第70話 姉妹とは
そっと二人の跡をつけて庭に出て後悔した。
自分がいなくても楽しそうにイザークと談笑してるリーネが視界に飛び込んできただけだった。
キョロキョロとするリーネがリスみたいで可愛くて笑っただけなのに……
引き返しても、すぐに後悔した。マリアと遭遇し、ついてないなと天を仰いだ。
「お兄様――。あれお姉様とイザーク様はどこですか?」
「知らない」
「お兄様はいつもそう言いますね。どうしてお姉様と私では態度がこんなにも違うのですか」
成長するにしたがって、回帰前の姿に近づいているマリアの口からこんな言葉を聞くなんて嫌な気分だ。
「お前とリーネでは全然違うだろ」
「同じ姉妹です!」
姉妹ねぇ……本当にそう思っているなら、どうしてリーネに悪意なんてむけるんだ。リーネから奪うことばかり考えているじゃないか。
マリアは魂自体に闇の魔力が存在している、それは回帰前のマリアがしてきた数々の悪行を考えると自業自得だと思うし、だからといって悪意をリーネにむけないでほしい。
俺もリーネに執着していると自分でも思うが、マリア、お前の執着はなんなのだ?
自分が執着していることさえ気づいていないのか?
それに闇の魔力を持っていたとしても闇に染まらない人もいる。ジョエルがいい例だろう。あれだけ闇の魔力を使用しても闇に囚われていない。
マリアの真意が知りたい。
二人の近くの使用人達はユリウスとマリアの仲が良くないとわかっているだろう。使用人に聞こえないくらい小さな声でマリアの耳元で囁いた。
「なあ、マリア。お前が求めているものはなんだ」
「そっ、それは……」
「それは?」
「それはお姉様が持っている全てです!お姉様にはあるのにどうして私にはないのですか!?」
「………」
リーネの全てだと?呆れてしまう。
リーネが持っているものはリーネだから持っているんだ、マリアが代われるものでもない。
「お、お兄様?」
「お前には呆れてしまうよ、リーネとお前では何もかも違うだろう?リーネが持ってる全てはリーネだから持っているんだ。マリアはリーネにはなれない、そんな事もわからないのか」
「……だってだって、お姉様ばかりずるい」
肩を震わせているマリアは自身の味方である母を探してこの場をあとにした。
優しく接してやれば変われるのか?違うだろ。お前には優しい父も母もいるじゃないか。
回帰前でさえマリア・テイラーの家族の仲は良好だったとの調査結果だった。
きっと今のマリアに問うたところでわからないのだろう。
ユリウスがまだ15歳で大人ではないと言うのならば、マリアはまだ8歳でなのだから。
イザークと庭に出ていたリーネがようやく帰って来たので、待ち構えていたように伝える。
嫌味をこめた「楽しそうだね」はリーネには効果がなく自分にブーメランのように返ってきただけだった。
翌日、「湖でボートに乗りたい」急にそう言ったマリアの提案で皆で湖へと足を運ぶ。
セララ湖、この周辺には貴族の別荘や富裕層向けのホテルが並んでいる。
数年前に王家直轄地となったセララ湖とその周辺は新たな観光地として整備された。
小さな町には宿泊施設は宿屋が定番であるが、観光客が見込まれるこの地には新しいホテルが出来たばかりであった。
湖のまわりは幸いにも自然が溢れているが、少し離れたところではおしゃれなカフェもあり街との差異はない。
「夏休暇だからか人が多いな」
「そうですね」
「あっ、ボートがありますね。早く乗りたいです」
「少し混んでるからちょっと待ってねリーネ」
「はい」
ボート2人乗りと4人乗りがあり2人乗りは恋人や婚約者が好み、4人乗りは家族層に好まれているようだ。
木製のオールを漕ぎボートの上で笑い声をあげる人々を見るアイリーネの目は輝いていた。
イザークの袖を軽く引っ張り屈むのを待ち構える。
そして近づいた耳元に向けて、あれがデートですよと自慢気に話すアイリーネが愛らしくて、あたたかな眼差しで頷いた。
多分例の本が影響しているのだろうと予想はしても、こんなにも楽しそうに話す姿を見るとイザークは何も言う気にはならなかった。
「そういえば、リオンヌ様がリベルト様とシリルを連れてセララ湖のホテルに泊まりに来るって言ってたよ」
二人の雰囲気に割って話すようにユリウスは違う話題をあえて振った。
「えっ、そうなのですか?会えるかも知れませんね」
「はい、シリル様も会いたいとおっしゃってました」
「食事に誘ってもいいよな」
「シリル?ああ、教会の子ね。別に興味ないですわ」
水を指すように最後に会話したのは誰だと三人は辺りを見渡すと、イザークの後ろに隠れているマリアを発見した。
「マリア、何で一緒に並んでるんだよ?父上達はどうした」
「お父様達は座って待っているからお兄様達と乗りなさいと言われたんです!」
「………」
マリアが指をさす方角には父と母がベンチに腰を掛け手を振っているのが見える。
「イザーク、お前2人用のボートにマリアと乗れよ」
「えっ?……いえ、私はアイリーネ様の護衛ですので」
「「………」」
無言で互いを牽制しても埒が明かずに平行線である。
「あの、お兄様。4人用なら一緒に乗れますね」
アイリーネに遠慮がちに打開策を言われてしまうと仕方ないとユリウスは渋い顔で頷いた。
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