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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第60話 伝承との相違

 王家の森のすぐ側に建つジャル・ノールド教会では家紋の入っていない馬車が止まっていた。

 月明かりの中お忍びを匂わせながら迎え入れられた。



「ようこそ、こうして見ると不思議な顔ぶれですね」

 教皇は迎い入れた客を見渡している。



「お久しぶりです、伯父様」

「そうだなリオンヌ、あれから8年もたったのか……それからリベルト……」

「……久しぶりです、義兄上」

「リベルトにそう呼ばれる日が来るとはな。元気そうで何よりだ」

「……はい」



 ソファに三人づつ座る人物はそうそうたる顔ぶれだ。

 一つのソファにはアルアリア国王にアベル、王宮魔術師のジョエル。

 もう一方のソファには教皇にリオンヌとリベルトという顔ぶれである。


 応接室に紅茶を運んで来た神官は部屋に入るなり目の前の光景にたじろぐもテーブルに紅茶を準備するとすぐに退室していった。

 高貴な方に粗相なく役目を終えてホッとすると自分の部屋に下がった。



「今回は大聖堂の地下についてでしたかな?」

「ああ、無理な願いなのはわかっているが、中に入ることは可能なのか?」


 王の質問に眉を寄せた教皇は慎重に考える。

 王は先代王より大聖堂の地下に封印されている者の正体を知っているのだろう、会ってどうするつもりなのだろうか。

 封印と言うには少し意味合いが違うのを知っているのだろうか、そんな疑問が生まれてきた。



「……何の目的で入るのですか?興味本位ならおやめ下さい」



 興味がないわけではないが封印されている者と話しをして見たい、それが純粋な王の気持ちだった。

 危険がないわけではないだろう、しかし200年前と同様にアルアリアをどうしたいのか聞いてみたいそんな気持ちだった。



「興味本位ではない。相手の目的や気持ちを聞きたいのだ」 

「……中に入っても話しは無理だと思います。実際にあの場に封印されているわけではないのですから。それに封印というのも言葉の綾で本当は違うのです」


「違う?」

「ええ。カルバンティエと言う妖精がいるのは間違いないのですが、実際にそこにいるわけではないのです」



「と、いいますと。もしかして異空間に繋がっているとかそうゆう事でしょうか?」

 目を輝かせたジュエルが前のめりになりながら質問した。


「ええ。魔法によって繋げています。それから封印というよりも自ら望んでそこに居ると言った方が正しいでしょう」

「自ら?テヘカーリでも封印されていると伝えられていたが」

「伝承の全てが正しく伝わっているとは限りません。伝える者の都合がいいように改ざんされている場合もあるでしょう」

「………」


 教皇にそう諭されたリベルトは押し黙ってしまう。


「では会うと言うのは無理だろうか?」

「直接的には難しいでしょう。ただ……王宮魔術師様、あなたの闇の魔力なら夢の中を異空間に繋げることが出来るのではないでしょうか」



 皆の視線がジョエルに集まる中、ジョエルは人生で最もといって良い程の笑顔で答えた。



「はい、可能です」



 ジョエルの答えにこれで進めると王はホッと一息つくと、ティーカップ持ち上げ優雅に紅茶を味わった。

 思ったよりも緊張していたのか喉の乾きを潤すようにアベルも後に続き紅茶を味わった。



「あの伯父様、アイリーネの悪夢をどうにかする方法はないのでしょうか?」

「おや、それは解決したとシリルに聞いていますが違うのですか」


「えっ、解決?」


 驚いている一同に教皇は戸惑いを見せる。

 ジョエル一人は含みのある笑いを見せ、王に進言した。


「もしかしたら、神聖力の高い方が治療して解決できたのかも知れませんね。シリル様のように。シリル様、是非とも私の実験を手伝っていただきたい。神聖力を調べるチャンスですよ」


 興奮気味に話すジョエルに教皇は呆れたような顔をするがはっきりとした口調で答えた。


「お断りします。あの子は大事な孫ですので」

「そうですか……残念です」


 そういうジョエルは誰が見てもがっかりしていた。



「義兄上、200年前についての文献はどう思う?どこまで正しいと思うか?」


 リベルトの質問に顎に手を置き教皇は考える。


「そうですね……文献も諸説あるでしょうし全てではないでしょうが、200年前にカルバンティエを取り返そうとした教団がアルアリアを攻めた、この一点は真実でしょう」

「……だが自ら入ってるなら取り返すと言うのはおかしいな」

「先程、あなたが言ったようにテヘカーリにも封印されていると伝わっているなら、取り戻そうとしてもおかしくはありません」

「なるほどな……」


 納得したように頷いていたリベルトは急に背を正すと教皇に頭を下げた。



「お願いがあります」

「なんでしょう。あなたからのお願いなんてなんだか怖いですね」

「………シャルロットの墓に参らせて下さい」



「……なんだ、そんな事ですか。私に頼む必要なんてないでしょう?あなたはシャルロットの夫なのですから」

 そう言った教皇は優しい笑顔をリベルトに向けた。



「あなたからしたら俺に良い感情はないでしょう?俺はシャルロットの最後にも立ち会えなかった、あいつを幸せにするとこの教会で誓いを立てたのに誓いを破った」

「……人には決められた運命というものがあるのですよ、誰のせいでもありません。あの子もわかっていたでしょう。あの子は最後まで笑顔を絶やしませんでしたから」

「………」

「それに謝るとしたらシャルロットにでしょう?今度リオンヌと一緒にあの子の好きな花でも持ってあの子に直接言ってください」

「……はい」



 そうだなリオンヌと二人でシャルロットの墓参りに行こう。愛し子だったシャルロットには彼女の好きだったアルアリア・ローズがやっぱり一番似合うだろう、目を閉じてシャルロットの笑顔を思い出すとリベルトも思わず微笑んでいる。

 また、隣でやり取りを見ていたリオンヌもつられて微笑んだ。


 





 




 



 


読んでいただきありがとうございました


寒いですね、風邪などひかぬように気をつけてください

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