第48話 王妃の回想
もうしばらくは王宮にとどまるようにと言われたが特にやる事もなく退屈になってしまった。
決まっていることといえば食事の時間とジョエル様による診察のみであとは自由にといわれても、特別な趣味もない。
教会に通うのもしばらくはお休みするようにといわれている。神聖力を実際に使う訓練も禁止となってしまった。
お兄様も忙しいようで公爵邸と王宮を行ったり来たりしている。お兄様と過ごせる時間が少ないのは淋しいがいずれ公爵となるお兄様には学ぶことがたくさんあるのだろう。
私の退屈な時間を察知したかのように扉をノックする音がすると私の世話をしてくれている王宮の侍女が対応してくれた。
イザーク様は私が関わる事の全ておいて敏感になっているようで、今も眉をひそめ警戒をしているように見える。
「アイリーネ様、王妃様よりティータイムのお誘いがございました、いかがいたしましょう?」
「お受けいたします。準備しなくてはいけませんね」
「そうでございますね、早速準備いたしましょう」
一応私に聞いてくれてはいるが王妃様のお誘いを断る者などいないだろう。
公爵邸より持ってきた薄いブルーのワンピースに着替えるとハーフアップに同じくブルーのリボンがつけられた。ふと鏡を見ると悪夢による睡眠不足の為か顔色が悪い。この服の色はダメだったかな鏡に映る私に小首をかしげてみる。
失礼しますと侍女は頬にほんのりと色をつけると顔色が明るく見えた。
「本来ならばまだお化粧はなさらなくても充分でございますが、公女様がお顔の色を気にされているようでしたので……」
「ありがとうございます」
こうして私は王妃様のティータイムへ参加するべく会場となる庭園へ歩きだした。
わたくしの名前はステファニア・アルアリアこの国の王妃である。今日は王宮に滞在しているアイリーネ・ヴァールブルク公爵令嬢をティータイムにお誘いしたので少し緊張しているようだ。
あの子は本当に母親であるエリンシア王女によく似ている、わたくしがシアと呼ばれる王女と初めてお会いしたのは当時王太子殿下だったジラールの婚約者に選ばれ王宮に呼ばれた時だった。
公の場に出ることの少ないシアは感情に乏しい少女と記憶している。その理由はあとから知ることとなる。
ある日のこと事件がおきた、王宮に勤める侍女が自身の子供を事故で亡くしシアに未来がわかるのではないか、どうして教えてくれなかったと詰め寄り取り押さえられた。
「私は全能ではありません」
いつもと変わらぬ声でそう言ったのを今でも覚えている。取り抑えられ泣き叫ぶ侍女を見ても彼女は顔色一つ変えなかった。
ジラールが言うには彼女の能力にあやかろうとする者は少なくなく、だからこそ彼女は感情を表にだすのを手放したのだと。
だからこそリオンヌ様といる時のシアがとても幸せそうに微笑んでいるのを見て安堵したのを覚えている。彼女にも年相応の部分があるのだと。
そんな二人が駆け落ちをして10日余りで連れ戻された。
シアは家族とも距離をおき接する機会も少なく出産後に暗殺されるまでわたくしには彼女の考えが理解できなかった。
暗殺された後ジラールがわたくしに告げた
「シアは自分の死でさえも予知していたのだろう」
という言葉を聞くまでは。
わたくしはその言葉に衝撃をうけた。もしわたくしが彼女の立場なら愛する人と別れ生まれたばかりの我が子をおいて死ななければならないなんて。そんな未来を知りながらうろたえることもなく過ごせるだろうか。
そしてリオンヌ様が帰国されジラールから聞かされた真実はわたくしの想像を上回るものであった。
「王家の秘宝を使った。回帰の儀式を行ったのだ」
嘘を言っているのではないかと疑った、しかしジラールの態度は真剣そのものでわたくしは妙に納得してしまったのだ。
ある時を境に遠い目をするようになり、継いだばかりの王位を何十年も過ごしたかのような夫、時折目を疑うように大人びた顔をするクリス。
そしてローレンスとコーデリアが生まれた時に見せた異様な程に喜ぶ二人、それらを思いかえすとわたくしの中の小さな違和感は失くなっていった。
わたくしは王妃という立場でありながらジラールやクリスによって守られていた、そう嘆くわたくしをジラールはローレンスがある程度成長したら告げるつもりだったと教えてくださった。
確かにもしローレンスが生まれる前に事実を聞いていたのなら、精神的に病んでいてもおかしくなかったかも知れない。
わたくしは何度目かのため息を吐くとかけられた声に背筋を伸ばした。
「王妃様、公女様がお見えになりました」
「わかりました」
目の前に現れたのは薄いブルーのワンピースに身を包むピンクの髪の少女、美しいカーテシを披露する彼女はすでに小さな淑女だ。
「ようこそアイリーネ様。どうぞお掛けになって?」
「はい、招待いただきありがとうございます」
王妃様は薔薇がお好きだそうで本日のティータイムの場所である庭園には薔薇がたくさん植えられていた。
特に赤い大輪の薔薇は見事に咲いており庭園までの道のりを華やかに演出している。
案内された場所のテーブルには王妃様であるステファニア様が優雅な微笑みを携えて座ったいた。
「ようこそアイリーネ様。どうぞお掛けになって?」
「はい、招待いただきありがとうございます」
王妃様とのティータイムが始まろうとしていた。
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