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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第51話 闇の妖精王

 日も暮れると街の酒場では体格のいい男達が酒を酌み交わしている。日が暮れてからさほど時間がたっているわけではないが、すでに酔漢で満員だった。

 入口を開けフードを目深にかぶった男二人が中に入ると酒場の店主は大きな声で叫んだ。


「お客さんもう満員でしてねー」


「飲みに来たのではない。2階の泊まり客に会いにきたんだ」


「そうですかい、二人連れの男かね?」

「ああ」


「階段を上がって奥の右側の部屋だよ」

「わかった」


 二人組の内の一人は客が食べている料理に興味があるのか食い入るよいに見つめている。


「陛……ジラール様どうかしましたか?」

「いや、美味しそうだな」


 鳥を焼き甘辛いタレをつけた串……市井では珍しくもない焼き鳥だがジラールにとっては未知の食べ物だ。

 タレが焼けた匂いが鼻腔をくすぐりお腹が空いてきたようだ。


「今日は食事をするために来たのではありませんよ」

「……わかっている」



 店主が示した扉をノックすると中から見知った顔をのぞかせた。



「ようこそ、陛下」


「ああ、リオンヌ。それから……」


 安価な木でできたベッドから立ち上がった人物はテヘカーリに多くみられる赤い髪と王族に現れる金の瞳を持っていた。


「リベルトと呼んでください、国王陛下」


「では私のこともジラールと」



 握手を交わすと手から伝わる力強さ、高い身長に広い肩幅とリベルトの恵まれた体格と圧倒的なオーラにクーデターの立役者であるのも納得である。前アルアリア国王と変わらぬ年頃であるが若々しく見えた。



「そんなに情熱的に見られると照れるじゃないですか」



 目尻にシワを寄せ笑うリベルトにそう言われるとジラールは自らの不躾な視線に気づき謝罪した。



「いや……こっからは敬語はなしでいいよな?」

「いえ、こちらは年下ですので、リベルトはそのままで結構です」

「そうか?じゃあ座ってくれ」


 リオンヌは背もたれのない木でできた丸い椅子を二人分用意すると、父の同じくベッドに掛けた。



「何が聞きたい?」リベルトの言葉に「まずはテヘカーリについて」とジラールは答える。



「テヘカーリについてどう聞いている?」


「闇の妖精を崇拝し闇の魔力の研究をしている。あとは赤髪が圧倒的に多く一部の国以外とは国交がない、ぐらいですかね」


「まずはこの絵本を知ってるか?」



   「闇の魔力を持つ少年と妖精」

 そう書かれた絵本のページめくり内容を確かめる。

 

「これは?」

「テヘカーリの始まりだ。この絵本の通り闇の魔力を持つ少年が初代の王だと言われてる」


「ではこの妖精というのが闇の妖精の王?」


「ああ、この本には続きがある」

「続き?」


「王と妖精はこのあと周辺諸国から攻められたんだよ、だから闇の魔力で対抗した。逆に国を大きくして帝国と呼ばれるようになると、食料を調達する国以外とは国交を絶った」


「今でも闇の魔力は多くの者か使えるのですか?」


「いや、アルアリアの光の魔力を使える者よりは多いが100人もいないだろうな」



 少ないといっても闇の魔力は強力で捨て身で攻めてこられたら多くの犠牲がでるのは安易に想像できる。

 ジラールは息を吐き最悪の事態を避けるための対策を練らなくてはいけないとアベルに目で合図した。



「200年前にアルアリアを狙ったのは闇の妖精王の狂信者達だ。アルアリアに挑んで失敗してエイデンブルグでは内側から壊した。愛し子の死によって国を滅ぼした」


「何故アルアリアだったのです?エイデンブルグも距離的には近いわけではないですよね?」


「アルアリアは妖精王にとって大切な国だからだ。教会の総本山で信者も多い、だからこそこの国を手に入れれば大陸の地図が変わるだろう」 


「では、今回も?今回もそのためにアルアリアを?」


「それもあるが……」リベルトは隣に座るリオンヌに一瞥した。


「陛下、おそらく大聖堂の地下に封じているものを取り戻すためではないかと」


 ジラールとアベルは息を呑み少しだけ沈黙する。




「――リオンヌどこでそれを聞いた!」


 リオンヌが本来知り得ないことを知っているのは国の重要機密が漏れている可能性を示唆している。ジラールは自分の身近な人物に裏切り者が潜んでいるのではないかと疑わなくてはいけなくなった。



「いいえ、陛下。誰からも聞いていません。200年前に関する全ての書籍や資料を読みました。そのため地下には何かが封じられていると結論づけました。それにテヘカーリでも同じく闇の妖精王が囚われているという資料も存在していました」


「そうか……」


「ここでさ、一つお願いがあるんだが教皇に会わせてもらえないか?」

「教皇にですか?」

「ああ、真相は教皇の方が詳しいだろ?それに俺にとってはシャルロットの兄だ」

「……教皇に聞いてみなければ何とも言えません」

「ああ、わかってる。それとな……」


 まだ何かあるのかと緊張した面持ちでジラールは次の言葉を待つ。


「アイリーネのことなんだが、あの子に何があったのか知りたい。リオンヌからは国にとって重要な事だからと逸らされてばっかりだ」


 リオンヌは王家の秘宝について話さなかったのかとジラールは感心した。実はリオンヌはアルアリア王家に良い印象を持っていないのではないかと思っていた。

 エリンシアもアイリーネも国の犠牲者だ、だからこそリオンヌがリベルトにも秘密にしているという事実に驚いた。


 本来ならば国の機密であるため話したりしないだろう、しかしリベルトはアイリーネの実の祖父、回帰したことを話せば完全にアイリーネを味方になってくれるだろう。それはアルアリアにとっても歓迎する出来事だ。


「わかりました、ただ話しが長くなると思いますが構いませんか?」

「構わないが……腹が減ったな、リオンヌ下に行って料理を届けるように伝えてくれ」

「わかりました」


 料理を注文するために一階に降りていくリオンヌを見つめるジラールの目が輝いている、そんなに焼き鳥が食べたかったのかとアベルは涼しい顔をしながら考えていた。








読んでいただきありがとうございます。

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