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第5話 妖精との逢瀬

1話分が、2話分になりました。

 重苦しい空気があふれる中、扉をノックする音がした。   

「入れ」


 王が短く許可を出すと、アベルが入室し、王の耳元で囁やきはじめた。よりいっそう険しい顔をし退室していく。


「すぐに戻る。楽にしていてくれ」


 足早に去りゆく王を見ながらユリウスが呟く。


「何かあったのか?」

「わからないけど、大事な話の途中退室だから重要な事だと思うんだけど……」


 クリストファーは自分の過去の行いが更なるトラブルを招く事を危惧し、不安気な顔をしながらユリウスの問いに答えた。ユリウスはかつての友への友情とリーネを処刑された怒りとに挟まれクリストファーに気遣いを見せる事はなく、話をそらす事にした。


「そう言えばさ、エイデンブルグの皇子の名前って、お前と同じイザークじゃなかったか?」


 イザークの肩がビクリと揺れ、俯き気味に机の上にある拳に力を入れた。


「―はい、そうです」


―同じ、名前だけでなく。同じイザーク。


 イザークにはシリル以外には知り得ない秘密があった。かつて、イザーク・エイデンブルグと呼ばれていた頃の記憶が今も鮮明に残っている。


 



 エイデンブルグは大きな帝国であった。妖精王の祝福もあり栄華は永遠かのように思われた。妖精王の怒りを買うまでは……


 今生のイザークは幼い時、悪夢を繰り返し見ては父に縋り付いていた。大人になり神聖力を使いこなしてからは数は減ったものの、愛する人の死、身近な人の裏切り、天変地異に逃げ惑う人々、荒れ狂う魔物、何を示すのかわからずに年月は過ぎていった。5年前、森で迷子になったアイリーネに遭遇し、息をするように理解する。



 エイデンブルグの皇子であるイザークは魔力が多く、剣技に優れ自ら軍を率いては魔物退治で成果を挙げていた。魔物は聖女や愛し子の有無に関わらず、すべての国において一定数現れ、討伐されていた。また内政や外交も問題なく、婚約者との仲も良好である。


 12歳の時愛し子が現れたとの知らせにより、城下にある大聖堂に赴く。愛し子は皇族に嫁ぐ事が多いので自分の婚約者になるのであろうと、イザークは緊張していた。相手が好ましくない場合でもよほどの事がない限りは拒否はありえない。


 目立たないように大聖堂の裏口に回り込む。聖地であるアルアリアから株分けかれた白く小さな花弁のアルアリア・ローズが所狭しと咲き誇り、思わず足を止める。ふと白い服を身に纏う女の子が目に入り、息を呑んだ。青みがかったシルバーの髪に紫紺の瞳、スラリとした手足、肌の色は白く儚げで妖精が目の前に現れたかのようだ。


 


「妖精?」


 思わずでた言葉に彼女は目を丸くし、そして花が綻ぶように笑った。イザークは後に続く言葉がでないほど胸の鼓動を感じ、ただその場に立ち尽くしてしまった。


「もしかして、皇太子殿下ですか?」


 馬鹿な事を呟いてしまったと、ハッと我にかえる。恥ずかしくもあるが、極めて冷静を装う。


「あ、ああ。君は?」


「ご挨拶が遅れました。この度、皇都の教会に所属する事になりました。アレット・エールドハルトと申します」


―妖精のような彼女が、愛し子。妖精王に感謝を。


 自分は理性的な人間であると常日頃から思っていたイザークは初恋によってその概念を変えることとなった。



 いくつもの季節が巡り、年月を超え二人の仲は深まっていった。アレットが皇都に来て初めての収穫祭では、お忍びで露店を周った。店先に置いてあったアルアリア・ローズをモチーフにしたペンダントをアレットにプレゼントする。


「ペンダントならきちんとした宝石店で購入したのに」

「これがいいんです。大好きなアルアリア・ローズのペンダントを大好きなイザーク様にもらったんですよ?」 


 当たり前のように言い切るアレットにイザークの頬は赤く染まっていき、彼女はいつもの様に笑っていた。


 デビュタントのダンスのレッスンではお互いの距離か近く彼女の体温や香りに触れ、意識したイザークはスマートにエスコートできず、悔しい思いをする。本番では周囲が羨むほど優雅に踊りきった。白いデビュタントのドレスにイザークの瞳の色を意識した青い宝石の髪留めを付けたアレットは会場の誰よりも美しく令息達を牽制するのに苦労した。



 時には聖女としての能力を見せてみろ、子爵令嬢では皇家と釣り合いがとれないと言い寄られる事もあった。人目を避けたアレットは、皇太子宮の花壇に咲くアルアリア・ローズの側で泣く事もあったが、いつもイザークが現れ慰めてくれた。イザークは皇太子としての才を見せ、アレットは教会に赴き、祈りを捧げ奉仕活動を行った。お互いを高め二人の絆が深まるに伴い批判も減っていく。

 

 

 アレットは皇族との仲も良好であった。特にイザークの年の離れた弟はアレットになつき、ティータイムを過ごしたり、ピクニックに出掛けたり、実の姉弟の様にアレットを慕っていた。

 



 穏やかだった日々も皇帝が病を患いゆっくりと陰りをみせる。イザークは皇帝の病により、皇太子の責務が増えた。アレットは教会での奉仕活動に加え、皇太子妃としての教育が始まり、一緒に過ごす時間は減っていく。二人の仲は変わらずとも、二人を取り巻く環境は変わっていった。


 


 



ご覧下さりありがとうございました。

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