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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第52話 もう一人の愛し子

「おまたせしましたー」 

 扉を叩くと黒髪の男が食事をとりにきた。宿泊している二人の内の一人だ。

 平民のような服を着ているが仕立てをみればわかる、おそらく貴族だろう。俺達のようなペラペラの布じゃないおそらくお忍びか。


 店主はチラリと扉の隙間から中を覗いた。


 きっとここにいるのは全員貴族だ。気になるが関わってはいけない。貴族に関わってもいいことはない。


「では何かありましたら呼んでください」


「ちょっと待て」


 赤髪の大きな男に呼び止められた、何かへまでもやらかしたか?


 店主は震える声を気づかれないように精一杯明るい声を努めた。


「あ、なんでしょう?」


「チップだ受け取ってくれ」


 店主の手のひらに金貨が乗せられた。


「こ、こんなにもたくさん」


「ああ、ただし妙な詮索はなしだぜ?」


 赤髪の男はそう言うとニヤリと笑った。店主は得体のしれない圧を男から感じた。詮索すればどんな目に合うかわからない。


「も、もちろんです。ごゆっくり」


 店主は慌てて階段を降り一階へと帰っていった。



「父上、店の主人を脅さないでください」

「何言ってんだよ?優しくチップを配っただろ」

「いいえ、詮索すれば殺す!みたいな感じでしたよ?」

「父親にむかってひでーな、さあ食べようぜ」



 部屋に充満しているタレの匂いに食欲がそそられさっそくとばかりにリベルトは串にかぶりついた。

 ジラールはリベルトの行動に戸惑いながらも同じく串にかぶりつく。



「おいしい」


 王宮の中では味わえない料理を堪能していく。

 少しこげているタレが風味を豊かにしていると遠慮なしに食べていく。


「これもどうだ?」


 リベルトが取り出したのはワインの瓶である。見覚えのあるラベルはヴァールブルク産のワインで値が張るものだ。


「乾杯といこうか」


 ワイングラスといったお洒落な入れ物ではなくありきたりなグラスが人数分用意されると「乾杯」とグラスを上に掲げ合わせた。



「じゃあ聞かせてくれるか?」

「そうですね……まずはあの子の一度目の人生から話しましょう」

「一度目?」


「……実は私やアベルそれからリオンヌも二度目の人生なのです」

「なんだと!二度目――」



 驚愕したリベルトは隣に座るリオンヌに探るような視線をむけた。リオンヌは真実であると頷くとリベルトは長く深い息を吐き出した。



「ハァーッ、そんなに凄い話しなのか」


 酒なしでは聞けないなとリベルトはワインを注ぐと勢いよく飲み干した。



 初めは緊張した面持ちで話しを聞いていたリベルトだがアイリーネが一度目の人生で断罪された日を聞き終える頃には黙り込み憤怒の形相となっていた。

  


「父上、落ち着いて下さい」

「……落ち着いてるよ。でもな?妖精王は何がしたいんだ?俺にはアイリーネの人生を弄んでるようにしか見えねーよ!!」


「シャルロットもそうだった……」

「母上もとは?」 


 目を閉じて深いため息を吐くと決意したように目を開けるとリオンヌに確認した。

 

「ああ、シャルロットが妖精の愛し子だったと聞いたことはあるか?」

「はい、強い癒しの術を持っていたと聞いてます」



 「実はな――」とリベルトはシャルロットと出会った日について語りだした。


 

 当時リベルトは皇位継承問題に巻き込まれ命を狙われていた。暗殺者により手負いとなったリベルトは命かながら逃げていたが王家の森に差し掛かった時、剣に塗られていた毒と出血多量により意識を失った。


 目が目覚めると暖かい部屋のベッドで休んでおり傍らにはシャルロットがいた。彼女が癒しの術により自分を治療してくれたのだと一緒にいた侍従が教えてくれた。



「ここまでは多分お前も聞いてるだろ?リオンヌ」

「はい、母上に聞いております」



「……侍従が言うにはな、俺は呼吸も心音も止まっていたと言ったんだ」


「「えっ?」」


 思わず全員より声がでた。どんなに強い癒しの能力を持つ者も死んだ人間を生き返らすことはできない。

 それはタブーである、死は誰にとっても抗えないものであるからだ。

 


「ちょっと待って下さい、シャルロット様は禁忌に触れたというのですか?」


「……おそらく。その日からシャルロットは癒しの術を使う度に寝込んでいた。ペナルティが生じてたんだろうな、でもなシャルロットは必要な人がいるならと使うのを辞めなかった。だからこそ俺はシャルロットが愛し子だと知らない国に連れていきたかった!求められなかったら術を使わずに済むだろ?」



 悲痛に歪む顔で話す父にテヘカーリに戻り地位を望んだのは母の為だったのかと納得した。

 リベルトは皇位を望んでいないのに何故テヘカーリに帰ったのかと疑問だった、すべては妻の為だったのかと胸が熱くなった。 



「まあ、そんな訳で妖精王にいいイメージがない。だからといって闇の妖精を崇拝したりはしないがな」


 感情的になったのが恥ずかしいのか頭を掻ききまりが悪い顔をした。



「あれ?そう言えば陛下、ジョエルも来ると言っていませんでしたか?」


「あ、ああ。そのつもりだったのだが急用ができてな」

「急用?」


 動揺しているジラールにリオンヌは嫌な予感がした。


「何かあったのですね?」

「……城を出発する直前、アイリーネが倒れたと報せが入って――」

「えっ?そんな!」


 立ち上がり取り乱すリオンヌは今にも部屋を出ていきそうだ。


「待てリオンヌ。原因はわかっている、悪夢をみているそうだ」

「――ジョエルが治療したのではなかったのですか」

「ああ、効果はあったみたいだが悪夢自体は続いていたみたいだ」


「………」

「なあ、リオンヌ。城に客室を用意する、二人分。あの子の近くにいるべきだ」


「……わかりました。父上もよろしいですね?」

「ああ、俺みたいな得体のしれない奴が城に入っていいのか?」


「人を見る目はありますので」


 ニヤリと笑うジラールにリベルトは声を出して笑いだした。


「リオンヌ、心配だろ?このまま直ぐにでも移動できる準備は整っている」

「――陛下」


「それにリベルトは目立つ、人目につかない時間に城に入るほうがいいだろう」


「ああ、そうだな」



 リベルトの容姿は目立つ、自覚もあるのだろう。

 容姿だけではなく滲み出る皇族としてのオーラは平民に扮しても隠せていない。



 先に戻ると言いジラールとアベルは部屋をあとにするとリベルトはリオンヌの肩を抱き大丈夫だと言い聞かせる。

 

 迎えの馬車がやってくると二人は直ぐに馬車に乗り込み夜闇の中王城を目指した。

 

 

 

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