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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第53話 誰よりも近くに

 見慣れた王城が見えてきた。馬車が王宮内に到着するとホッとした。何十年も過ごしてきた自分の家よりも落ち着くというのはと冷淡な笑みを浮かべた。



 今日はいつもと同じく公爵邸に行きロジエ先生の授業を受けた。

 いつもなら馬車に乗り王宮に戻るのだが母はロジエ先生を夕食に誘った、公爵夫人である母の誘いを先生は断ることはできなかっただろう。仕方なく一緒に付き合うことにしたが席に着きすぐに後悔した。


 いつもリーネが座る席にマリアが座っていた。その席は自分の物だといわんばかりのマリアに苛立ちを覚える。



「そこはお前の席ではないだろう?」

「お姉様はいないのだからいいではないですか?」

「よくない!」


 声を荒げたユリウスになだめるように母が声をかけてくるが、それすらも煩わしく思える。


「ユリウス君、温かい内にいただきましょう」


「……はい」


 ロジエ先生にそう言われると自分がいかに子供染みた態度をとっていると考えさせられ恥ずかしい。



 それから次々と料理が運ばれてくるが、食事の雰囲気は最悪だ。

 しかし、そんなことは気にならないのかマリアはずっと話しかけてくる。


「……マリア、食事中は静かにしろ。マナーを習ってないのか?」

「――ううっ」


 また泣きだすマリアを相手にする気もなく放置する。


「ユリウスどうしてマリアばかりに辛く当たるの?」


 何故?だとしたらあなたはどうしてリーネに辛く当たったのですか?そう問いただしても母は回帰前の出来事を覚えていない。

 この場に回帰者は俺以外はいない誰にもわかってもらえないだろう、早く王宮に帰りたい。帰って誰かと分かち合いたい。

 そうしなければ回帰自体が自分の妄想ではないかと不安に駆られる、もし妄想ならリーネは?リーネは無事なのか?



「ユリウス君、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」



 ロジエ先生に声をかけられ我に返った、先生の心配そうな表情に対して笑みを浮かべ答える。



「大丈夫ですよ、あまりお腹が空いていないもので」


 食事のコースも終盤でメインを食べ終えた先生の前にはすでにコーヒーが用意されている。

 先生はコーヒーの匂いを味わうように飲み干すと、ナプキンで口元を拭った。


「そうですか食事も終わりましたし、そろそろ失礼させていただきますね。公爵夫人本日は夕食にご招待いただきありがとうごさいました」



「い、いえ」


「ロジエ先生、王宮に帰るので一緒にどうですか?」

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

 立ち上がったユリウスとロジエを引き止めるすべもない公爵夫人はただ静かに二人を見送った。



「お母様っ!!どうしてお兄様を王城に行くのを止めてくれないのですか!!」


「マリア……マリアにはお母様がいるでしょう?」


「ダメよ!みんなマリアのものなの!それなのにどうしてマリアの周りには誰もいないのよー!!」



 マリアは癇癪をおこすと手元のグラスを投げた。

 今のマリアは公爵令嬢とは思えない、マリアの躾について頭が痛い公爵夫人であった。




♢  ♢  ♢


「あ、ユリウスー。今帰って来たのか?探してたんだぞ!」


 馬車から降りるとクリスがこちらへ走ってくるのが見えた。


「何かあったのかクリス?」


「うん、実はアイリーネが倒れてさ、今ジョエルに――」



 クリストファーが話し終える前にユリウスは慌てて走り出した。


「あっ、ユリウス。もう大丈夫だよーって聞いてないか」



 ――今日に限って遅くなったから、こんな時に側にいられないなんて何のために一緒に城に滞在してるんだよ!


 

 息をきらしてアイリーネの部屋の前に辿り着くと扉を開け中に入る。ジョエルにシリルとイザークが突然開いた扉に反応して一斉にこちらを見た。

 アイリーネはベッドで眠っているように見える。


「なんで……前に治療したんだよな?」


「ええ治療はしましたが、効果が通常よりも劣っていたので悪夢は完全に失くなっていないのでしょう」

「なんだよそれ!イザーク、知っていたのか?悪夢はずっと続いていたんだろ?」


「はい、知っていました」

「――お前!なんで言わないんだよ!」

「アイリーネ様が望まなかったからです」


 カッとしたユリウスはイザークの胸ぐらを掴み激しい怒りをぶつけた。


「それにユリウス様はアイリーネ様の保護者ではありません」

「なんだと!?」


 大きな声を出す二人の間にシリルが割り込んできた。


「もう!ストップ!アイリーネが起きちゃうでしょ!」


 ユリウスとイザークはハッとするとアイリーネを見た。二人の声に気づかずにアイリーネは眠っている。

 


「隣の部屋で話すよ」

「私はもう少し様子を診させてもらいます」


 ジョエルを残し隣の部屋に移動するとユリウスとイザークはきまりの悪そうな顔をしている。


「先程は申しわけありませんでした」


「……いや、俺こそ悪かったな」


 二人が黙り込むと部屋の中が静まりかえる。


 静寂に耐えられずシリルは口を開いた。


「ねぇ、イザーク。アイリーネはずっと眠れていなかったの?」

「ジョエル様に治療してもらったあとは良くなっていたのですが、日が経つに連れて悪夢を見るようになったみたいです」


 自分が一番近くにいると思っていたユリウスにとってイザークだけ知っていたという事実に心が沈んでいくようだ。



「なんで教えてくれなかったんだ?」

「お兄様に心配かけたくないから言わないでほしいと頼まれてました。王宮と公爵邸の移動も大変そうだからと言われてました」

「………」


 項垂れてしまったユリウスにシリルはある提案をしてみる。


「ねぇ、ユリウス?ジョエルに失くした何かを思い出せるように頼んでみない?」

「シリル、今は俺のことは――」

「今だからだよ。今じゃなきゃダメなんだ」

「シリル?」



 そもそもユリウスにしてもアイリーネにしても前の記憶がない。普通の人間にはそんな物はない、必要ないだろう。

 しかし今の二人を取り巻く環境を考えると異様な程、前世からの繋がりを持つ人が多い。

 これはそれぞれ皆が悔いを残したことによる副作用なのか?もしくはこれから起こる何かを案じたものなのだろうか?

 ジョエルに頼んでみよう、まずはそこからだとシリルは祈りにも似た思いを込めてジョエルの元にむかった。

 


読んで下さりありがとうごさいます


クリスマスとは関係ない内容ですね

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