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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第71話 魚と影

 夏だというが避暑地ということもありセララ湖には涼やかな風が吹き快適である。


 ようやく順番が回ってきたアイリーネ達は4人乗りのボートにゆっくりと乗り込むとイザークはオールを手に取った。

 ボートはオールが付いているものの風の魔石が取り付けてあり、オールは方向を決めるための物にすぎない。

 

 ユリウスは渋い顔をしていたが、アイリーネの隣に座ることでようやく笑顔を見せていた。



 ボートが走り出すとアイリーネは髪をなびかせながら風を感じた。辺りを見渡してみると、どのボートの上でも笑顔がみられ楽しそうである。

 透明度のある湖は魚が住んでいるのか魚影がみられる。



「魚もいるみたいですね」

「リーネあんまり覗いたら危ないからダメだよ」

「えっ、魚ですか?どこですか」

「マリア様、危ないので動かないで下さいね」


 魚は元気に泳いており、アイリーネもマリアも目で追うのに忙しい。


 

 そんな4人が乗るボートをひっそりと眺める人影があった。アイリーネ達は全く気付いていない。


――ユリウス様の隣にいるのはわたくしなのよ。

 誰にも譲りたくない、それが誰であったとしても


 想いを汲んだように右手の指輪が反応する。


 指輪から黒い影が飛びでると湖に入った影は魚の形をとった。魚影と区別がつかない黒い影はそのまま泳ぎ出すとアイリーネ達が乗っているボートを目指す。

  

 黒い影はボートにひっそりと近づくと隙を見て勢い良く飛び上がるとアイリーネに目掛け飛んで行く。


 急に感じる闇の魔力にユリウスとイザークは警戒し、アイリーネを庇う。



「リーネ!」

「アイリーネ様!」


 ユリウスは咄嗟に風の渦を作ると神聖力を流し込み飛び出してきた影を切り裂いた。

 いつものように消えることがなかった切り裂いた影の一部が今度はユリウスを目掛け飛んでくる。


「お兄様!」


 影がユリウスに届く直前でアイリーネが浄化の光を手に纏い放つと影は完全に消滅した。

 ホッとしたのも束の間、光に驚いたマリアはボートの上で立ち、ボートが転覆しそうに大きく揺れている。



「危ないリーネ!マリア、立つんじゃない!」


 ユリウスはアイリーネを引き寄せると強く抱きしめボートの淵をつかみ揺れをやり過ごした。


「きゃあー!!」


 そう大きな声を出したと思うとぐらりと体を揺らしたマリアにイザークも手を伸ばすも届かずに音と飛沫を立てて湖に落ちていく。



「だから立つなって言ったのに!」


 ユリウスは舌打ちをすると『風よ我が声に応えよ』と呪文を唱えた。風の渦は湖で手をバタつかせていたマリアを宙に浮かべると両親の元へ運んでいく。

 お兄様が直ぐに助けてくれてよかったと安堵すると、手が震えていることに気づいた。すかさずお兄様が震える手を握りしめてくれて、その温かに涙がでそうになる。



「マリアーしっかりして!」

「マリア」 

 

 ぐったりとしていた様子のマリアだがユリウスの魔法によって直ぐに助け出されたため、あまり水は飲んでいないと思われた。

 両親の問いかけにマリアはすぐに目を開けると泣き出した。


「お母様ー!お父様ー!」


 泣いて大きな声をだしたマリアにアイリーネ達もホッとするとすぐにボートを船着き場に戻すとマリアと両親の元へ駆けつけた。



「ユリウス!どうしてちゃんとマリアを見てくれてなかったの!?」


「ボートの上で立つなんて危ない事をしたのはマリアだろ!」


「だからって!!」

「辞めなさい二人共!今はマリアを休めてあげないと」


 そう言った父はホテルの支配人に掛け合うと部屋を用意してもらい医者を手配してもらう。 

 マリアは意識もしっかりとしており食欲もあるようで医者の見立てでも異常はみられなかった。


 医者の診察が終わると念のためにとホテルにたまたま滞在していたという治癒の能力を持つ神官に声をかけてくれていた。


 しばらくして支配人に呼ばれて来てくれたのは、偶然にもシリルであった。シリルはいつもの神官服ではなくシャツと膝丈のブリーチズという貴族の子息のような服装で現れた。


「あれ?アイリーネ達?湖に落ちたのって……」

「私よ」


 ベッドに座っているが出されたクッキーを頬張る姿をみてシリルは目を丸くする。


「――ん?君か。大丈夫そうだけどね」


 マリアの元気そうな姿に治癒の必要性を感じないが母がどうしてもと頼んだためにシリルによって治癒が施される。




 その後、マリアを休ませてあげたいと両親が強く望んだので今日は公爵家の皆でホテルに泊まることになった。



 シリルと共に部屋を出たアイリーネ達はシリルが泊まる部屋に招待された。


「じゃあ、夕食は一緒に食べようよ」

「ああ、いいな」

「そうですね」


 最初にホテルに入った時にはマリアが心配で気づかなかったが、天井には豪華なシャンデリアがありカーブを描いている階段の手摺りは金で出来ているようだ。

 


「すごいホテルですね、お兄様」

「利用する人は貴族が多いからね」

「リベルト様が泊まりたいって言ったんだよ」

「そうなのですね」

「うん、二人共部屋にいるよ」



 部屋に案内されるとアイリーネ達の姿にリオンヌは驚いた様子である。



「アイリーネ様?シリルは治癒が必要だと呼ばれたのではないのですか?もしかしてアイリーネ様どこか具合が悪くなられたのですか?」


「いえ、実はマリアがボートから落ちてしまい、念のためにとシリル様に治癒を施してもらったのです」


「えっ、ボート……そうなのですね」

「おっ、アイリーネちゃんじゃあないか」


 奥の扉から出てきたリベルトが手を挙げて声をかけてくる。


「リベルト様、お久しぶりですね」

「ああ、そうだな。そうだ、またおじさんと色んな話ししてくれるか?」

「はい」


 突発的な出来事だったがリオンヌ様にとっては良かったのかもとユリウスはアイリーネと話す嬉しそうなリオンヌ達を眺めていた。



 







 

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