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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第61話 祖父として父親としての想い

「陛下、私からもお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

「お願い?」



 いったい教皇に何の願いがあるというのだろうが、と国王ジラールは少し肩に力が入る。

 対しての教皇は穏やか顔でとても個人的なお願いで恐縮ですがと前置きを付け加えた。



「実はシリルのことなのです」

「シリル?シリルがどうかしたのか?」


「私がこの世から去ったあとシリルのことをお願いしたいのです」


 

 部屋の中にいる皆が息をのんだのがお互いにわかる。

 教皇は何でもない事のように自分の死について淡々と語ってゆく。



「陛下、私は長くないでしょう。回帰の儀式の時に私は存在していなかったのではないですか?回帰の儀式の際、私が存在していたなら必ず陛下は私に声をかけていたはずです。後々のことを考えると私が参加して入るほうが都合がいいでしょうしね」


 教皇の言う通りだった、回帰の儀式の時にはすでに教皇はこの世に存在していなかった。


「………」


 ジラールの沈黙を肯定と受けとった教皇は皆が凍りついた表情をしているのを目の当たりにして、フッと笑った。


「そんな顔をしないでください、死は誰にでも訪れるのです。それに陛下もしかして私は前回より長生きしているのではないでしょうか」


「……何故だ」


「私のために妖精がやってきては治癒をかけてくれるのです。しかし病に侵されたこの体は徐々に悪化しているので、自分に残された時間がないことはわかっているのです」


「……シリルを頼みたいとは?」



 実はと目を閉じた教皇は昔を思い出しながら語りだした。




 教皇の息子で次期教皇のブラン・オルブライトは教皇の息子にしては平均的な神聖力の持ち主だった。

 本人も自覚があり穏やかな性格でもあったブランは特に卑下することもなく、受け入れていた。

 その後、聖女見習いであった令嬢に恋をして結婚したところまでは順調だった。


 妻となった令嬢はシリルがお腹に宿ったころから様子がおかしくなってしまう。自分のお腹にいる子供の神聖力に怯え、出産のあとには実家に帰り引きこもってしまう。

 愛する妻がいなくなりブランはシリルの存在が疎ましくなっていった。それでもシリルが高い神聖力を持ち無視できる存在ではないため虐待などは行われることはなかった。



「ただし、ブランの中ではシリルも他の聖人や神官も同じなのです」

「同じというのはどうゆうことだ?」

「例えば陛下は公の場では王子達に接する時、王としてですよね?プライベートでは父親として接するでしょう?」

「まあ……そうだな」


「ブランはプライベートでも変わりません。息子だと認識はあるのでしょうが、抱いたこともありません」

「――!!」


 誰一人として言葉が紡げずに静まりかえった。



 チッと舌打ちが聞こえたかと思うとリベルトが怒りを露わにした。


「あいつブランめ!根性を鍛え直してやろうか!」

「父上!」

「お前は知っていたのか?リオンヌ?」

「シリルが生まれてすぐに実家に帰られたのは知っていましたが、療養のためと聞いていたのでそのような理由があるとは思いませんでした」 

「そんな奴が次期教皇になるのか?」

「シリルの事以外は問題ないでしょう。シリルが成人すれば教皇の座も渡すつもりでしょう」

「それはそれでムカつくな!ちゃんと役目を果たせよ」


 再び舌打ちをするリベルトに皆は苦笑いをした。



 体格のよく、いつもは凛とした態度の教皇は頭を下げるといつもより小さく見える。

 


「お恥ずかしい話しですがどうかよろしくお願いします」


 教皇にそう願われると是しかないだろうとジラールは思う。



「……約束しよう教皇」

「あ、あの。私は家を購入予定ですアイリーネといつか暮らすために!そこにシリルも一緒に住むのはどうでしょうか」

「おお、リオンヌ。それだ!それがいいぞ!」

「いや。城に住んでもよいぞ。賑やかになるな、アベル」

「はい、そうですね」

「私は独身ですので私の家だと気兼ねなく過ごせますよ」



 わいわいと賑やかに話す姿にシリルにはこんなにも想ってくれている人がいると目頭が熱くなった。


 強すぎる力は嫌厭されがちだ。利用されたり、疎まれ時には恐れられることもあるかも知れない。

 しかし、シリルは一人ではない。だから、自分がいなくなっても大丈夫だと教皇は自分に言い聞かせた。



♢  ♢  ♢



 時折、部屋の中から咳き込む音が聞こえる。

 心配だがもう少しここで待機しなくてはならない。


 扉の向こうに動く気配がないことを確認すると扉をゆっくりと開けた。


 ベッドの中の人物は眠っているようだ。


 手をかざし呪文を唱える。

「汝の病魔を癒せ、妖精王の祝福を」


 光がベッドに眠る人物に被さると、ホッと息をついた。

 くるりと体の向きを変えベッドに背を向けるとゆっくりと扉に向かった。



「シリル、もういいんだよ」


 声をかけられたシリルは振り返る。


「お祖父様、起きてたの?」

「ああ」



 教皇は起き上がると手招きをし、シリルを呼び寄せた。

 シリルは大人しく教皇の側に行きベッドに腰掛ける。


「シリル、私の病は治らない。人は皆いずれ死を迎えるのだよ、わかっているだろう」

「ダメだよ。お祖父様にはもっと長生きしてもらわなくちゃ、お祖父様はまだまだ必要なんだから!」

「シリル……」

「それにお祖父様がいなくなったら――僕の家族はいなくなる!」

「シリル、お前は一人じゃないだろ?仲間が沢山いるじゃないか」

「でも家族は僕のお祖父様だけだ」

「シリル……」



 シリルは教皇に抱きつくと嫌だと駄々をこねて首を振っている。


「シリルお前は賢い子だ、だからちゃんとわかっているだろう?」

「賢くなくていい、わかりたくないよ」


 シリルは大粒の涙を止めどなく流し始めた。


「シリル、すまないね。でもシリルなら大丈夫。シリルは私のためにイルバンディ様が贈ってきてくださった妖精なのだから」

「……」


 教皇は泣き続けるシリルの肩を抱くとシリルの涙が止まるまで優しく声をかけ続けた。




 教皇はこのあと三ヶ月後に息を引き取った。

 シリルを始め教会の神官たちに見守られこの世を去った。

 その顔はとても穏やかでまるで眠っているようだった。


いつも、読んでくださりありがとうごさいます

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