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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第67話 ユリウスの学園生活

「おはようございます。ユリウス様」


 扉をノックする音と共に執事のマーカスが入ってきた。


「今日のアイリーネ様の御予定ですが、ジャル=ノールド教会へ向かわれます」

「そう……リオンヌ様もいらっしゃる予定か?」

「シリル様からはリオンヌ様とリベルト様が待機しておられるとお聞きしております」



 シャツの袖にあるボタンを留める手がリベルトの名を聞いて停止する。

 リベルト様も一緒だと少し不安だ、あの方のリーネへの接し方はいつも度を過ぎている。

 初対面での態度は特に酷かった。リーネを膝に座らせようとしたりプレゼントを山程与えようとしたりと初めて会ったおじさんのする事ではない。

 後でイザークに注意するように伝えなくてはいけないな、と当たり前のようにイザークを頼りにしている自分に気付き笑みがこぼれる。



 自分の中でユージオが上手く融合したのだろうか、前世を思い出した時の怒りに似た感情は今のユリウスには残っていない。

 時々会いにくるアル兄様を見ても以前のように前世の記憶が鮮明に浮かんでくることも少なくなって来た。

 上手く馴染んた、そう言い表すのが一番しっくりとする。

 記憶を思い出してから3年、この春からは学園に通うようになり自分も忙しくなった。多忙なお陰で過去を振り返る暇もないのかも知れないなと苦笑いした。



「食事にしようか、マーカス。リーネもすでに起きているだろう」



 そう言うと制服の上着のボタンを留め部屋を出た。

 今日もリーネとは別行動かと少しため息をつきながら朝食へと向かった。



 リーネと共に食事をとると馬車に乗り学園に向かう。これが自分の日常だ。ちなみに学園に通うのは二度目なので通わないという選択をとりたかったが、貴族の令息が学園を卒業しないというのは貴族社会ではありえない。

 クリスに「ユリウスはそれでも良くてもいずれ公爵夫人になる人の社交にも影響するよね」と言われてしまうと通わいといけなくなった。



「いってらっしゃい、お兄様」

「うん、リーネも気をつけて出掛けるんだよ」

「はい」


 馬車にむかって手を振るリーネを窓から眺め別れを告げる。学園までの道のりが実際よりも長く感じる苦痛な時間だ。



 教室に入るとクリスといつもように挨拶を交わす。

 この学園は成績によってクラスが分けられているが、その成績には剣術や魔術、神聖力も含まれている。

 クリスも俺も二回目なので成績はいい、クリスは回帰前から優れていた剣術に更に磨きをかけている。



「そういえば、剣術大会って再来月だよな?」

「ああ、うん。収穫祭の時だからね。ユリウスも出るの?」

「いや、俺は剣の腕は普通だからな」

「何言ってるの?イザークと打ち合えるなら、すごいことだよ」

「イザークは今年も出場しないかな、リーネの護衛があるとかで出てないよな」

「今年は出て欲しいな、自分の剣の腕を試したい」



 剣術大会には年齢制限があり15歳になったクリストファーは今年から参加できる。そのためイザークと本気で打ち合ってみたいのだなとユリウス感じた。



「それよりもさ、昨日のお茶会に参加していた皆がユリウスがウォルシュ嬢を振ったと噂しているよ」


 クリストファーが、小声でそう話してくる。


「えっ振ったって……そんなんじゃないよ、急に話しかけてきたから注意しただけ」

「ああ、学園の中のユリウスは割と話しやすいでしょう?だから外でも大丈夫だと勘違いするんじゃないかな」

「うーん、外での対応は冷たいと噂が流れていると思うんだけどな」

「それでも自分は違うかもと期待してしまうんじゃないかな」


 ユリウスとしては学園の中と外ではきちんと線をひいている。特に昨日はアイリーネが側にいた。アイリーネとの時間を割いてまで他の者と会話するつもりはない。



「期待されても困る、リーネの事で手一杯だよ」

「そうだね、それでこそユリウスだ」

「なんだよ、それ」



 クリストファーとふざけたように笑い合うと、ふとウォルシュ嬢が席にいないことに気づく。

 もしかしたら、昨日の事を気にして休みなのだろうか、自分が悪いことをしたとは思わないが冷たい対応だったのは確かだ。


 学園の始業を告げる鐘がなるのと同時にウォルシュ嬢が席についたのが見え、休みではなかったのかと少し安堵した。


 安堵したのも束の間、ウォルシュ嬢はいつもと違うと違和感を覚える。他の者は気にしている様子はないが、まとわりつく嫌な感じはアイリーネの断罪の日のマリアを彷彿とさせた。

 ユリウスの腕輪が警鐘するように熱を持ってくる、神聖力を持つ腕輪の反応を見る限り闇の魔力が関わっているのたろうか。



 ウォルシュ嬢は魔力を元々持ってはいない筈だ。

 そう考えていた時、令嬢はこちらを振り返る。

 絡みつくような視線に嫌悪感を示すも昨日の態度とは打って変わり傷ついた様子もみせず堂々としている。



「ねぇ、ユリウス。彼女なんだか違和感があるよね」


 普段から神聖力と接する機会が多いクリスも気付いたかと少し嬉しくなり、多きく頷いた。



「ああ、闇の魔力の気配だと思う」

「闇の魔力?そういえば、父上が今朝急に学園はどうだとか変わったことがあれば言うようにとか言われたよ」

「ふーん、何か知ってるな陛下。帰りに王城に寄って確かめるよ」

「私も行くよ、一緒に行こうユリウス」

「ああ」 


 学園はある意味、リーネを守らなくて良い分気を引き締めることもなかったが、これからはそうもいかないとようだ。


 ユリウス・ヴァールブルクの学園生活はこうして平穏とは呼べなくなっていった。



 

 

いつも読んでいただきありがとうごさいます

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