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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第84話 宰相と光の魔力

「ロングウルフに闇の魔力を纏わせる事ができるのならば、魔獣にも同じ事ができるのでしょうか」



 イザークが発した小さな疑問にハッとした。

 そもそも、ロングウルフは普通の獣であり、魔獣とは違う。ただの凶暴な野生動物だ。

 今回ロングウルフは闇の魔力を纏うことにより己の意志とは関係なく凶暴性が増していた。

 これを魔獣に置き換えて、仮に闇の魔力を纏わせることが出来るとしたら、その凶暴性は増し多くの犠牲者が出るだろう。

 まてよ、マリアのあのペンダントのように人の記憶を操作することが魔獣で可能だとしたら……



「ア、アル兄様――」

「落ち着けユリウス。お前が考えていることは分かるが、普通の獣と魔獣では大前提が違うだろ。魔獣はそもそも闇の魔力に属する物だ。だから今回のロングウルフのように簡単にはいかないだろう」 



――簡単にはいかない?

 

 アルバートの説明を聞き、ある部分が引っ掛かる。

 ユリウスは恐る恐る尋ねてみた。



「簡単には……じゃあ、出来ると言う事?」


「……ああ」



 そんな……だとしたら、また同じ事件がいやそれ以上の大惨事だ。

 そうなる前に早く首謀者を捕まえなくてはならない。


 それにしても……


「回帰前と違いすぎて、いつも後手にまわっている気がする」

「うん、それは僕も思っていた。もしかしたら、あのペンダントで大勢の人が操られていたからなのかな。マリアの意志に沿って動いていたから、アイリーネに対して以外は興味を持っていなかったとか?」 

「じゃあ、マリアが接触できる人間ということか」 

「あの時のマリアは王宮にも教会にも出入りしていたから、範囲は広いよ」



 それ以外にも気になっていることがある。と告げたシリルの視線の先にはアルバートがいた。


「でも……ずっと昔、初めてアイリーネの前に現れた蛇の影、そしてその後定期的に闇の魔力を持つ影を送ってきたのは、アルバート君だよね」


「……どうしてわかった」



 イザークは咄嗟に警戒を示したがシリルは大丈夫だからとなだめた。


「だってあれは僕達に戦い方を教えるためでしょう?」

「………」

「君が敵じゃないのはわかるよ」

「……そうか」



 アルバートは静かに目を閉じる。そして笑いとは言えないほど僅かに口元を緩めた。



 回帰前はこんな穏やかな日が来るなんて思いはしなかった。


 教団の勢力は今よりも強く、断固たるものであった。

 教団内での地位は高くても同じ志も持てずにただただ孤独だった。

 それなのに、やっとみつけた唯一の光はすでに破滅への道を歩みはじめた後で、もはや取り返しがつかない所まで来ていた。

 失った喪失感と湧き上がる怒りの感情をもて余して狂いそうだった。

 

――そんな俺が今こんな風に過去と向き合えるなんてな……アルフレードお前はどう思う?



♢  ♢  ♢


「これはこれは、ローレンス殿下ではありませんか」


 会いたくもない人物に出会い、うんざりとする。

 避けるためにわざわざ遠回りをして外廊を利用したというのに。

 まだ続いていた残暑も落ち着きを見せ、実りの秋の気配が感じられる。外廊から見える木々も赤く色づき始めていた。

 

「――何か用でしょうか?宰相」


 ローレンスは振り返ると感情が籠もっていない瞳で宰相を凝視した。


「いえ、ぜひ殿下と一度ゆっくりと語り合いたいと思いまして……」

「――語るとは?」

「それはやはり光の魔力についてでしょうか。殿下はアルアリア王家で唯一の光の魔力保持者なのですからな」



 冷ややかな視線をむけられた宰相は異変を感じて笑顔を辞めた。


「殿下?」


 いつもは笑みを絶やさずに王族らしく振る舞っているローレンスが不機嫌な面持ちで宰相を見つめている。


「宰相。僕、いや私はね、超えてはいけない線を超えない限りは寛大でいようと思っていたんだ」


「………一体どうしたと言うのですか」


「覚えがないと?」

「ええ」



 ローレンスはまだ年端もいかない、ただの子供。何があっても言い包めればよい、そう侮っていた。

 実際のローレンスはどうだろう正に王者の風格ではないか。


 ローレンスこそが次代の王だと宰相は確信した。



「私は王にはならない。諦めろ宰相。今ならまだ引き返せるぞ」

「殿下、何をおっしゃるのですか!あなたこそ、光の魔力を持つあなたこそ、王に相応しい」



 そう言いながら自分の両肩を掴んで来た宰相の必死な形相が哀れだ。

 宰相は自己の利益のために言っているわけではない。


 闇の魔力に囚われる者がいるように、光の魔力に魅せられる者もいる。

 光の魔力を持つ者を崇め、神格化する。

 王族に光の魔力を持つ者が現れると、その者が王座につくようにあらゆる手段をとる……


 宰相もまた光の魔力に魅せられているのだろう、人の人生に自らの人生を委ねるなんて、傲慢でそして哀れだ

 


「宰相、どうして闇の魔力を持つ者よりも光の魔力を持つ者が少ないか知っているか?」

「は?それは生まれてくる割合が少ないからでしょうか?」


 子供とは思えないほど毅然とした態度のローレンスは目を細め、宰相の耳元で囁く。

 


「いや、光の魔力はその力を悪しき事に使用すると失われるからだよ」

「そんな話し聞いたことがありません」 

「ああ、そうだろうね。王族しか入れない書物庫の禁書扱いの本から得た情報だからね」


「そんな……」 


 両膝をついた宰相は肩を落として、項垂れた。


「正規の方法以外で王となった光の魔力を持つ者は、王となった後、光の魔力を失っている。だから宰相、諦めてね。それから、一線を超えた責任は追い追い取ってもらうよ」



 満面の笑みをみせるローレンスを恐ろしい者でも見るように、宰相は顔を伏せ小刻みに震えると自らの過ちに今更ながら気付いた。


 

 

読んでいただきありがとうごさいます

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