顔に出している。


「噂?噂、噂とみんな噂ばかりかまけてますが、他にやることがないのですね」

「手厳しいですね、シリル様。噂通りに愛らしいと言う意味でしたが不快にさせたようですね」



 エルネストと名乗った男性はシリルの態度に怒ることもない。それよりもシリルの言うことを気にしていないと良いだろうか、アイリーネから目を逸らさずに見つめている。

 そんなに見つめられると居心地が悪いのだけれど……と考えていた所で女性が口を開いた。



「もう、エルネストそんなに見つめては失礼でしょう?初めましてわたくしはミレイユ・フォクトと申します。教会で聖女を務めてますの、教会で一番の癒しの能力を持っていますの」

「そうなのですね」


 やけに一番と言う部分を強調しているようだわ。そう言えば、大聖堂の事件の日、シルバーの髪の聖女が癒しの能力を一人で使用していた気がする、フォクト嬢だったのかしら。



「……愛し子だからと聖騎士の護衛も羨ましいですわ」

「イザーク様は私が生まれてからずっと側で守って下さっているので、ただの護衛ではなく、家族同然の方なのです」

「……噂のシリル様ともご一緒ですし」

「噂?ですか?」

「ええ、お二人は婚約間近だと噂されているじゃないですか」

「そうなのですね、噂はただの噂ですわね」

「男女が一緒に行動すれば、噂にもなりますわよ!」

「えっ、ではフォクト嬢達は婚約者同士なのですか?」

「な、なにを?わたくし達は、従兄妹ですのよ」

「では問題ありませんね。私とシリルも家族ですから」



 アイリーネは意図せずにミレイユの言葉を反論してしまい、ミレイユは怒りの形相に変わる。


 ミレイユの悪意を持った言葉にもにも全く動じないアイリーネを見て思わずシリルは吹き出した。


「アハハ、やっぱりアイリーネは凄いね!」

「何がですが?」 

「ううん、何でもない」 


 シリルは笑ってくれるけど、フォクト嬢はなんだか怒っているのかしら。私がなにか気の触ることをしたのかしら。



「……本当に愛らしい方ですね、好きになってしまいそうですよ」

「君の冗談は面白くないね」

「……いえ。冗……」


「ああ、冗談なのですね」


 思わず両手をパンと叩き合わせたアイリーネは全員の視線を受けて恥ずかしくなる。

 リオーネ姉妹以外の令嬢とは接する機会がないのだけど、この雰囲気は私が何かしたのかしら……



 バカだな、アイリーネに遠回しな言葉なんて意味がないよ。そう、あのマリアぐらいじゃなければ、きっと気付かないだろう。残念だったね。

 


「アイリーネ、そろそろ出ようか?」

「そうですね」

「えっ、もう行かれてしまうのですか?」

「ええ、それではエルネスト様、ミレイユ様さようなら」


 シリルがそう言うと、イザークが会計を済ます。

 

「アイリーネ、行くよ」と、シリルに促されて店を出る前に会釈を二人に交わした。

 


「さようなら、またお会いする日を楽しみにしております」


 ミレイユとは対照的にエルネストの表情は笑顔で、失礼な事はしていないかしら、とホッとした。


 

「アイリーネ、あの二人には気を付けてね」

「何を気を付けるのですか?」

「一人で会ったりしたらダメだからね。まあ、イザークもいるしそんな事にはならないと思うけど……じゃあ、残りの買い物をして帰るよ!」

「はい」 



 新しいレターセットは悩みに悩んで、ユーリに似た銀色の猫の柄にした。

 何を書けばいいだろうか、迷ってしまい、今日の街での出来事を書いた。

 封筒を閉じて、シリルの鳩に手紙を託すと鳩は空高く舞い上がり、学園の方向に消えていった。


読んで頂きありがとうごさいます

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