第83話 わざわいの予感
オルブライト家の屋敷の一室ではある日を境に情報交換が行われていた。
シリルの部屋ではユリウスにイザーク、そしてアルバートが集まり大聖堂でおきた魔獣モドキ事件について話し合っていた。
「えっ、じゃあこの間の大聖堂の事件は教団の仕業じゃないってこと?」
シリルは予想外の答えに目を見開いて驚いた。
闇の魔力が使われている以上教団が関わっていると思っていたのだが、あてが外れた。
「ああ、今回の事件は教団じゃない」
「一体誰があんな事……」
アルバートの否定にイザークも困惑の色を隠せないでいる。間違いなく人為的な事件、教団ではないとしたら他にも闇の魔力を操り罪を犯す者が他にもいるということだ。
ユリウスはソファに肘をつき黙り込む。
誰がなんのために事件をおこしたのだろうか。
リーネがいなければ被害は大きくなっただろう、ではリーネを大聖堂に呼ぶのが目的か、それこそ理由がない。
「ユリウス?どうしたの、黙ったままじゃない」
「ん?ああ、誰が得したかなって考えていたんだ」
「得した人とかいるの?」
「まだはっきりとはしない。ただこれほどの事件だ、イタズラじゃないだろうしな」
アルバートは少し間を置くとこんな噂がでている、とシリルを横目で見た。
「シリルとアイリーネは婚約間近だそうだ」
「はあ?なんだよそれ」
「えっ?どういう事」
「………」
貴族の間よりも街の中で聞いた噂だとアルバートは付け足した。
大聖堂の事件でシリルと共にアイリーネが現れたことにより前からあった噂が加速したようである。
「大聖堂に現れた二人はとてもお似合いだったと騒いでいたな」
「アル兄様、ちゃんと否定してくれたよね?」
気迫に満ちた表情でユリウスに詰め寄られ、アルバートは視線を逸らした。
「……いや……すまん」
「………」
ハァとため息をつくとユリウスは膝を抱えた。
「もしかして……ユリウス様をアイリーネ様の側から排除したいとかでしょうか。回帰前のように」
「いや、それでもイザークやシリルがいるだろ」
「いや、あり得なくもない」
アルバートの言葉に三人はどうゆう事だと注目した。
「今回大聖堂という場で事件が起こった事で教会に対して疑問の声も上がっている。それから愛し子の存在も怪しむ声もあるみたいだ」
「――そんな」
回帰前のリーネが思い出される。俺が側にいなかったからリーネはマリアから執拗に嫌がらせを受けて、最後には……
ユリウスは断罪された日のアイリーネを思い出し身震いすると、自身の腕をさすった。
誰だ、誰の仕業だ。リーネを排除したい奴、誰だよ。
一瞬、脳裏にマリアの顔が浮かんだ。
しかし今のマリアはまだ幼いあれだけの事を出来るはずもないだろう。
それにロングウルフを捕まえて更に闇の魔力をかける、マリア一人ではできやしない。
「噂の出所はわからないの?」
「婚約の方の噂はフォクト公爵家の娘だと聞いている」
「フォクト公爵といえば、ミレイユ嬢だね」
「知ってるのか、シリル?」
「うん、聖女の一人だよ。強い癒しの能力を持つ聖女だよ。そういえば、大聖堂の事件の時もいたな」
フォクト公爵か……回帰前には特に目立つ動きはなかったはずだが……探りを入れたほうがいいのだろうか。
同時期におきた魔獣モドキの事件と婚約の噂、この二つにフォクト公爵家の影、繋がっていると考えるのは間違っているのだろうか。
国の重鎮のフォクト公爵家はリーネがリオンヌ様の子供だと最初から知っていた家の一つだ。愛し子や教会を攻撃して公爵家に何か利益があるのか。
「ねぇ、ユリウス。僕が彼女に近づいてみるよ。だからユリウスは近づいてはダメだよ」
「シリル?」
「だっておかしいでしょ?公爵家の令嬢がそんな噂を流すなんて、それに噂の出所もすぐに判った。ユリウスと接触したいんじゃないかな?」
「俺と?何のために」
「それは分からないけど……とりあえず、気を付けて…」
「わかった」
シリルはフォクト公爵の娘ミレイユを思い出していた。
シルバーの髪と紫がかった赤い瞳。強い癒しの聖女のである彼女は、聖女達の間でエイデンブルグのアレット様の生まれ変わりではないかそんな話しをする者もいる。
確かに癒しの能力は強いがあの貼り付けたような笑顔が嘘臭い、そんな風にずっと思っていた。
だからこそ今までは彼女を避けて来たけれども、アイリーネに害があるなら仕方ない。
だって、アイリーネは僕の家族だから……
読んでいただきありがとうごさいます
本日、体調不良のため、短めになってます。




