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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第59話 小さき花に込めた可能性と奇跡

 部屋の中に広がる静寂を破ったのはアルバートであった。


「最後に闇の魔力から解き放たれたのか正確にはわからないが、囚われそうになった時に思い浮かべたことがある」


 アルバートはとても優しい眼差しでアイリーネを見つめた。

 その眼差しは誰が見てもわかるだろう。

 あれは“特別な感情”だ。


「……アレットのことだ」


 愛し子であるアレットが守ってくれたのかも知れないなとアルバートは笑った。

 やはりそうかとユリウスは過去のある日の記憶を思い浮かべた。



 今でも目に焼き付いている光景がある。

 その日、ユージオは家族で教会へと出向いた。ユージオには知らされていなかったが、アレットが選定の儀式に参加するためであった。

 エイデンブルグでは10歳前後で神聖力に目覚める者が多く、教会では神聖力の有無を確かめるため貴族も平民も関係なく選定の儀式が行われていた。

 選定の儀式は簡単で対象者が祈りを妖精王に捧げると神聖力を持つ者ならば光に包まれる。

 その日はアレットが妖精王に祈りを捧げると光に包まれた。

 目の前に広がった神々しい光景にとても感動したのを覚えている。



「この光は!!愛し子です!100年ぶりの愛し子の誕生です!」そう言った神官長は大層興奮した様子であった。



「さすが姉様だ!すごい!」


 自慢の姉の姿を見てまるで自分のことのように興奮したユージオはこの時の両親の気持ちには気付けなかった。



 知らなかったんだ……愛し子になると一緒には暮らせないって。会うのもむずかしいだなんて夢にも思わなかった。もし知っていたならあんなに喜んだりしなかったのに。


 だから、嬉してすごいだろって自慢しながらアル兄様にすぐに伝えた。

 話しを聞いたアル兄様はどんどん顔色が悪くなり最後にはこの世の終わりのような顔をしていた。

 どうして?凄いことなんでしょ?

 アル兄様が答えてくれることはなかった。



 今ならわかるアルフレートはアレットを愛していた、幼馴染としてではなく異性として。

 ユージオは子供だと言われても仕方がない、アルフレートの思いに気付けないのだから。

 

 今も同じ様な目をしているね、アル兄様。

 熱を帯びた視線はリーネに向けているの?それとも姉様の残像に向けているの?


  だとしても、ごめんね


「いくらアル兄様でも譲らないから」


 聞こえないくらいの声でそう呟くと、何か言ったかと不思議そうな顔をされたので



「何でもないよ」


        と、笑顔で答えた。



♢  ♢  ♢



 薔薇宮に咲く薔薇は今日も美しく咲いており、早朝にもかかわらず王妃は散策していた。

 辺りに漂う薔薇の香りをまとい歩く姿は薔薇に劣らず美しく、護衛の騎士も顔を赤らめていた。


 そんな王妃の元にある出来事が伝えられると王妃は氷のような冷たい声でコーデリアを連れてくるように命じた。



「コーデリア、あなたは一体何をしているのですか」


 コーデリアはもじもじとしながら俯いた。


「コーデリア、あなたの言動によって多くの者が迷惑を被るのですよ」

「……迷惑はかけてません」


 王妃はため息をつきコーデリアを諭す。


「コーデリア、いいですか。あなたが動くと側にいる者も一緒に動かない訳にはいかないのですよ。どうして毎日城中を歩き回るのですか」

「………」



「コーデリア」


 下を向き答えようとしないコーデリアの名前を厳しい声色で呼ぶと小さな肩をビクリと動かした。


「………城の中に咲いているアルアリア・ローズに挨拶をしていました」

「アルアリア・ローズに挨拶?何故です、何故そのようなことをしているのですか」


 下を向いていたコーデリアは顔を上げるとその瞳には涙をいっぱい溜め今にもこぼれ落ちそうになっていた。


「城に植えられているアルアリア・ローズに毎日少しづつ神聖力を分けてもらっていました。それをアイリーネにあげたら悪夢もなくなるから!だから、毎日アルアリア・ローズに会いに行くんです」

「コーデリア……」

「これは私じゃないとダメなのです。ポポの役目なのです」



 話している内に涙が溢れてしまったコーデリアを王妃は抱き上げると優しく背を撫でた。



「……あとどれぐらい必要なの?コーデリア」


「もう少しです。今日で集まりそうです」

「そう、頑張ったのね」


 そう言って微笑む王妃にコーデリアは口角を上げてニッと笑った。





 その日の夜、空の高い位置に月が滞在し子供はすでに眠る時間でアイリーネもすやすやと眠ってる。


 部屋の扉が音を立てないように慎重に開けられると部屋の中にシリルを連れたコーデリアが入って来た。



「本当にそんな事で悪夢を見なくなるの?」

「うん。アルアリア・ローズとアイリーネは相性がいいから大丈夫だよ。アルアリア・ローズもアイリーネのためなら神聖力をくれたの」

「なんで僕も呼んだの?」



 コーデリアは身長差のあるシリルを見上げるといつものように口角を上げてニッと笑った。



「君に一緒に見届けてほしかった。一本一本は微弱な神聖力しかもたないアルアリア・ローズが起こす奇跡を君と一緒に見届けたいと思ったから」

「……そっか、うん一緒に見届けよう」



 ――共有できる関係、僕とコーデリアじゃないとわからない感覚、一人じゃないと思える。君が近くに来てくれて嬉しよコリン……



「じゃあ、始めるよ?」

「うん」



 コーデリアはアイリーネに向けて手をかざした。

 手から小さな淡い光が生まれてきた、その光はゆっくりと大きくなる、強く輝く光は部屋中に広がると眩しくて目が開けられない。留めとばかりに一瞬大きくなった光は窓からも漏れ出す勢いで二人も身動きもとれないでいた。


 再び静寂がもどるまでどれぐらいの時間が流れただろう、実際の時間の流れよりも永く感じていた。しばらくの間二人はただ呆然と立ち尽くしていた。

 自分の手を見つめたコーデリアはその手から失くなった神聖力がアイリーネの体に宿った事を確認する。



「成功だね?」

「うん、よく思いついたね。こんな方法」

「フフッ、すごいでしょ?」

「本当にすごいよ」



 褒められたコーデリアは満足気だがふと出て来た欠伸に夜中であったなと認識した。



「そろそろ戻ろう」

「うん」


 シリルに返事を返したコーデリアはベッドに眠るアイリーネにまたねと心の中で呟くと入る時と同じく音を立てずに扉を閉めた。



 この日を堺にアイリーネが悪夢を見ることはなくなった。


 コーデリアがアイリーネのためにアルアリア・ローズから神聖力を集めて悪夢を見ないように治療したという事実はアイリーネには知らされていない。


 この出来事はコーデリアとシリル、そして王妃のみが知る秘密の出来事とした。

 アルアリア・ローズを悪用したりコーデリアを利用しようとする者が現れないように王妃が決断したからである。






 


読んで下さりありがとうございました

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