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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第57話 前世からの絆①

 薄暗い部屋の中のベッドに眠るアイリーネは穏やかに眠っている。その穏やかな眠りに悪夢を見ている様子もみられずホッとした。

 今のアイリーネはアレットの面影など全くない、二人は別人なのだから似ていなくて当然なのだが……




 魔力の暴発……ユージオの記憶を辿ってもそのような記憶は存在しない。あの時妖精王は善良な者にゲートを開けると言っていた。一定数の国民が助かったが全ての善良な者が助かったわけではないと言うことか。

 イザークの弟といえばキリアン・エイデンブルグ。

 姉様からキリアンの話しを聞いたことがある。弟が増えたと嬉しそうに言っていた、会ったことはなかったが弟は僕だけだと思っていたのでその時は好感は持っていなかった。


 皇后も始めは姉様に優しくて好意的だった。姉様はいつから皇后の話しをしなくなっていた?エイデンブルグはいつからおかしくなっていた?イザーク側から考えれば何かわかるのだろうか。


 回帰前のアルアリアはマリアが身に着けていた一つのアーティストで大勢の者が操られていた。回帰できない状態だったならば、エイデンブルグと同じく滅亡という道をたどっただろう。



 不意にカタンという物音と人の気配を感じた。


「誰だ!」


「――静かに。俺がお前達に危害を加えるなんてこと、あるわけないだろ」



 人の気配に警戒したユリウスは魔力を指に込めて魔法をいつでも放てるように準備していたが、両手を上に挙げた赤い髪と瞳の男性は落ち着いた声で言い放ったのを聞くと警戒を緩めた。



「あなたは――」

「久しぶりだな、俺が誰だかわかるのか?」


「――アル兄様」

「ああ」


 

 そう言うと赤髪の男は嬉しそうに目を細めた。


「と、いっても昔とは姿も名前も違うがな」


「今は?今の名前は何というの?アル兄様は今どこで何してるんだよ、どこまで――」

「順を追って話すから少し落ち着けユージオ。じゃなくてユリウスだったか」

「わかったよ」



 アイリーネが起きないようにと少し離れたソファにふたりは座り直した。


「では改めて。俺は今はアルバート・カロンと名乗っている。少し前までテヘカーリにいた」

「テヘカーリ!アル兄様はテヘカーリの人なのか?」

「ああ、テヘカーリに生まれた。この髪と目をみれば納得できるだろう?」


 燃えるように赤い髪と瞳、テヘカーリは赤髪が多く生まれるといわれている。引き締まった体に赤いサラサラとした髪がよく似合っている。年齢はユリウスよりも少し上に見える。


「それでアル兄様はどこまで覚えてるの?」

「ああ、多分全て」

「全て?でも……」


 回帰前にアイリーネの牢屋に現れたのは確かにアルフレートだったが、回帰したのでそのことはなかったことになり説明しても信じられないだろう。

 ユリウスは考え込みどう言うべきか悩んでいた、それを見ていたアルフレートは口元を緩めると予想していないことを言い出す。



「回帰したことも全て覚えている」

「えっ?回帰したことも覚えてるの?」

「ああ、そうだ」

「なんで?ありえない」


 回帰の儀式に参加した者だけが記憶が残ると書かれていた文献には書いてあり、今まで例外はいなかった。

 神聖力の強い教皇も闇属性の魔力が高いジョエルも回帰の儀式自体に参加していない人物には回帰の記憶は残っていなかった。

 

 それなのに例外がいたとはと緊張し口の中がカラカラになってきた。


 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だユリウス。きっと俺だけだろう」

「アル兄様だけ?どうゆう事?」


 

 少し長くなるぞとアルバートは語りだした。



 アルバートはテヘカーリの貴族の家に生まれた。アルバートの生まれたカロン家は王家の血を引いており裕福な家であった、表向きは……

 その裏では闇の妖精を崇拝していた、そして今回のクーデターで追われる立場となった家でもある。


 アルバートは幼い頃から王家のスペアだと教育をされていた。また闇の妖精を崇拝する教団カルバンティエの教団主になるために闇の妖精にまつわる話しを聞かされていた。

 本来ならそのように育てられたなら立派な教団主になってもおかしくはなかったが、アルバートには前世の記憶があった。そのため闇の妖精を崇拝することにはならなかった。


 

「それで?今はその教団はどうなったの?」

「ああ、クーデターで数を減らしたがまだ存在はしている」



「……アル兄様はその教団をどうするつもりなの?」

「……回帰前にあのマリアって女にアーティストを渡したのは教団のメンバーなんだ。だから過激な奴らは目が離せないから見張っている。解散させて状況が把握できなくなるよりマシだからな」



 マリアにアーティストを渡したのは教団の人間だったか、それならマリアは何故選ばれたのだろう、闇の魔力と相性がいいのだろうか。


「アル兄様、マリアは闇の魔力と相性がいいのですか?」

「そうだな、彼女もまたエイデンブルグのあの日にいた人物だ」



 マリアも転生したというのかとユリウスは驚きを隠せない。



「イザーク・ルーベンに詳しく聞けばわかるだろうな」


 ふとアルバートが呟いた言葉に先程のイザークが思い出される。


 あんなに澄み切った微笑みのイザークを見たのはユリウスは今までで初めてだった。

 



 





読んでいただきありがとうごさいます


これで今年最後の投稿です。よいお年を。

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