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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第55話 アイリーネと悪夢

 そういえば今日は満月だったのだなとカーテンの隙間から空を見上げて初めてわかった。

 部屋の中は薄暗くランプの光を落としてある、月明かりが眠りの妨げにならないように素早くカーテンを閉じた。

 ベッドの上の少女は安らかな寝息を立てて眠りについており、思わず口元か緩んだ。

 



「ねぇ、ユリウスは今頃思い出してるかな?」

「………」

「イザーク?もしかしてユリウスが思い出すのは嫌なの?」

「……そうではありませんが、過去を知るといい気はしないでしょうね」

「うーん、でも昔ほどじゃないでしょ」



 シリルがおどけたように笑っているがイザークは同じように笑える気分ではなかった。

 エイデンブルグ最後の日は今でも思い出したくない出来事だ。

 今この瞬間も胸が締めつけられる思いだというのにユリウスもいい気はしないだろう。あの日の彼らの眼差しは長い時が過ぎても忘れることはないだろう。



「う、ううっ……」


 先程まで安眠していたはずのアイリーネがうなされている。眉を潜め苦しんでいる姿をみているのが辛くて、今すぐにでも覚醒させるべきか悩むが、シリルに止められる。


 シリルは二人掛けのソファをベッドの横に移動させるように指示すると、移動されたソファに座りアイリーネの手を握った。



「アイリーネの夢を覗いて見るよ」

「そんなことが出来るのですか!」

「まあ、僕は大体のことは出来るからね」



 自慢気に言ったシリルはアイリーネの手を握っているのとは反対の手をイザークに差し出し「こうして僕と手を繋ぐとイザークも見れるよ」とイザークの手を握った。

 



 一体どれだけ走ればいいのだろう。走っても走っても気がつくと目の前には処刑台がある。どこに逃げようが結局は同じことで処刑台に上げられ最後には処刑されてしまうのだ。


 今日も同じなのだろうとアイリーネは立ち止まった。

 走っても無駄なのだと。


 処刑台の上から見渡す景色に既視感を感じていた、ユリウスを始めイザークやシリルがいる。椅子に座るクリストファーは見たことがないほど冷酷な顔をしていた。

 その隣にはマリア?今とは髪色の違うマリアが座っていた。マリアはいつも笑っていた、まるでアイリーネが断罪されるのを望んでいるかのような笑顔だった。


 

 アイリーネも皆も今よりも大人の姿にこれは未来におこることではないかと不安になる。

 誰かに伝えたことはないが、夢から覚めてもしっかりと内容を覚えており予知ではないかと日中も怯えている。


 そして今日も同じ結果だと諦めていると、一つの扉が現れた。変哲もないどこにでもある普通の扉だ。

 いつもと違う展開にもしかしたら違う場所に行けるのではないか?そんな淡い期待を抱いてゆく。




 アイリーネは意を決して扉を開けた。




「夜?」


 空に浮かぶのは満月で月明かりが輝き今は夜だとすぐにわかった。

 剪定された庭木に人が手を加えているのだと、アイリーネは人の姿を探して歩いていく。



 しばらく歩くとガゼボに座る人影が見えた。こんな所にいる人物は不審者ではないかと様子をうかがってみる。



「誰かな?こっちにおいで」


 突然かけられた声に驚いたが、穏やかな口調にホッとするとアイリーネはゆっくりと前に出た。

 

 勝手に入って来たと怒られないかな?とまずは謝罪をした。


「勝手に庭に入っていまい、申しわけありません」

 アイリーネは謝罪の言葉と共に頭を下げて謝罪した。



 フフッと言う笑い声が聞こえ顔をあげると柔らかな笑みを浮かべた人が目の前に座っていた。



「かまわないよ、オチビちゃん」 

「……私はオチビちゃんじゃありません。もう7歳です」


「まだ7歳だよ。長い人生はこれからなんだから。いや、人の子の寿命は短いのかな?」


「あなたは人ではないのですか?」



 目の前の人は否定も肯定もせずに微笑んでいる。


 黒いストレートの髪にゆったりとした着衣のおそらく男性だろう。目の前の人物はどことなく絵画に描かれているイルバンディ様よく似ている。

 


「ここはどこなのでしょう?」


「うーん、難しい質問だね。どこかと聞かれたらアルアリアのとある場所だよ」

「アルアリアなのですか!?」


「間違いなくアルアリアだよ」


「ではここで何を?」


「ああ、僕がここにいるとみんなが安心するみたいだから、ここにいるんだよ」

「は、はあ」



 独特の雰囲気を持つ目の前人物が放つ言葉の意味がアイリーネには理解出来ないでいた。


 ここはアルアリアだと言っていたがでは先程の処刑台もアルアリアにあるモノだと言うのだろうか?そう考えると背筋が寒くなった。



「それからね、この子を守ってあげてるんだ」


 この子とはと視線を追うといつの間にか近くにチェアがあり女性が座っていた。銀髪の長い髪の女性は目を閉じたまま動くようすもない。



「……眠っているのですか?」

「うーん、君達で言う所の亡くなっているというのかな?」

「亡くなっている!!」


 大きな声を出してしまい咄嗟に口元を押さえたが銀髪の女性に起きる気配はない。

 今にも目を開けてもおかしく無いくらいで亡くなっているように見えなくて戸惑ってしまう。



「この子はね、可哀想な子なんだよ」

「可哀想なのですか?」


「そう、本来なら歩まなくていい人生を歩んでね、亡くなってなお聖遺物になってしまった。利用されないようにここに連れて来て、僕が守っているんだよ」


「聖遺物……ですか」

「そう。だから姿はいつまで立っても変わらないんだ、土に還えることも出来ないんだ。だけど魂は……あっそうか君は……そう言うことか」


 一人で納得している人物よりもアイリーネは銀髪の女性が気になって仕方がない。

 近づいて見ても眠っているようにしか見えず、知らず知らずの内にアイリーネは手を伸ばし触れようとしていた。


 


 アイリーネ、ダメだ戻ってきて

           目を覚ますんだ。



「えっ?」



 聞き覚えがある声がそう告げるとアイリーネの意識は急激に覚醒しゆっくりと瞼を開けた。

読んでいただきありがとうごさいます。


今年もあと数日ですね

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