第63話 お茶会
王妃様主催のお茶会の当日、ヴァールブルク公爵家の馬車に乗り王城へと向かう。
参加できないマリアが昨日からずっと泣いており、今日も馬車に一緒に乗り込もうと待ち構えていたが、執事により阻止された。
「あいつは本当にマナーのレッスンを受けているのか?」とユリウスが呟く程、マリアは令嬢としての基礎も習得していない。
お兄様とマリアの仲は相変わらずで、それでもお兄様に話しかけては冷たくあしらわれても負けないマリアはすごいと思う。
もしもお兄様にあの様な態度をとられたなら、私なら話しかける勇気はないかも知れない。
馬車の中には、お兄様とイザーク様。イザーク様は私の護衛として屋敷に在駐している。出掛ける際には必ず同行しているため、今日のお茶会も一緒に王城へむかっている。
どこの家の令嬢も護衛がいるのかと思っていたが、必ずしもそうとは限らないらしい。
高位貴族の令嬢は護衛がつく場合もあるが、イザーク様のように聖騎士が護衛につくのは私が妖精の愛し子だと言われる存在だからである。
愛し子は他国や闇の妖精の崇拝者から狙われるからだと聞いており、一人で行動しないように言われている。
イザーク様はいつものように聖騎士としての正装でお兄様は丈が長めの白い上着がよく似合っている。
お兄様は学園に入ってからも令嬢に人気があり、お茶会や誕生日パーティ、それから婚約の打診が多く寄せらていると侍女達が話していた。
お兄様はすべての誘いを断っている。
どうやらお兄様には心に決めている令嬢がいるのではないかと、侍女達は噂していた。
お兄様が想いを寄せる令嬢とは、どんな令嬢なのだろうか。
隣のリーネは薄い青系のワンピースがよく似合っている。スカートの全面のフリルが可愛いデザインでよく似合っているが、青系というのがイザークの瞳の色を連想させ少し腹が立つ。
ただ、ハーフアップの髪に付けられている銀細工の髪留めは回帰前の誕生日に贈った物と似ており、見つけた時すぐに購入しリーネに贈った。
リーネは覚えてないだろうが、前回も今回も喜んでくれてよかった。
親指同士をこすり合わせているリーネを見ると、回帰前、公爵邸に向かっていた王家の馬車の中で同じ仕草をしていたリオンヌ様を懐かしく思う。
「どうしたの?リーネ」
「……えっと、お友達ができるでしょうか?」
リーネの今見ている世界は狭い。
まだ正式に社交をしていない、行動範囲も教会に王宮、そして公爵邸と限られている。
しかし、これからはそうはいかないだろう。今日のお茶会でも友達ならまだしもあわよくばと思って近づく者もいるだろう。
イザーク、今日は護衛だけではないぞ、リーネに近づく虫を払うのがお前の役目だぞ。
イザークと俺はアイコンタクトをとると、同時に頷いた。
「……友達できるといいね」
「はい!」
王城に着くとすでに沢山の馬車が並んでいた。
案内され到着した会場には多きの令息や令嬢がすでに談笑を始めていた。令嬢達の中には舞踏会のように着飾った者もおり、お茶会への意気込みを感じる。
お兄様に手をひかれ席についたがすでに令嬢達は顔なじみ同士で話す者が多く、出遅れているようだ。
「アイリーネ、ユリウスー」
「シリル様?」
「シリル、お前も来てたのか」
「僕も一応、貴族だよ」
シリルはいつもの神官の服のではなく、オシャレなジレを着用しいつもとは雰囲気が違う。
「今日は貴族令息として参加するんだ。イザークも座りなよ」
「私は護衛ですので遠慮させていただきます」
「立って護衛されていると気になるよ!話しかけずらいいし、アイリーネは友達もできないよ」
チラリと皆を見渡すと全員が頷いたためイザークは渋々席についた。
運ばれて来るケーキスタンドには所狭しと色取りのケーキやお菓子、サンドイッチやスコーンといった軽食も乗せられていた。
シリルは目を輝かせるとすぐにケーキを食べている。こうしていると場所が王宮に変わっただけでいつもお茶会のようだなとアイリーネの緊張はほぐれていった。
歓声があがると主催の王妃とクリストファー、ローレンス、コーデリアといった王族が現れた。
主催が王妃様であるため王子や王女には年齢制限が適応されていないのだろう。ローレンスとコーデリアはまだ7歳である。
「ようこそお茶会へ。今日は楽しんでいってくださいね、ではご自由にお過ごし下さい」
王妃が短い挨拶を終えると王子や王女のまわりに大勢の人が詰め寄せている。
「大変そうだなクリス」
「他人事じゃないかもよ?ユリウスに話しかけたくてウズウズしている令嬢もいるんじゃない?」
「……はあ」
確かに周りの令嬢達の視線が痛い。お兄様だけではなくシリル様、イザーク様とこれだけ素敵な人が集まれば仕方がないのだろう。
「ユリウス様、お久しぶりでございますね」
声の主はブロンドの髪を大きくカールさせ、真っ赤なドレスをまとっていた。
大輪の真紅の薔薇を思い出させるような風貌は、他の令嬢を圧倒している。
「………何か用でしょうか」
「わたくしは、ただユリウス様とお話しがしたくて」
「名前呼びを許した覚えもない人と何を話すというのだろうか」
「!!」
令嬢は踵を返すと会場を去っていった。
泣いていないだろうか、お兄様が冷たい声で接するなんてマリアだけかと思っていたが違ったのかな。
「容赦ないなー、女の子には優しくしないとダメでしょ?」
「迷惑なだけだ」
「ふーん?今度は氷の貴公子とでも呼ぼうか?」
「だったら、お前がいけよシリル」
「僕はお子様だから遠慮しておくよ」
何がお子様だとユリウスは半目になった。
勇気を振り絞ったのに噂通りの冷たい反応だった。
皆の前で恥をかいただけだった。
この日の為に新しいドレスを注文し着飾ってきたというのに、悔しくて涙が溢れてくる。
一人の令嬢は人気のない所で泣いていた。片思いをしている人物から相手にされなかったのだ。
プライドが高い令嬢は友達と呼べる者もおらず一人で泣いていた。
「こんにちは、大丈夫ですか?」
「な、何よあなた!大きな人を呼ぶわよ!」
「待って下さい!怪しいものではありません。ただあなたのお手伝いがしたいのです」
「お手伝い?」
「これがあれば好きな相手を思い通りにできますよ」
そう言ったフードを被った人物が手に持つ黒い石がついた指輪が目に入った。
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