第49話 薔薇宮の庭園にて
王妃様に招待された庭園は王妃様のお住まいである薔薇宮と呼ばれる宮殿にある庭園で薔薇がきれいな庭園でした。
座っているだけで風に乗って薔薇の香りがして、王妃様は天候に恵まれた日はこうして外でティータイムを楽しんでいるらしい。
王妃様は見事なブロンドと緑の瞳が印象的な華のある女性だった。私よりも大きな子供がいらっしゃるようには思えない程、若く見える。
クリストファー様は国王陛下に似ておられるため王妃様にはあまり似ていないようだ。
私が色々と考えているとふふっと王妃様が急に笑いだす。
「ごめんなさい笑ったりして、あまりにも真剣な顔で考えているのが可愛らしくて」
「あ、申しわけございません」
王妃様の前だというのに黙り込み考え事をしているのはよくないだろう、だけど私には王妃様と何を話していいのかわからない。ううん王妃様とだけではない、私は決められた人以外には会う機会は少ない。いつもシリル様やお兄様がいるから会話には困らなかったんだ。
「アイリーネ様……アイリーネちゃんと呼んでも大丈夫かしら?」
「あ、はい」
「そうだわ、イザークも一緒に座りましょう」
「えっ……私は護衛ですので……」
「あら?そんなこと言っていいのかしら?イザークの小さな頃の話しでもしようかしら……」
王妃様は可愛らしく首をかしげるとイザーク様を笑顔で見つめた。
諦めた顔をしたイザーク様は新しく用意された椅子に座ると「これでご満足ですか」と不機嫌なのを隠そうともせずに紅茶のカップに手を付ける。
「そうだわ、アイリーネちゃんに聞きたいことがあったのよ」
手を顔の前でポンと合わせると王妃様は目を輝かせた。
「アイリーネちゃんは好きな人とかいないの?女の子と恋のお話しがしたいわ!アイリーネちゃんの周りには素敵な男性がいっぱいいるじゃない?……ねぇ?イザーク?」
急に話しをふられたイザーク様は驚いてしまったのか紅茶を飲んでいたが咳きこんでいる。
「大丈夫ですか?イザーク様」
「ゴホッ、申し…わけありません」
「あらごめんなさい、イザーク。そんなに反応するなんて……そんなつもりじゃなかったのよ」
「……いえ」
王妃様とイザーク様は元々知り合いなのだろうか、二人の会話は初めての人同士の会話ではない。私の視線に気づいた王妃様はニコリとされた。
「ジラールとアベルはね幼馴染なのよ。だからイザークの事も生まれた時から知っているのよ。父上のような騎士になりたいと言っていたわよね」
「……昔の話しです」
イザーク様はよく見ると耳が赤いようだ、小さな頃の話しが恥ずかしいのかしら。
私と目が合ったイザーク様はコホンと咳払いをすると王妃様に尋ねる。
「そのような話しをするためにアイリーネ様をお誘いになったのですか?」
「あら、大事なことでしょう」
「……そうでしょうか?」
「アイリーネちゃんもいずれ誰かと婚約するでしょう?貴族社会では政略結婚もあるかもしれないじゃない?」
イザーク様は政略結婚という言葉が気に入らないのか眉をひそめた。
「……政略結婚などユリウス様がお許しにならないでしょう」
「そうね……銀の貴公子あらため腹黒貴公子ですものね」
「腹黒?お兄様がですか?お兄様はとってもお優しいのに」
「まあ、アイリーネちゃん。それはアイリーネちゃんだからよ?」
「他の人には違うのですか?」
「アイリーネちゃん、あなたのお兄様と陛下の話しをあなたに聞かせてあげたいわ。そうすればわたくしの言っている意味がわかると思うの」
「王妃様、リーネに余計なことを吹きこむのは辞めてください」
聞き覚えのある声に振り向くとお兄様にシリル様、クリストファー様がすぐ側に立っていた。
お兄様は口角は上がっているが目が笑っていない、シリル様とクリストファー様は苦笑いをしている。
「あらやだ!ちょっとイザークあなた三人が近づいてきているとわかっていたのでしょう?わざと黙ってたのね?」
「………」
イザーク様は無言で紅茶を飲んでいる。無言ということは肯定だということだろう。
「母上、何をしているのですか?急にアイリーネを呼び出したりして」
「アイリーネちゃんとお話ししたかったのよ」
「それで俺が腹黒でしたっけ?」
「聞いていたのね……間違ってはいないでしょう?」
「………」
お兄様と王妃様はお互いに笑顔を貼り付けたままむかいあっている。お兄様、王妃様にそのような態度は不敬ではありませんか、大丈夫なのでしょうか。
お兄様の態度に心配になってきた。
王妃様はお兄様に近づくと耳打ちをし何かを伝えている。そうするとお兄様は不機嫌になっていった。
「だって腹黒でしょう?あの子に他の選択肢がないようにしていない?あなたは回帰前と合わせるといい大人でしょうが、あの子は違うでしょう?」
そう王妃に言われると言葉を失った。違うと言いたいが実際はそうなのだろう。リーネを諦めるなんて出来ないから俺以外の選択肢なんて気付かないで欲しい、そう願ってしまう。
「わたくしはね、あなたが嫌いとか憎いとかはないのよ。ただあの子には自由に生きてほしいと思う」
「………」
お兄様と王妃様の間に流れる不穏な空気に静まりかえっていると、それを打ち破る大きな声がする。
「あ、やっぱりいたーっ!アイリーネだ!」
私の名を呼びながらこちらにむかい走ってくる人物がいる。その少女はサラサラのグリーンライムの髪を揺らしながら私の目の前にやってきた。
走ったあとの乱れた息を整えながら期待に満ちた眼差しでこちらを見上げている。
この髪の色はこの国に一人しかいない、今年4歳になるコーデリア王女殿下だ。
「コーデリア王女殿下ですか?」
「違うわ」
「えっ、違うのですか?」
驚く私に王女殿下はこう告げた。
「正確にはあっているわ、でもアイリーネにはコーデリアじゃなくてポポと呼んでほしいの」
「ポポ?」
「そうよ!!」
いくら本人の希望とはいえその通りにしていいのだろうか、判断に困り王妃様を見ると頷いておられた、かまわないということだろう。
「ポポ」
「アイリーネ!!」
何故だろう名前を呼んだだけなのに胸の奥が熱くなる。
希望通りに呼ぶと目の前の少女は口角をあげてニッと笑った。
読んでくださりありがとうございます!
王妃様とお兄様は仲が悪いわけではありません




