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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第69話 婚約者不在

 人混みに紛れ走り去るカトリナの後ろ姿を目で追いながら、回帰前のカトリナを思い返していた。



 回帰前のアルバートは前世で最後を迎えた場所であるテヘカーリに生まれ、妖精王から最も縁のない国で成長し、国内には絶対に存在しない愛し子を捜しいた。

 アレットは今回も愛し子として生まれるだろう、そう言った妖精王の言葉通りに大陸中を旅していた。

 大陸中の愛し子を捜してもアレットの姿はなく途方に暮れる。



 そんな中、父が急逝し教団の実態を知った。  

 今まで興味すらもてなかったこの教団は愛し子にとって脅威になる、そう直感した。


 怪しげな実験を中止した俺を主だと慕いつきまとっていたカトリナに対しても何の感情も持てなかった。

 だからこそ、やっと見つけたアイリーネが回帰を見越しているとはいえ、すでに断罪される運命だと聞かされた時カトリナに対して怒りを露わにしてこの手で葬った。



 回帰後、前回よりも早くカトリナを捜し出したのは罪悪感だったのかも知れない。

 怒りを抑えられず命を奪ってしまった罪悪感。


 あの小さな部屋でボロボロになってうずくまるカトリナを見つけた時、アイリーネに重なった。

 回帰前の地下牢の床で横たわるアイリーネと重なり、胸が締め付けられた。

 カトリナのためにしたことではない、しかしそうとは知らないカトリナは回帰前とは明らかに違う熱い視線を俺に向ける。


 優先するとしたらアイリーネだ、それは変わらない。


 だからどうか大人しくしていてくれ、カトリナ。

 二度もお前に剣をむけさせないでくれ。




♢  ♢  ♢



「すごいですね、お兄様」


 馬車から見える風景を眺めアイリーネは同意を求めた。

 この地は王都よりも温暖で雨も少なく、今日も晴天で雲一つない。

 ワインの産地だけあり馬車が通る道の両隣にはブドウ畑が広がっている。


 愛し子であるアイリーネは王都を出るのは初めてで見るもの全てが珍しく、窓の外を見ては歓喜するのでユリウスもイザークも疲れるのではないかと気をもむほどだ。



 今回はお兄様の夏休暇に伴って家族総出でヴァールブルク公爵領に向かうことになりました。

 今までは両親とマリアの三人で夏の休暇中に領地に行っていましたが、今回は私とお兄様、そして護衛のイザーク様も領地に向かいます。


 領地までは馬車で二日かかります。

 途中の街で宿屋にも泊まりましたが自宅とお城以外で眠ることがなかった私は初めて泊まる宿屋にちゃんと眠れるかしらと緊張しましたが、お兄様やイザーク様も同じ宿屋なので安心して休むことができました。


 夏休暇はどの学園や職場にもあるみたいで旅をする人が多く、同じ宿屋に泊まれなかった両親とマリアは別行動なのですが「お姉様だけいつもずるい」と怒られました。


 お兄様とマリアは相変わらず顔を合わすと口喧嘩ばかりなのでお父様はマリアがお兄様と一緒の馬車に乗ることも一緒の宿屋に泊まることもお許しにならなかったので私に怒られても困るのですが……




 普段王都から出ることのない私は領地までの馬車の旅はとても楽しくて途中の街で特産品のレモンを使ったレモンケーキは特においしくてオドレイにレシピを覚えてもらった程です。



 そしてブドウ畑を抜けてしばらくすると公爵領にあるヴァールブルク城と呼ばれる公爵邸に到着しました。

 領地にある公爵邸は王都にある公爵邸よりも多きくて重厚で長い年月が感じられる建物です。


 建物の中は狩りが好きなお祖父様の捕った鹿の剥製が置いてあったりと思わずまわりをキョロキョロとしてしまい、お兄様に笑われてしまいました。


「ごめんごめん、リーネ怒らないで」


 頬をふくらませるとプイっとお兄様から顔を反らす。


「知りません、そうやってずっと笑っていればいいんです。行きましょう、イザーク様。お庭を見に行きましょう」


 そう言ってイザーク様の手を引きお庭に連れ出した。

 

「綺麗ですね、イザーク様」

「はい、そうですね」


 お庭には色とりどりの花が咲いていて、庭師のおじさんの説明によるとお祖母様は花が好きで外国からも取り寄せているそうで珍しい花もあるそうだ。


 ちょうどお兄様が側にいないので気になる事をイザーク様に聞いてみよう。

 リオーネ姉妹とお友達となり気になることができたのだが、お兄様には聞きにくい。


「あの、イザーク様聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょうか」 

「イザーク様は婚約者がおられますか?」

「えっ?いませんが何故そのような事を聞くのですか」


 私の言葉に驚いたようすでイザーク様は目を丸めた。


「実はリオーネ姉妹のお茶会に呼ばれた時に他の令嬢達にはお慕いしている方か婚約者がいたのです」

「しかしリオーネ姉妹のお茶会はアイリーネ様より少し年齢が上の方が多かったので婚約者がおられたのではないですか」


「はいそうかも知れません、でも私にはいません。お兄様はもいないと思うのですがもしかしたらお慕いしている人はいるのかも知れませんね。年齢的に考えたら私の身近な人だと婚約者がいてもおかしくないのはイザーク様だと思ったのですが、イザーク様は婚約者を探さないのですか?」

「そうですね……私には結婚願望がないのです。そんな私と婚約しては相手の方がかわいそうでしょう?」

「うーん、イザーク様は婚活市場ではイチ押しらしいです。もったいないと言っていましたよ」


 穏やかな顔で笑うイザーク様の髪が風に揺れて、前にもこんな風に話したことがあると既視感を感じる。


「アイリーネ様、みんながそうするべきと言うことはないので、急がないでいいのではないですか?」

「……そうですね」

「風が出てきましたので建物の中に入りましょう」

「はい、リオーネ姉妹の愛読書をお借りしたので恋愛について学びたいと思います」 


「………その本のタイトルは……」


「エイデンブルグの落日です」


 やっぱりと言ったイザーク様はあの本は真実ではないので読んでも意味がないとむきになる。


「恋愛小説の全てが真実なわけではありませんよね」

「それは……そうですが……」


 イザーク様がこんな風に言葉につまる事はあまりないので、何かイザーク様もあの本に思い入れがあるのだろうかと首を傾げた。


 公爵邸の中に入ると腕を組んだお兄様が笑顔で

 「楽しそうだね」と声をかけてきたので

 「はい」と笑顔で返した。


 あとで何でも言葉通りに受け取ってはいけませんとイザーク様に助言をされたが、どのような意味なのか全くわからなかった。


 






読んでいただきありがとうごさいます

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