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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第80話 それぞれの生き方

「とにかく俺は教団主だが闇の魔力が込められたのは俺の指示じゃない。信じるかどうかはお前次第だが」


「信じるよ」


 自身の言葉を信じると即答したシリルの目は疑いを持たぬように澄んでいて、アルバートは思わず目元が綻んだ。


「そうか……」


「で、その怪しげな教団はいつになったら解散させるの?」

「……あの子から危険が去った時だ。教団の奴は独断で動く奴らもいる。目が届いた方が管理しやすい」


 そんな孤独な人生を送ってほしくてイルバンディ様は記憶を残したわけじゃない。

 君の生き方を知った愛し子は喜ぶと思う?


 考えながら視線を下に落としていたシリルは正面を向くとアルバートに詰め寄った。



「アイリーネは君のことすら覚えてないのに?どうして危ない橋まで渡るの?」


「……そうだな。理屈じゃないな、自分でもわからないけど泣いてほしくない、幸せになってほしい。ただそれだけだ」


「アイリーネ……アレットだって君のことが大切だったはずだよ?だから君もちゃんと幸せにならないと、ダメだよ。誰一人欠けちゃダメだ!」


 少し驚いた顔のアルバートはすぐに破顔するとシリルの頭を撫でた。


「お前は優しいんだな」

「子供扱いしないでよ、僕は本当は君達よりも長生きなんだから。今の姿は仮初めなんだからね」

「ああ、わかってる」


 

――理屈じゃない、ただ幸せになってほしいか……


 その想いには覚えがある。自分も同じだ。

 彼女の笑顔を守るためなら、なんだって出来る。

 もしも時には自身を盾にしてでもと決めている。

 理屈じゃないこの想いに返答はいらない。

 一方通行だとしても、ただ側に居たい。


「イザーク」


 ふと呼ばれた名前に考えごとに耽けていたイザークは我にかえった。


「な、なんでしょう。ユリウス様」


「……お前だってそうだぞ?」

「……は?」


「だからお前だって幸せになる権利もあるし、自分が犠牲なればいいとか辞めろよな?そんなことしたら、リーネが泣くだろ」


 イザークと目線を合わせずにぶっきらぼうに話すユリウスに微笑する。


「……そうですね」


 了解したとは言えないが、胸が温まる言葉は受け止めておこう。

 それにしてもユリウス様も変わられた。長い付き合いとなり情も出来たというのだろうか。


「なんか余計なこと考えてないか?イザーク」

「……いいえ、ユリウス様」


 まるで思考が読まれたようだと口には出さずに笑顔で返した。



 こうして初めての会合はお開きとなった。



「リーネはもう眠ってるよな」

「うん、夜中だもんね。まさか顔が見たいとかいわないよね?」

「………」


 やっぱりねとじっとりとした目でユリウスを見た。


「あのね、ユリウス。眠っている女の子の部屋に入りたいなんてどうかと思うよ」

「……わかった」


 自分以外の皆がガックリと肩を落としたのを見て、僕以外みんな紳士じゃないな、とシリルは首を横に振った。


 


「――動くな!」


 声がした、そう思った瞬間には鋭利に光る物がアルバートの首元にあてられた。その距離は僅かでほんの少しでも身をよじれば命の保障はないであろう。


「お前カロン家の人間だな!それからお前達もこいつがどんな危険な奴かわかっているのか!?」


 手元を緩めることなく、見たこともない形相で怒るリベルトに圧倒される。

 今にもアルバートを傷つけてしまいそうな緊迫した状況に誰もが固唾をのんだ。


「ま、待って下さい。その人は敵ではありません」

「そうだよ、危ないよー敵じゃないから」

「はい、敵ではありません。リベルト様どうか怒りを収めて下さい」


 ユリウス、シリル、イザークが三者三様にアルバートを庇う。

 その姿に一瞬目を丸くしたリベルトは深く息を吐くと剣を納めた。


「お前達、ちゃんと説明しろ!客が来るとは聞いていたが、テヘカーリの人間だとは聞いてない」

 


 説明といってもどのように言えばいいだろうか。ここで前世を話したところで信じてもらえないだろう。

 そんな皆の気持ちを察したのかリベルトは告げた。


「今までだって回帰だなんだと理解してきたつもりだ。お前達は嘘を言ったりしないだろう」


「……わかりました。話しが長くなりますが……」

「そうか、移動しよう」


 

 居間に移動すると騒ぎを聞きつけたのか、リオンヌが姿を見せた。

 休んでいたのだろう、寝間着にガウンを羽織る、客の前に出てくる服装ではない、


「いったいどうしたのですか、君達……。それからあなたは……あっ?」

「どうした、リオンヌ?」

「いえ、あなたは回帰前のアイリーネが居た牢屋で、あの子の服を乾かしてくれた。そうですよね?」


 そう言って近寄るリオンヌに視線をそらしながら「ああ」と答えたアルバートは照れているように見える。

 




 夜も更けてきたのでユリウスは手短にかつ要点はしっかりと自分達の前世の記憶を二人に聞かせた。


 二人は信じられないと驚愕するも最終的には黙り込み考えていたが、最終的には受容したようだった。


「あの子が可哀想すぎます」


「だからこそ、俺達の手で幸せにしてやるんだろ」


 リオンヌは手で顔を覆い泣いている。

 リベルトは静かに肩を抱くがリオンヌに泣き止む気配はない。


  

 確かに俺もそう思う。どうしてだと妖精王に問い糾したい。きっと答えてくれはしないだろうが……


 ただリーネが覚えていない、それが救いだ。


 


  リーネの断罪された日まで――あと5年。

   それはエイデンブルグが滅んで200年後、             きっと意味があるはずだ。


     


    残された時間はそう多くない……

         このまま絶対に解決してみせる。

 



 

 

 

読んで頂きありがとうごさいます

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