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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第74話 夢の中のアイリーネ①

 眠ったままのリーネはまだ目を覚まさない。

 あれから丸一日が経ったというのに目覚める気配もない。



 リーネを見つけたあと、すぐに合流したリオンヌ様が治癒を施してくれた。

 熱も下がり呼吸も落ち着いている、それなのにどうして目覚めないのだろうか。

 このまま目覚めないと食事もまともに取れずに体が弱ってしまう。



「なあ、シリル。リーネは治っているよな、体力が回復したら目が覚めるのか」

「……ユリウス」


 眉を下げて今にも泣きだしそうなシリルに嫌な予感がよぎる。


「違うのか、シリル」


「……違うわけじゃないんだけど」

「……説明してくれ」


 うんと答えるとシリルはソファに座ると息を吐いた。

 まずはと治癒について説明し始めると、リオンヌ様もシリルの隣に座り頷いた。


「ユリウスの治癒の能力ってどんなイメージ」

「そうだな、呪文を唱えれば光が現れたと思ったら治ってる。そんな感じだが……」


「うん、そうだよね。魔力に多い、少ないがあるように神聖力にも多い、少ないがある、それはわかるよね」

「ああ」

「だから、どんな怪我もどんな病も絶対に治る訳ではない。教会は神聖力が一定数に届かなければ聖女や聖人とは認めていないしね」 



 だからこそ聖女候補と呼ばれる少女達は一定数いる。対して聖人は数が少なく候補すらいない。ただし聖人であると認められる者はシリルのような圧倒的に能力が高い。

 神聖力を持つものは教会に所属すると聖人と呼ばれるほどの能力がなければ神官となる。

 聖女候補達は聖女だと認められなければ、貴族であればリオーネ姉妹のように家に帰る者もいる。対して平民だと教会で神官として遣える者もいる。



 シリルもリオンヌ様も教皇の家系であり治癒能力を使える。聖人だと呼ばれてはいないが分類でいけば、聖人だろう。

 だからこそリオンヌ様の治癒を受けたリーネは治っているはずだ。


「そう、リオンヌ様の能力は最高レベルだよ。それでも治せないこともある神聖力は万能じゃないんだ」

「……例えばどんな時なんだ」


 少しの沈黙のあとシリルは語りだす。


「1つ目はすでに魂が体を離れてしまった場合、これはすでに死亡してしまっているから治せない。2つ目は時間が経ってしまった傷や欠損、大きさにもよるけれど古いものは難しい。3つ目は病や怪我で失った体力や血液、これらを補うことは出来ない。4つ目はすでに病魔が体を蝕んでしまっている場合、僕のお祖父様のように……」

「………」

「……最後に体は治っても心に傷を負って本人に帰ってくる意志がない時」

「!!」


 ユリウスは震える手で顔を覆った。

 リーネは自分の出生に傷ついた、それから俺が言った「血が繋がってなくてよかった」でさらに深く傷ついたのだろう。


「俺のせいだ」

「でも誤解なんでしょう?」

「目覚めてくれないと誤解も解けやしない。どうしたらいいんだ……」


「……方法がない訳ではないよ」

「本当か!?」

「多分アイリーネは夢を見ていると思う。そこまで迎えに行けば帰ってくるかも知れない……でも更に拗れてしまう事もあるかも知れないよ」


 拗れる……リーネがここに存在しない以上のことがあるのか?だったら答えは決まっている。


「行くよ、頼むシリル。どうすればいいか教えてくれ」


「わかった、じゃあ説明するね?まずアイリーネは今の夢の中である場所にいると思う、アイリーネの夢の中に入って直接話しが出来て誤解が解けたら目覚めると思うよ」

「そんな事ができるのか?いったいどうやって……」


 にっこりと笑ったシリルはいつも調子で自分の胸をトンと軽く叩いた。


「僕に任せて!ユリウスがアイリーネの所まで行けるようにしてあげるから!」


 シリルの隣で不安そうにしていたリオンヌも背筋を伸ばすと頭を下げた。


「私からもよろしくお願いします」


「はい、任せて下さい」


 シリルを真似て自分の胸を軽く叩くと絶対にリーネを連れ戻す、そう決意した。



♢  ♢  ♢


「ここは……?夜?」


 満月の浮かぶ空に綺麗に整備された庭園、もしかしてと歩き始めた。

 しばらく歩いた先のガゼボにはお目当ての人物がいた。長い黒髪にゆったりとした着衣、三年前と変わらずにその人はガゼボにいた。



「やあ、久しぶりだね」


 前と同じく様子を伺うアイリーネに声がかけられた。


「はい、お久しぶりです。えーっと、そういえばお名前を聞いていませんでした」


「うん、そうだね。君は急いで帰ってしまったからね」


 前回はシリルにより呼び戻された。自分の意志で帰ったわけではないのだけれど目の前の人物にとっては同じことなのだろう。


「えっと、私はアイリーネ……」


 ヴァールブルクと続けようとして自身がその名を名乗るべきではないと思った。


「私はアイリーネといいます」

「別におチビちゃんでもいいよ」

「いえ、名前でお願いします」


 フフッと笑うと無機質に見えた顔が柔らかな雰囲気となった。

 

「僕の名前はカルバンティエ。よろしくね、アイリーネ」

「はい」

「僕はね、君とずっと話しがしたいとお願いしてんだけど、残念ながら聞き入れて貰えなかったんだ」

「そうなのですか?」

「うん、お願いがあってね」

「……お願い」


 こんな所にいる人物が自分にどのようなお願いがあるのだろうかとアイリーネは身構えた。


 

 

 



 

 






 


 

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