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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第85話 無垢なアルアリア・ローズ

 長い外廊を歩くと数を増やしているという、アルアリア・ローズの群生を見つけた。

 一年中咲き誇る、神聖力を宿した不思議な花。

 この花は枯れると子房の中の胚珠から種が溢れ落ち、直ぐに芽吹く。


 そうしてやがて群生となり、嵐がこようとも踏みつけられることがあろうとも、何度も何度も咲き続ける。

 国によって意味合いは少し変わるが、花言葉は再生、そして無垢……


 まるであの人みたいだな……


 ローレンスは我が国の愛し子、アイリーネを思い浮かべていた。

 最初に出会ったのは彼女が初めての王宮でのお茶会だった。ローレンス自身は参加していなかったので、遠目で見た、大勢の中の一人であった。

 その日の内に行方不明となり、しばらく会うことはなかったが再開した彼女は温室で足を痛めた状態で泣いていた。

 何かがおかしいと思い、あらゆる書物を読み漁るも何もできないまま、彼女は断罪されてしまった。

 光の魔力を持つ者は皆を正しく導かなくてはいけないのに、自分が不甲斐なくて、なんて無力なんだろうと打ちひしがれた。


 そして、回帰……


 ローレンスには光の魔力の特性ゆえか、回帰前の記憶が残っていた。ただし、誰にも話したことはない。

 父上や兄上が自分に対して罪悪感を抱いていることが、想像できたからだ。


 だから私はただの子供のふりをする。

 知らない子供でいたほうがきっと父や兄は安心するだろう。無邪気な子供でいたほうが……


 ただ、あまりにも無邪気すぎると光の魔力を悪用しようと擦り寄って来る者もいる。

 愚か者にはそれ相応の責任を取っていただこう。

 


「ローレンス!?」



 突然呼ばれた自分の名に振り返ると、予想通りの人物がいた。

 綺麗に結ばれていたはずのグリーンライムの髪を振り乱しながら走って来た、双子の妹コーデリア。

 


「コーデリア、走ったらしかられるぞ」

「別にいいじゃないの。部屋の中ではないのだから」


 回帰前にはいなかった、私の妹コーデリア。

 妖精王の贈りもの、偽りなく無邪気な妹はとても眩しい存在だ。産まれた時からずっと隣で私を照らしてくれる。君がいる限り光と共にあるだろう。


「どうかした?ローレンス」


「……いや、なんでもないよ」


「じゃあ、お菓子を食べに行きましょう?」



 差し出された手に普通は逆ではないかと躊躇するが、コーデリアは規格外だから仕方ないなと、自分の手を添えた。



♢  ♢  ♢


 馬車から見える景色がいつもと違うように見える。

 いつもは教会か王宮に行くために馬車を乗り、代わり映えのしない道のりであったが、今日は違っていた。


 王都であるアルアーティにある商業区ではありとあらゆる物が売られている。一部の区間は貴族達の御用達で平民が入れない場所もあるが、それ以外は自由だ。



「どうぞ、アイリーネ様」

「ありがとうごさいます」


 イザーク様にエスコートされ馬車を降りると周辺を見渡した。

 可愛いピンク色の屋根はカフェを併設した焼き菓子を売る店で、パンの香ばしい匂いはレンガの建物と数えだしたらきりがない程、沢山の店で溢れていた。


 ちょうど街の中心部であり最近できた噴水が存在感を強調していた。


「アイリーネ、あんまりキョロキョロしていたら危ないよ」

「わ、わかりました」

「イザーク、アイリーネのお金は持っているよね?」

「はい、大丈夫です。しっかり持ってます」

「じゃあ、行くよ」


 

 今日も護衛を務めるイザークは二人の後ろに控え、いつものようにシリルと手を繋ぎ、私達は歩きだした。

 人が多い所を歩く時は迷子にならないように、シリルと手を繋ぐのが当たり前になっている。

 

 


 今日、私は初めて自分の足でお買い物に来ました。

 いつもは家にお店の人が商品を持って来てくるれので買い物に来る必要はなかったのだけれど、自分で商品を直接選びたくて商業区までやって来た。


 自宅も王都にあるので実際にはそんなに離れていないのだけど、気分は大冒険だ。

 見るもの全てが楽しくて仕方がない。


「それで、何を買うの」

「はい、刺繍用の糸とハンカチです」

「誰かにあげるの?」


 手招きでシリルを呼ぶと「内緒ですよ」と付け加えると小声で説明した。



「もうすぐ剣術大会がありますよね?」

「うん、収穫祭の時にね」 

「イザーク様は今年は出場なさるようなので、大会前にお渡ししようかと思ったんです」

「どうして、ハンカチなの?」


「最近、流行っているそうです。無事に帰ってきてねと意味が込められているそうですよ」



 得意げに話すアイリーネにまたしてもリオーネ姉妹からの情報だろうな、と苦笑いをした。



 刺繍の糸やハンカチを扱う店は令嬢達で溢れ返っていた。所狭しと並べられた刺繍洋品は我先にと次々と売れているようで、アイリーネも真剣な眼差しで選ぶ。


「令嬢って、直接買い物するものなの?」

「多分、王立劇場での演目の影響でしょう」

「王立劇場?」

「北に位置するフェリーぜ帝国の第2皇子と愛し子がご結婚された記念の二人の物語だそうですよ。魔獣の討伐に向かう際、愛し子が皇子の二の腕に刺繍したハンカチを巻くのです」

「へぇー。邪魔じゃないのかな?気になるよね?」


 シリルの声が大きかったのか近くにいた令嬢達に睨まれてしまった。

 

「そんな事いってはダメですよ。みんな真剣なのですからね」

「……うん、そうだね」


 

 夢物語の話しだとしても、みんな、自分に置き換えてどの令嬢も真剣な顔で選んでいる。

 中には恋人や婚約者、あるいは片想いの相手かも知れない、みんな幸せそうに笑っている。


 もちろん、アイリーネ。君もね。

 

 他の令嬢達と同様に刺繍糸を選ぶアイリーネもまた、幸せそうに笑っていた。



 アイリーネ達がいる店は令嬢達が大勢いて狭く、イザークは外で待っていた。シリルが側にいるならば心配はないだろう。


 店の入口の側に立つ露店に並ぶある商品に目が奪われる。とても懐かしく胸が震えた。


「それを包んでくれないか?」

「はい、毎度あり」


 手渡した銀貨と引き換えに小さな袋に入った商品を受け取る。

 大事そうに内ポケットにそっとしまった。



「若い女の子達に人気なんですよ。そのアルアリア・ローズのペンダント」

「……そうか」


 渡すつもりはない、ただ想い出に浸っただけ、それだけの事だ。

 そう自分自身に言い訳をして、イザークは買い物を終え店から出てきたアイリーネ達と合流した。


 




 


読んでいただきありがとうごさいます

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