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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第78話 三兄弟

 アイリーネが本来の姓に戻ったと貴族の間ですぐに広まった。

 公爵家の保護下ではなくなったアイリーネを貴族達はどうにかして繋がりを持とうと試みるもリオンヌによって阻まれる。


 またシリルが一緒に住むようになり、神聖力を使用して防護壁を張り安全対策も強化されていた。


 しかし年齢の近いシリルと同じ屋根の下に住むことにより、新たな噂に悩まされることになった。

 公爵邸を出たことでアイリーネの将来の相手はユリウスではなく、シリルが本当の相手ではないのかと噂されるようになった。



「……ムカつく……」

「まあまあ、ユリウス落ち着いてよ。ただの噂なんだからね」


 ここ最近、噂が出回るようになってからユリウスは不機嫌でしかめっ面をすることが多くなった。


「それだけじゃないんだって!クリス聞いてくれよ!その噂を真に受けて婚約の打診してくる家まであるんだぞ」

「うわー。大変だね」

 

 実際に父である公爵にまで打診されるケースはまれであるが、ユリウスが出席するパーティではそれとなく自分の娘や孫はどうだと言う貴族もかなりの数いた。


 他人事のクリストファーに腹が立つ。クリストファーにもまだ婚約者はいない。王太子の地位にいるクリストファーが学園に入っても婚約者候補すらいないのは、異例である。



「お前はどうなんだよ、クリス」

「私か?そうだな……実はユリウスに聞いてほしいことがあったんだ」

「なんだよ?」

「うん、実はローレンスに王太子の座を譲ろうと思っているんだよ」

「クリス!!」


 思いがけないクリストファーの告白にユリウスはまわりを見渡した。


 ここは学園の寮にあるユリウスの部屋。ユリウスは元々自分のことは自分でできるため、侍従はおいていない。そのため寮の部屋にはユリウスとクリストファーの二人しかいないのだが、防音の効いた壁だとしても誰がが聞き耳を立てていると考えても不思議ではない。


 ユリウスもクリストファーもその地位のため二人に近づくために画策したり、弱みを握り排除しようとす者がいるかも知れないのだ。



「クリスそんなに軽く語れることじゃないだろ?陛下には相談したのか」

「いや。でもねユリウス。誰がみてもローレンスが相応しいと思わないか?回帰の記憶がないのにもかかわらず、あれだけの知識と判断力。それに光の魔力、王になるには充分だよ」

「……クリス、お前まだ気にしてたのか?回帰前の……」


 断罪について……そう言葉にするのを阻められた。


 たしかにリーネが断罪されたあの瞬間、クリスの事が許せなかった。

 クリスは当時の記憶が曖昧であった、しかし思い出したあとは後悔と懺悔、それから自身に対しての怒りがクリスを苦しめていた。

 

 ユリウスとしては断罪自体もそうだが、それよりも断罪前のリーネの待遇があまりにも酷くてあのペンダントとマリアは許せないが、クリス自体にはそこまでの感情はない。



「ごめん、ユリウス。こんな話しをして、近々父上にも話そうと思う」

「……そうか」


 クリス自身がよく考えてそれでも考えが変わらない、そう言うのであれば俺はその考えを支持しよう。


♢  ♢  ♢



「ああ、早く愛し子に会いたい……」

「コーデリアちゃんと集中してよ」

「ローレンス……私は王になるわけではないから、あなたと一緒に学ぶ必要はないわ」


 一緒に座り受けている授業を真面目にうけないコーデリアに業を煮やした。


 ローレンスは王宮の侍女達に評判のブロンド髪にエメラルドグリーン瞳の愛らしい顔を歪めて妹に怒りをぶつける。


「僕だって王にはならないけど授業を受けてるんだ。コーデリアも真面目に受けてよ!」


「……わからないわよ?」


 コーデリアの言葉にピクリと眉をひそめた。


「どうゆう意味だよ?コーデリア。私達には兄上が、立派な王太子殿下がいるじゃないか」

「……まわりも、本人もどう思っているかわからないじゃない!」

「まわり?」

「光魔法を使えるあなたの方が相応しい、そうゆう声は絶対あがるわよ」

「そんな……兄上はあんなに強いんだ。剣の腕ならだれにも負けない!」 

「……今は他の国との関係も良好だし、魔獣だって魔術師がいる。それに王は必ずしも強い必要はないわ」

「コーデリア!!」

「あなたはどう思う?ロジエ・ミケーリ」



 ロジエはこの兄妹の話しを聴き入っていたが急に話しを振られ困惑した。


 ロジエは学園に所属しているがヴァールブルク公爵に頼まれれてユリウスの家庭教師も努めていた。

 ユリウスが学園に入ると家庭教師は必要なくなり、その代わりと王家から打診された。

 本来なら断ろうと思っていたロジエだが、光魔法を持つローレンス、妖精に似た容姿のコーデリア、その二人が興味深くてこの仕事を引き受けた。

 

 そのはずなのだが、将来の王についての質問など答えられるはずがない。不敬ではないか。


「申し訳ありませんが私はお答えできる立場ではありません」

「ふーん、先生なら教えてくれると思ったのに」


 苦笑いをしたロジエをコーデリアはクスリと笑った。


 握った拳を口元にあて考えているローレンスを横目にコーデリアは思う。


 いっぱい悩んで、いっぱい考えて、誰にも利用されないように立派になってローレンス。

 光魔法を持つあなたが闇に囚われるようなことがあれば愛し子であるアイリーネに害が及ぶかも知れない。


 あなたにその気がなくてもわからない。

 回帰前はそんなそぶりはなかったけど、今は回帰前とは随分変わってしまった。

 これから何が起こるかわからない以上、これ以上こちら側の人間を闇に貶すわけにはいかない。


 だから私はここにいる。

 王家を守ることがこの国を守ることだから。

 

 本当はアイリーネの側にいたいけど、とそう思いながらもコーデリアは自らの意志でこの国に対しての決意を表した。


読んで頂きありがとうごさいます

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